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【書籍化・コミカライズ】婚約破棄した相手が毎日謝罪に来ますが、復縁なんて絶対にありえません!  作者: 櫻井みこと


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 どこか夢見るように、ふわふわとしていた彼女の視線が定まり、彼女はルーフェスを見つめた後に、そっと目を閉じて俯いた。

「わかっているわ。レナート様はもう、わたくしに会いに来てはくださらない。わたくしを許さない。あの方の最愛の女性を、奪ってしまったから……」

 涙が零れ落ちて、冷たい床の上に小さな染みを作った。

 こんなにも悲しげに泣いているのに、彼女に後悔しているような素振りはなかった。

 罪を悔いているのではなく、自分の境遇を憐れんでいるのでもない。

「どうして、エリーレを殺した?」

 ルーフェスの問いかけに、マドリアナはすぐに答えなかった。

 沈黙が続く。

 サーラはそっと、ルーフェスの背に手を添えた。

 自分の妹が殺されてしまった理由を知るのは、とてもつらいだろう。

「……許せなかったの」

 どのくらい、時間が経過したのだろう。

 やがて彼女は、ずっと秘めていた思いを吐き出すように、強い口調でそう言った。

「わたくしがどんなに望んでも得られなかったものを、簡単に手にすることができるのに。それを、あの子は素直に受け取ることもせずに頑なに固辞していたわ。それが、どうしても許せなかった……」

 マドリアナの瞳に、深い絶望が宿る。

 それはあまりにも昏く深く、見ているだけでその闇に引きずり込まれてしまいそうだ。

「エリーレが、いったい何を」

 ルーフェスは困惑していたが、サーラにはわかってしまった。

 彼女がエリーレだけではなく側妃まで毒殺しようとした時点で、何となく気が付いていたのだ。

「それほど、愛していたのですか?」

 マドリアナは、サーラの呼びかけに何度も頷いた。

「……ええ。愛していました。レナート様を、誰よりも」

 レナートにとって、マドリアナは政略結婚の相手に過ぎない。

 本当に愛していたのはルーフェスの妹エリーレで、彼女のことだけが大切だった。

 でもマドリアナは、そんなレナートを愛していたのだ。

 その手を地に染めてしまうほど、深く。

「もしエリーレが、レナート様のことを愛していたら。レナート様に愛されるという喜びを素直に受け取っていたら、わたくしもここまであの子を憎むことはなかった。でも、エリーレは……」

 マドリアナが切望し、そして得られなかったもの。

 レナートの愛を一身に受けたエリーレは、それを辞退し続けていた。 

 後ろ盾がないという、ただそれだけの理由で。

「……罪を、認めますわ」

 言葉をなくして立ち尽くしているルーフェスの前で、マドリアナはぽつりとそう言った。

「エリーレとリアンジュに毒を盛るように指示したのは、わたくしです。

侍女は、わたくしの指示に従っただけ。父も、関係ありません。覚悟はできています。どうかわたくしを、死罪にしてくださいませ」




 マドリアナとの面会を終えたサーラとルーフェスは、地下牢から宮廷内にある宛がわれた部屋に戻った。

 あんな話を聞いたあとに彼をひとりにする気にはなれなくて、サーラは自分の部屋ではなく、ルーフェスの部屋に一緒に行くことにした。

俯き、ソファーに座り込んだままのルーフェスに、そっと寄り添う。

 妹の死因が他殺だったというだけでも衝撃的なのに、仲良くしていた相手に憎まれて殺されてしまったのだ。

 エリーレが、レナートと婚約しなければ防げた悲劇。ルーフェスはそう思って、自分を責めている。

 レナートもきっと同じだろう。

 同行した騎士が、マドリアナの証言をすべて彼に報告しているはずだ。

(でも……)

 サーラは思う。

 エリーレは本当に、ただ義務だけで耐えていたのか。

 そしてマドリアナから向けられる悪意に、まったく気が付かなかったのだろうか。

 自分と違って、エリーレは婚約者にも家族にも愛されていた。

 もし彼女が本気で嫌がっていたら、レナートもルーフェスもそれを強要することはなかったはずだ。

 王国と帝国の差はあるかもしれないが、妃教育もかなり厳しい。

 ただ義務だけで、それに耐えていたとは思えない。

 それに、マドリアナから向けられた悪意に、まったく気が付かないほど鈍感な女性ではなかったように思える。

(私は彼女を知らないから、予想でしかないけれど……) 

 マドリアナに憎まれていることも、周囲から勝手に期待され、また勝手に疎ましく思われていることも、すべて受け入れていた。

 そして自分の意志で、レナートの傍にいることを選んだ。

 そう思えてならない。

 エリーレもまた、レナートを愛していたのではないか。

 だが、確証もないのに故人の想いを勝手に代弁することはできない。

 今のサーラにできるのは、ただルーフェスの傍にいることだけだった。


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