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【書籍化・コミカライズ】婚約破棄した相手が毎日謝罪に来ますが、復縁なんて絶対にありえません!  作者: 櫻井みこと


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 そうして、翌日。

 サーラは侍女の手を借りて、ルーフェスが手配してくれたドレスに着替えた。これから彼と一緒に宮廷に赴き、皇帝であるレナートに、エリーレが遺した日記を見せるためだ。

 エリーレの日記をレナートに見せるかどうか。昨晩、ふたりで随分と話し合った。

 その結果として、こうなった。

 悲しみは増すかもしれないが、後悔は減るだろう。

 サーラがルーフェスに見せた理由と、同じだ。

 ふたり連れ立って宮廷を訪れたことに、レナートは驚いたようだが、快く対面してくれた。

 サーラが正装していたせいか、何かを期待したように上機嫌だったレナートだったが、ルーフェスがエリーレの日記帳を手渡すと、顔色が変わった。

「……これは」

 彼もまたルーフェスと同じように、一目でこれが最愛の恋人の筆跡だとわかったようだ。

「昨日、サーラが屋敷の図書室で見つけてくれました。……妹が遺した

日記のようです」

「……」

 レナートは最初の一ページを開いたまま、しばらく動けずにいた。

 エリーレが何を思っていたのか、知るのが怖いのだろう。

 彼は、エリーレもまた彼のことを深く愛していたことを知らない。

 伝えることができずに、消えてしまった想い。

 それを知ってほしくて、サーラはレナートを促した。

「どうか、読んでみてください」

「……わかった」

 その言葉を受けて、レナートは覚悟を決めたように日記帳に書かれた文字を辿っていく。まるで、傷がついたら価値がなくなる宝石を扱うかのように、丁寧にページを捲っている。

 その姿に、彼のエリーレに対する、今も変わらない愛を感じる。

 そうして、エリーレの想いが書かれていた箇所に辿り着いたようだ。

 レナートは彼女の名前を呼びながら、その日記帳を抱きしめた。

「エリーレ。愛してくれていたのか。君を愛するあまり、苦しめることしかできなかった私を……」

 レナートの瞳から、涙が零れ落ちる。

 深い悲しみの中にも、愛する人に愛されていたという喜びが込められていて、サーラは安堵する。

「妹は、幸せでした。きっと、最後まで……」

 仲良くしていたマドリアナに毒を盛られていたと知らないまま、彼女は愛する人に愛され、必要とされている喜びに満ちていた。

 苦労はしたかもしれないが、それもすべてレナートの傍にいるためだと思えば、耐えられたのだろう。

(わたしにはわかるわ。だって、わたしもそうだもの)

 サーラは、隣にいるルーフェスを見上げた。

 彼の傍にいるためなら、リナン王国にいたときと同じようなことになっても、きっと頑張れる。

 ルーフェスは妹の願いを叶えるために、この帝国に戻ってレナートを支えたいと申し入れ、彼は喜んでそれを承諾した。

 皇太子の婚約者だったエリーレの死の真相が解明したため、謹慎を解いたという形にするようだ。

(……よかった)

 エリーレも安心するだろう。


 彼女の日記は、形見としてレナートに渡すことになった。彼はそれを持って、地下牢に幽閉していたマドリアナに会いに行ったらしい。

 彼女は蒼白になったあとに泣き崩れ、死んでエリーレに謝りたいと言っていたらしい。

 マドリアナの心からの謝罪を聞いて、レナートは彼女を処刑ではなく、流罪にすることにしたようだ。

 エリーレは、マドリアナを友人だと言っていた。優しかった彼女が、極刑を望むとは思えない。それにルーフェスが繰り返し、罪は法律の中で裁かれるべきだと言い続けていたことも、彼が踏みとどまった理由になった。

 ピエスト侯爵は、娘が犯した罪の責任を取って引退することになった。

 元々、前皇帝の側近だった彼の力は、新皇帝になったあとに少しずつ衰退していた。この事件をきっかけに彼の派閥は崩壊し、リナン王国とのいざこざもあって、帝国内はかなり騒がしくなっていた。

 ルーフェスも、ますます忙しくなっていた。

 彼の謹慎を解くことを、レナートは正式に発表した。

 今でも最愛の恋人であるエリーレの兄ルーフェスを、皇帝は今後、重用するだろう。

 ピエスト侯爵がいない今、それを妨げる者はもういない。

 彼の周辺に人が群がるようになり、元々人嫌いのところがあるルーフェスは、かなり疲弊しているようだ。

 そんなある日。

 サーラはルーフェスとともに、レナートに呼び出された。

 彼もまた、以前よりも疲れた顔をしていたが、心なしか穏やかになったような気がする。

 そんなことを思っていたサーラに、レナートは語りかける。

「公爵家の当主がいつまでも独身では、何かと不都合だ。私に遠慮せずに、婚約だけでも先に発表してしまうといい」

「えっ……」

 驚いて顔を見合わせるルーフェスとサーラに、レナートは、あの時はその報告だと思っていたと言って笑う。

 エリーレの日記を渡したときのことのようだ。

「でもわたしは、リナン王国出身で、あのお父様の……」

「今はティダ共和国の定住許可証を得たのだろう。どこかの帝国貴族の養女になれば、何も問題はない」

 もちろんふたりで、いずれはそうしたいと話し合っていた。

 でもリナン王国との問題が片付くまでは、許可は下りないと思っていたのだ。

 それに皇帝のレナートは、生まれる前の我が子を失ったばかりだ。

 そんな時期に、側近のルーフェスが婚約してもいいのだろうか。

 サーラは戸惑ったが、どうやらリナン王国との問題に、レナートは本格的に取り組むようだ。その前に、サーラの身の上をきちんとしておきたいという事情もあるらしい。

「幸せが、いつまでも続くとは限らない。その手の中にあるうちに、しっかりと掴むべきだろう」

 でもそんな彼の言葉には、愛する人を永遠に失ってしまった悲しみと、せめてルーフェスだけは幸せになってほしいという願いが込められていて。

 それが伝わったから、ふたりは静かに頷いた。


 その日からサーラは、ロードリアーノ公爵家当主の婚約者として、忙しい日々を送ることになる。

 マドリアナの流罪によって皇妃が不在になってしまったレナートは、側妃だった女性を正式に皇妃に迎えた。

 毒を盛られ、さらに子どもを失ってしまってずっと体調を崩していた彼女だったが、ようやく公務に復帰することができるまで回復したようだ。

 サーラはその皇妃の実家の養女になり、ルーフェスと正式に婚約することになった。義姉となった皇妃は穏やかで優しい人で、サーラのことも快く迎え入れてくれた。



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