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第5話


「……酷い目にあった」


 どうにか触手から脱出出来たオレはため息を漏らす。



「結局は助けられたんだし良かったじゃないか」

 少年はあっけらかんとしながら言う。



 ナイフを投げ渡す際、上から投擲してすっぽぬけた時は触手に蹂躙された挙句、死ぬのも覚悟したものだが、その投擲したナイフが偶然にも触手の根っこの所に当たったのは本当に運が良かった。


 お陰でモンスターが痛みに呻く中、そこから手早く逃げる事が出来た。



「正直、礼を言う気にはなれないが……、お前のお陰で助かった。一応礼を言っておこう」



「君は素直なんだね。悪かったとは思っているけど若干心が傷つくよ」




 オレの言葉にしゅんとする少年。


 その仕草に何というか若干の可愛らしいさを見つけてしまう。



 ……先程、こいつの事を格好良い主人公のようだと思ったのは勘違いだったが、ショタ系の主人公って感じならもしかしたらいけるのかも知れない。



 どうにかモンスターから逃げ出したオレ達は森から抜け出す為、木々や草木がひしめく中をさっきのような魔物に警戒しながら歩いているところだった。


 そんな中、ふと少年がオレに対して尋ねてくる。



「ところで君はあんなところで何をしていたんだい? あんな森、馬鹿でも無ければ潜り込まないと思うんだけど」

 少年がそんな事を不思議そうに聞いてくる。



 こいつ、その発言だと自分も馬鹿だと言っている事に気付いているのだろうか。


 とは言え、そんな事よりここは上手く返しておくのが良いだろう。



「いや、えっとな。色々あって迷子になってしまって……」

 まず異世界からやってきた、なんて事を言ってもまず信じては貰えないだろう。



 それに変な事を言って何かしらを疑われてしまっても不味い。


 ここは言葉を濁す事でどうにか乗り切ろう。



「迷子? と言うことは最初からこの森にやってきたと言う事かい? それにしては何にも持っていなし、格好もおかしいような……」

 少年がじっとオレの方を見る。



 下着一枚になったオレは少年が着ていたローブを貸して貰う事でかろうじて猥褻物陳列罪的な格好から逃れているものの、それでも多分、この世界では浮く格好なのだろう。



「いや、まあ、大丈夫かなって。それより、お前の方はどうなんだ? 何でこんな所に?」

 オレはまたも誤魔化しながら、少年の方へと話を振る。



 少年はその事に何ら疑問を持つ事なく質問に答えてくれた。



「ボクは近くのダンジョンへと行ってきた帰りでね。今から街の方へと戻るところなんだ。その時、森から悲鳴が聞こえたような気がしてやって来たんだけれど……。まあそんな所で君に出くわしたと言う訳だ。それよりもこの森はそう危ない魔物は出ないと聞いているが、それでも最低限の装備はした方が良い。今後は気を付けてね」


 怪しい格好をしたオレに対し、心配してくれている辺りこの少年は善人なのだろう。


 無警戒な所は考え無しと言うか馬鹿と言う気がしてならないが。


 それはそれとして少年は今、結構重要な事を言っていた。



 ――――ダンジョン。



 その一言で色んな事が汲み取れる。


 この世界はダンジョンが存在している。それにこの少年はその帰りだと言っていた。



 つまり、この世界はダンジョンに気軽に潜る事が許されており、また、ダンジョンに潜るメリットが存在するのだ。



 ダンジョンに潜るメリットは幾つか考えられるが、まず真っ先に思いつくのがダンジョンに眠るお宝の奪取や湧き出るモンスターから素材やら何やらを戴いて、それを売って生計を立てる手段の存在。恐らくはそんな所だろう。



 異世界転生した者が日々の生計を得る為に考えられる手段は幾つかあるが、ダンジョンに潜るのは比較的コストの掛からない手段の一つだ。作風によっては命が幾つあっても足りない系のダンジョンというのも存在しているが、目の前のポンコツ少年がダンジョンに行けると言う事は大した難易度では無い事も伺える。



 先程の戦闘で魔法が存在している事は分かっているので、オレのような身分不確かな者にとってダンジョン攻略に乗り出すのが一番、金を得るのに手っ取り早いのだろう。


 それに近くに街があるらしいから後は街に行って細かく情報収集すれば良い訳だ。


 日々の生活について何となく見通せたところでオレには様々な疑問が振ってわいた。


 例えばこの世界の言語はどうなっているのか、などだ。



 先程は命の危機もあってか、少年が現れた時、普通に会話出来ている事に何の疑問も湧かなかったが、異世界転生系物語に置いて絶対に触れられている装置の一つだ。



 世界が違うと言う事は言語も違うのは当然だ。その点については色々な作品でその疑問を解決してきた訳だが……。



 今回、この世界に置ける言語については些かの疑問が残る。



 何故ならこの少年、間違いなく日本語を喋っているような気がするからだ。



 当然、異世界転生する際の女神だか神様だかから授けられた謎パワーによってオレの認識が入れ替えられた可能性は捨てきれないが、それならそれで神様との面会イベントみたいなのが挟まれても良い筈だ。


 だがオレは何のイベントが起こる事もなく異世界に放り出されている。


 こんな不親切な異世界転生が有り得るだろうか。



 作品の質によってはそう言うことも有り得るだろうが、普通は触れる筈だ。


 その辺の疑問は尽きないが、これは後回しでも良いだろう。



 それよりも先に解決しなければならない事がある。



「あの、一つ聞いて良いですか?」


「何だい、そんな風に改まって。なんか敬語を使われると背中が痒くなって来るから溜め口で構わないよ。ボクは助けた事に対して恩に着せようなんて思ってないから」


「助けられたのは間違いないが、そんな風にお前が少しでも思っている事についてはどの面下げて言ってんだって感じなんだが。まあ、敬語を使わないで良いってんなら助かるよ。オレも実際は敬語なんて苦手だし」


「それより聞きたい事ってのは?」


「ああ、そうだった」


 少年の言葉にオレは再度、聞きなおす。



「オレ、実はすげー遠いとこから来たんだが、帰る手段ってないか? 魔法とか使ってさ」

「帰る手段? 普通に歩いて帰るとかじゃ駄目なのかい?」

 オレのふわっとした質問に対し、少年は疑問を口にする。



「歩いて帰れないような場所なんだ。と言うかその帰る場所が分からないって言うか……」

「よく分からないけれど……。もしかして魔法でここまで来たって事? だから場所が分からないから帰れないとか?」


「ああ、つまりはそんな感じだ。なあ、どうにか帰る手段ってないか?」


 どうにか理解してくれたらしい少年は顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。




「えっと……つまりは魔法で来たからには魔法で帰れば良い訳だから……、分かんないけど多分、あると思うよ」


「ん、それはどういう事だ?」


 『分からないけど、ある』? 何だその曖昧な言い方は。

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