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第7話



「……ん? ここは?」


 はたと気が付くとオレはベッドで眠っていた。



 知らない天井だ……、などと脳内でお決まりの台詞を呟いた後、

「……ん?」

 やけに身体が重い事に気付いた。




「おはよう」

 身体が重い原因は知らない女の子が身体の上に跨っている事が原因で間違いなかった。



「…………」

 ひとまずオレの上に表情一つ変えずに跨る女の子をしずしずと観察する。



 金色の髪をツインテールの形に縛った女の子は幼さの残った表情を浮かべている。何処と無く気だるげで大きな瞳を半分閉じているかのような眠そうな目をしていた。



 着ているのは白と黒を貴重としたふりふりのメイド服。ニーソックスを着けて絶対領域を作っている辺り抜かりないと言って良い。滑々の太腿が作り出す奇跡の如き空間はどんな男でも一撃で落としてしまえそうなくらいの魅力が詰まっている。



 そんなメイド服姿のロリ系無表情娘がオレの身体の上に鎮座ましましているのだ。



 少しの間、状況整理に努める中、ようやくオレは合点がいく。





「成程。おはよう、妹よ。まったくとんだ夢を見ちまった。気付けば異世界に転生しているとか、訳の分からない触手生物に襲われるとか、甚だ訳の分からない事に巻き込まれる変な夢だったよ。だが、それも許そう。だってオレにこんなに可愛い妹が出来たんだから」


「妹、違う」

 オレに跨る少女は無表情のままに首を振った。



「何? 妹じゃない、だと? おかしいな……オレのライトノベル的脳内データベースによれば妹と言えば、主人公が起きた途端に馬乗りで跨っている、馬乗りと言えば妹だと相場は決まっているんだが……。成程、考えてみればオレに妹はいなかった。失敬失敬。それで、うちの両親はいつ離婚して、いつの間にやらこんな可愛い女の子の娘が居る相手と結婚したんだ? 親父かお袋か、そんな事は些細な問題に過ぎない。義理の妹が出来た事こそが最も重要な案件なのだから」


「義理の妹でもない」

 ふるふる、とまたも首を振る女の子にオレはとうとう途方に暮れてしまった。



「そんな馬鹿な。妹のステータスが無いにも関わらず馬乗りで跨ったと言うのか。そんな事は神に対する反逆、理の捻じ曲げ、神をも恐れぬ行為だぞ」


「この状況で驚くどころか、そんな事を口走るとは、あなた、中々出来る」


「男の上に跨りながらそんな冷静な事を口走れるお前も中々のものだと思うぞ」


「男? あなたが?」


「ああ。オレは男だが?」


「その格好で?」


「格好? うお!?」

 女の子に指摘されたオレは自分の格好を確認する。



 いつの間にやらオレは眼前の少女のメイド服姿に負けないくらいのふりふりのドレスを着ていた。いや、待て! うおッ、これ、まさか下着も着けているぞ!?



 女装した男の上にメイド服姿のロリ少女。


 ふむ……これは完全に犯罪臭のする光景であろう。



 取り急ぎこれが一体何事かと考える。



 確かここへは服を調達する為にやって来たんだ。



 メルエスタの街の中、賑わう繁華街とは少し外れる形で建っていた景観の良さそうな宿。



 その宿に少年とやって来たオレは「少しの間、話をしてくるから部屋で待っていてくれるかい?」という少年の言葉に従って先に部屋へと入ってからベッドに横たわり……。



 それでいつの間にか眠ってしまい、起きたらこうなっているという訳だ。



「待て。この格好、貴様が着替えさせたんだな?」


「…………」

 金髪ツインテの女の子はこくり、と頷く。



「じゃあオレが男である事も知っているな」


「……似合っている」


「オレは自分が男にも関わらず着たドレスが似合っているかどうかを気にしている訳ではない。何で男のオレにこんなふりふりのドレスを着せたのかと聞いているんだ」


「……? 似合う、から? 可愛いよ」

 いや、だから可愛いかどうかなんて聞いていない。



 しかしながら、このままでは何が起こっているか判断するのは難しい。



 一先ず置いておいて状況把握に努めよう。



「成程。この状況を整理すると、だ。まずこの宿にはオレと一緒に来た少年、その友人が働いていると聞いてやって来た。お前はその友人で間違いないな?」


 少女はこくこく、と頷いた。



「オレの目的は服の調達だ。何故宿に来て服を、と思っていたがお前を宛てにしていたと言う事で何となく納得した」

 ここで少年の認識にも些かの疑問が見受けられるが、それも置いてこう。



「オレが女物の下着を着けていると言う事はお前は間違いなくオレのそれを確認した筈だ。何故、オレに女物の服を着けさせたのか?」


「可愛いから」


「ちょっと待て! それは一体なにが可愛かったと言ってるんだ? ナニか、ナニが可愛かったと言っているのか!? 返答次第でオレのコンプレックスを抉る事になるぞ!?」


「…………」

 そこで今まで無表情だった女の子の顔が少しだけ赤く染まる。



 いや、違うんだ! 確かにオレは標準より成長が遅いという自覚はあるが、それでもまだ成長の可能性はある。男らしく育つのはまだ先の事。今はまだ焦るような時ではない。



「男の尊厳が著しく削り取られたが……。それはそれとして、お前は何故馬乗りになっていたんだ?」


「ライトノベル的に考えてお約束だと思って」


「しかし、お前は妹属性を持っていない。それなのに――」


「わたし、お兄ちゃん、いるよ」


「貴様は分かっている。褒めてつかわす」


 さすがはライトノベルブームになっている街だ。



 こんな女の子にまで教育が行き届いているとは……ッ、中々にレベルが高いではないか。



 女の子は馬乗りの状態から降りると、ベッドの空いているスペースにぺたん、と座る。

 オレは取り合えず上体を起こすと、彼女に言った。



「取り合えずオレが男で、女物の服がおかしいと言うのは分かってくれたか? オレが少しだけ……ほんの少しだけ男性ホルモンに欠けた男だという事は理解しているが、それでも女物の服はきつい。迅速に男物の服を貸してくれると助かる」


「やだ」

 金髪幼女はそんな残酷な事を無表情のままに言ってのける。



「待て、金髪ツインテ無表情系幼女よ。貴様が中々にラノベに精通しているのは数々のお約束をこなしているところからも伺える。しかし、ちょっとだけ男らしくない顔付きをしているだけのオレに女物の服を宛がうのは性別と言う古来からの理に反している。ここは男には男物の服を渡すのが当然ではないだろうか」


「やだ」


「……ふー、成程、心得た。つまりは実力で掛かって来い、そういう事だな」


 ファンタジーな世界に身をやつしてまだ然程時間は経っていないものの、それでも守るべきものがオレにはある。


 そんなオレの決意を知ったのか、金髪幼女はファイティングポーズを取り一言、

「かかってこい」

 と無表情のままに言ってのけた。




「分かった。分かったよ、……このオレが男だと言う事をお前のその未発達の身体に心底教え込んで、最後には泣き顔でも見てやるよぉおおおおおおお!!」


「ファンタジーだと思ってた男の娘を守る為にわたしは戦う……ッ」




 ――――十分後。



「エイラ。どうだい? 彼女の着替えは――――って何だ、何事だい!?」


「「はッ!?」」


 気付けばオレと金髪ロリ少女は取っ組み合いの末にお互いの服を殆ど毟り取っていた。



 そんな状況をいきなり入ってきた先程の少年に見られて二人して固まってしまう。



 当然、オレは半裸になっていて、出るところは出てしまっていた。



「君は……えっと、ん? ……男、……か?」


「おい、オレのそれを見ている癖に疑問系になっているのは何故だ? 事と場合によっちゃみっともなく泣き喚く準備がオレには出来ているぞ」


 そんなにオレの男性ホルモンについて言及したいなら良いだろう。


 相手になってやるぞ! 男としてな!



「つまり君は男で、少女の服を剥いて襲い掛かっている変態という事で良いのかな?」


「マジ、すいませんでした。本当に反省していますんで通報とかは待って戴けますか」


 異世界転生しておきながら警察やら自治組織やらのご厄介になるとかは避けたい。


 そんな時だった。



 オレと取っ組み合っていた金髪ロリ少女――エイラはと言うと、勝機を見つけたとばかりににやりと笑った。



「あ、アレイ、助けて。この男が、『おらおらァ! ここまで女に変装してやって来て良かったぜ。お陰でこんな幼いロリ少女を好きに出来るんだからなぁ!』と言ってわたしに不埒な真似を――――」


「て、テメェ! なんて卑怯な!」


「その手を放せ、外道め! 成敗!」



 アレイを名乗る少年の容赦の無い目潰し攻撃はオレに思考の判断を奪うと共に形勢を一気に逆転され、女物のドレスを再度着せられた挙句に部屋に転がされるのだった。


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