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尽きることのない悔恨が、その言葉から溢れ出ている。
彼はルーフェスの妹を、本当に心から愛していたのだろう。
それほどまで大切だった人が病死ではなく、殺されてしまったのだと知ってしまい、レナートは公平無私な皇帝でいることができなくなってしまったのだ。
「どうして、彼女の仕業だとわかったのでしょうか」
ルーフェスは平静を保っているように見える。
でも、平気なはずがない。
(傍にいるから)
そんな想いを込めて、そっと彼の手に触れる。
サーラは完全に部外者だが、ルーフェスの傍を離れるつもりはなかつた。彼もそう望んだからこそ、わざわざサーラの部屋にレナートを連れてきたのだろう。
「すべて、説明する。つらいかもしれないが、聞いてほしい」
レナートは何度も言葉に詰まりながら、事の経緯を話してくれた。
始まりは、今から四年ほど前のことだ。
婚約者だったエリーレが亡くなり、その兄のルーフェスも失踪してしまった。
ひとり残されたレナートはしばらく塞ぎ込んでいたが、もうひとりの婚約者のマドリアナが、彼を献身的に支えてくれた。
彼女の父であるピエスト侯爵はエリーレを敵視していたが、マドリアナ自身は不思議とエリーレとも仲が良かった。
このときのレナートはそう思い込んでいたし、実際に生前のエリーレも、彼女とよくふたりだけのお茶会をしていると話してくれていた。
だから、そう信じてしまった。
大切な友人を失ったと嘆き悲しむ彼女だけが、自分の悲しみを真に理解してくれていると思い込んでしまったのだ。
ルーフェスも、もういない。
レナートがエリーレとの思い出を語ることができるのは、マドリアナだけだった。
そうしてエリーレが亡くなってしまってから半年が過ぎ、レナートは皇帝である父の命令で、彼女を皇太子妃として迎えることになった。
本当は、エリーレと挙げるはずだった結婚式だ。
たった半年で、彼女を忘れられるはずもない。
父の命令とはいえ、レナートには苦痛でしかなかった。
マドリアナは皇太子妃に相応しく、人前ではしあわせそうに微笑んでいたが、レナートの前では同じように、エリーレを思って涙を流していた。
あれほど愛した人を、すぐに忘れる必要はないと言ってくれた。
「父にはわたくしから、上手く言っておきます。ですから、心配なさらないでください」
そう言ってくれたのだ。
半年ほどは形だけの結婚になってしまったが、そんなマドリアナだったからこそ、レナートも少しずつ彼女のことを受け入れることができた。
だが結婚してから二年が経過しても、ふたりの間に子どもを授かることができなかった。
マドリアナの父であるピエスト侯爵は焦っていたが、こればかりはどうすることもできない。
やがて、後継者ができないことを心配した皇后の願いで、皇帝はレナートに側妃を迎えるように命じた。
エリーレでなければ、誰だって同じことだ。
もともと婚約者がふたりいたこともあり、レナートはあっさりとそれを受け入れた。
マドリアナも表面は穏やかに、側妃を迎え入れてくれた。
だが、それからさらに一年後。
レナートの子を妊娠していた側妃が、何者かに毒を盛られて危篤状態になるという事件が発生する。
手を尽くして側妃だけは救うことができたが、残念ながら子どもは亡くなってしまった。
皇太子の子を殺害した罪は大きい。
皇帝の命によって宮廷中の人間が厳しく取り調べを受け、とうとう犯人が判明した。
それは何と皇太子妃マドリアナの侍女で、彼女は主の命令によって、皇太子妃とのお茶会に訪れた側妃に毒を盛ったのだと証言したのだ。
もちろんマドリアナは涙ながらにそれを否定し、父のピエスト侯爵も娘を全力で庇った。
側妃に毒を盛った侍女は、マドリアナの幼少の頃からの友である。
すべて、主を思うばかりに暴走してしまった侍女の仕業だった。
そう結論が出そうになったが、レナートは結論を急がせずに、さらなる調査を命じた。
お茶会で出された紅茶に、毒を入れた。
その手口に、引っ掛かるものを感じたからだ。
エリーレもよく、マドリアナとお茶会をしていた。
体調を崩すようになったのは、それからまもなくではなかったか。
レナートは牢に捕えられた皇太子妃の侍女を詰問し、事の真相を問い詰めた。
そうして自分がマドリアナに見捨てられたことを知った侍女は、とうとう彼女の命令で、エリーレにも毒を盛ったと薄情したのだ。
それは今回側妃に盛った毒のように即効性があるものではなく、少しずつ身体を弱らせてしまう類のものだった。
エリーレはマドリアナとお茶会をするたびに、毒物が身体に蓄積して弱っていった。一時期体調が回復したのは、マドリアナに会わなくなったからだ。
あのまま静かに静養していれば、毒からは完全に回復し、彼女が命を落とすことはなかったのだ。
それを知ったレナートは絶望し、そのままマドリアナを地下牢に捕えた。
エリーレを友人だと言い、涙を流していた彼女こそが、エリーレを殺害した真犯人だったのだ。
たとえ彼女が皇太子妃でも、自分の妻でも、絶対に許すことはできないと思った。




