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第8話



「つまり君は正真正銘の男で、我々に女性であると勘違いされた挙句にこのエイラに女装を強要された為に抵抗していた所を、ボクに見られたと――――つまりはそういう訳だね」


「まさしくその通りだ」


 オレは女物のドレスを着けながら簀巻きにされた状態でアレイの言葉に頷く。



「そうか、それはすまなかった。このエイラは何というか、コスプレが趣味の変な奴でね」


「ぶいっ」

 アレイに指摘されたエイラは手でブイサインを作る。


 ……いや、まったく褒めてないんだが。



「その、まあ可愛い子を見つけたら手当たり次第にコスプレさせるという傍迷惑な性質を持っていて……つまりは何だ。本当にすまなかったよ」


「魔が差してやった。反省はしていない」


 アレイに頭を押さえつけられながら頭を下げるエイラだったが言動からみて反省の色など微塵にもないようだった。



 ……くそッ、この女。おぼえとけよ。



「まあそれはもう良いからさ。いやよくねーけど。一先ずオレのこの縄とか解いてくれないか。さっきから食い込んで痛いんだけど」


「食い込んで痛いとか、……エロい」


「こら、エイラ、反省しないか! いや、すまん。こういう奴で……」


「対象がオレだからあまり良い気分はしないが、確かにこの状況で痛みに呻く姿がちょっとエロいってのは納得だからあまり叱る気分にならんな。許せる」


「君も大概だな」


 そう言いながらアレイはオレを解放してくれた。



 普段、間違われて痴漢される側だから冤罪と言うのは新鮮ではあったが……、出来れば金輪際無しでお願いしたいものである。



「じゃあ後で男物の服は用意して貰うとして。色々聞きたい事があるんだけど、良いか?」


「ああ。迷惑掛けたお詫びだ。何でも聞いてくれ」


 アレイはそう言って頷く。


 異世界転生に置いて情報の入手機会は非常に貴重なものになる。



 本来は先程のように断片的に入手していくような形も有り得るが、このように情報入手イベントをきちんと設定してくれるならこれ以上、ありがたい事はない。



「まずこの国にライトノベルが何故栄えているのか、それがダンジョンとどういう関係にあるのか、その辺を詳しく聞かせて貰えないか?」


 この世界にライトノベルがある――――これはもう間違いない事実であろう。


 だが存在するからと言ってそれをオレが容易に入手出来るかと言えば別の問題のようだ。



 先程、アレイはライトノベルは簡単には売りに出されないと言っていた。


 つまりは金で解決出来るような問題ではないのだ。


 そしてライトノベルはダンジョンを攻略する事で手に入る、とも。


 もしそれが本当であるならば、オレの目的は少し変わってくる事になる。


 オレは基本的にライトノベルさえ読めれば後は何だって良いという人間だ。



 ライトノベルが読めるのであれば別にこの世界に留まっても構わないとすら思っている。



 当然、ダンジョンを攻略するよりも日本でライトノベルを購入する方が難易度としては間違いなく低いに違いない。


 しかし、日本に帰れるまでライトノベルにありつけない日々よりは帰る手段を探しながらライトノベルも同時に入手していく方が正直、ありがたい。


 この話次第によってはオレの目的にある程度の差が生じるのは当然の事なのである。



「そう言えば君の国でもライトノベルが栄えていると言っていたね。君の国でライトノベルがどういう位置づけにあったのかは分からないが、ボクらの国でライトノベルと言えばダンジョンを攻略する事でしか手に入れられないお宝中のお宝なんだよ。この国に住む者達がダンジョンに潜る目的は十中八九、それに違いないんだ」


「お宝中のお宝。いや、待て。どうしてダンジョンなんかにライトノベルが置かれているんだ。魔王だか何だかが人を引き寄せる為にラノベを置いた、なんて事じゃないだろうな」


「魔王? 大昔のなんだか色んな事をやった極悪人の事だね。君の国でどう伝わっているか知らないけれど、魔王なんてとっくの昔に討伐されているよ。今は夢物語の中の存在さ」


「え? じゃあ何でライトノベルがダンジョンの中になんてあるんだよ」


 またも立ち返る疑問に対してアレイは真顔で答えた。




「そりゃあライトノベルがダンジョンを形成したからさ」


「え?」


 オレはそんなの当たり前だろ、とばかりに言うアレイに対して疑問の声を上げた。



 ライトノベルがダンジョンを形成?


 そりゃあ、何、何? どういう事?



 オレの困惑するような顔を見てアレイは困ったように言う。



「君はまさか魔力の存在も知らない、とか言い出すんじゃないだろうね?」


「いや、それはかろうじて知っている」


 さっき見せて貰った魔法があるなら魔力もあるのは当然だ。


 ライトノベルの設定上、それらは対になって然りだ。



「じゃあ文字が魔力を持ち、魔力を持った文字が遂には自我を持つって言うのは?」


「――――は?」


 何その設定?


 オレがアレイに聞いた話ではこうだった。



 百年近く前の事になる。


 この世界に一冊の本がやって来た。


 その本はどうやら「ライトノベル」と呼ばれる本で、「日本」と呼ばれる異世界より齎されたものであるらしかった。



 しかし、この世界で「文字」と呼ばれるものは魔力を帯び、その集合体であるライトノベルはやがて高い魔力と自我を持ち始めた。


 自我を持ったライトノベルは自身を読む者を「選定」し始めたのだ。



 自身が課した試練をクリアする事が出来る者にこそ自分を読む「読者」に相応しい、と。


「つまりライトノベルは読者への課題として《ダンジョン》を形成したんだな」


「そう言う事だね。各本の持つ魔力量に左右されたダンジョンの攻略難易度はそれぞれ違うけれども。それはそれとして彼のかのちからはそれからも多くのライトノベルがやって来た。訪れたライトノベルにすっかり魅了されたボク達はダンジョンに潜ってはライトノベルを探し、そして読む為に日夜戦っているという訳だね」


 もう一度言うが何その設定。


 しかし、この話について突っ込みどころは他にもある。



「なあ、ライトノベルは日本語で書かれているよな? 何で昔の奴らは読めたんだ? それまでは文化として他の言葉が発達していたりしたんだろ?」


「日本語って言葉は知っているのかい? ……まあ君の話す言葉は流暢だったし、それは知っていて当然か。しかし君は妙なところに気が付くね。そうさ、当初、ボク達は日本語で書かれたライトノベルなんて読む事は出来なかった」


 だが――――アレイは言った。


 この世界へと訪れたのは「ライトノベル」だけでは無いのだと。



「君は『神託士』と呼ばれる職業を知っているかい?」


「いや?」


「これも知らないのか。いや、構わないさ。神託士は彼の地より神託を受け取る人たちの事さ。つまり彼の地より日本語って概念の他に文化、価値観、技術など様々な事を受け取る、言わば神の言葉を伝える者達の事だね」


 要するに神託士はこの世界に日本語を教える教育係みたいなものらしい。



 こいつらのお陰で日本語を理解出来たこの世界の住人はライトノベルを読む事が出来るという訳だ。



 ……そりゃあ日本語が通じる訳だな。



 しかし、オレ達が知らない間に日本に通じる知識、様々なものが流出している訳だが。


 これって知的財産権の侵害とかにならないのかね。


 なる訳ないか。ここ、異世界だし。


 聞いたところ、日本から流入されているのは言葉だけでなく、太陽暦やお金の単位を始め、様々な概念が持ち込まれているそうだ。



 技術については可能なモノは持ち込まれているそうだが、余りに技術レベルが高いと「彼の地にしか通じ得ない技術の産物」という定義が為されるとか。



 異世界なのに日本の文化がそこかしこに広まる世界。



 それがこの異世界という訳だ。



「…………」

 さて置き。オレは一つの疑問に行き当たる。


 先程、アレイはライトノベルがこの地にやってきたのは百年前だと言っていた。



 しかし百年前、日本にはライトノベルなんて存在していない。


 一体何処までがライトノベルであるのか、という定義は置いておくとしても、ライトノベルの歴史は一九七十年代に入ってから生まれたものだ。



 よって百年前のライトノベルというのはそれだけで矛盾が生じている。


 しかし、彼が嘘を吐いているとも思えない。


 そこでオレは一つの仮説を立てた。



 オレの住んでいた日本と異世界とでは時間の隔たりがあるのではないだろうか。



 何だかよく知らないが、地続きでないこの異世界にやってくるライトノベルというだけでファンタジーなのだ。



 なれば数十年の歴史であるラノベも百年前にタイムスリップしておかしくはない。


 幾らなんでも想像が突飛だと思えるかも知れないが、オレが異世界に来ている時点で「非現実的」だと言う主張は意味を成さない。



 そして、時間の概念、つまりは四次元的な考え方をするのであれば、オレの脳裏には一つの期待が生まれた。



 もしかしてオレの知っているライトノベルより少し先の、未だ出版されていなかったライトノベルもここに訪れているのではないだろうか。



 ――――この過程がもしも的を得ていたとすれば、それはまさに……、




「まさにラノベ好きにとって楽園、聖地じゃねぇかあああああああ!!」


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