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第4話

 少年は正にライトノベルで言うところの主人公のようであった。


 オレのピンチに登場した事は勿論、彼の見た目は疑いようもなくイケメンのそれだった。


 碧色の瞳に透き通るような肌、整った顔立ち。何処か中性的ながら凛々しさが見えているのも主人公としてポイントが高い。



 白銀の短髪にローブを着込み、ローブの下には鉄製の胸当てがちらりと覗き、革製の軽装具も伺える。腰には短剣を差しており、彼の得物はそれに間違いないようだ。



「どうしたんだい、人の顔をじろじろと見て――――って、おっと」

 少年は触手が迫っているのに気付くとひょいっとその場から退く。



「君も速く逃げて!」

 そしてオレに触手が迫っているのに気付いたのかオレを軽々と持ち上げると、そのまま自分へと抱き寄せた。



 触手から逃れたオレだったが少年に抱き寄せられた先、そこで態勢がいわゆる『お姫様だっこ』の形になっていた事に気付く。



「大丈夫かな? 怪我はないかい?」

 少年は主人公に相応しいイケメンさでオレの安否を心配する。



 そんな彼に向かって、オレは堂々とこう言った。


「――――チェンジで」

「……は?」

「いや、だってさ? よくよく考えたらこの状況、お前が主人公ならオレってヒロインだよね。ライトノベル的に考えて。それ、キツくないか? ふつー、異世界転生したんならオレって間違いなく最強の存在であるべきじゃん? それが美学じゃん。異世界転生って言ったら転生者はチートで強くて最強な訳よ。それが何? 森で半裸にされた挙句、ヒロインにされちゃったとか、そんなの受け入れられないよ。そんな訳でチェェエンジ!!」


「ちょッ!? 君、何言っているんだ!?」


「それはそれとして助けてくれてありがとう。マジ助かりました、こんな所で死ぬとかホント無いわって思ってた矢先の事だったんでホント嬉しかったです!」


「君、どういう事なんだ? 変な事言ったり、礼を言ったり、まさか頭とか打ったのか!?」



 オレの様子に混乱する少年。


 いや、まあオレの言動に混乱するのは当然だと思うけれど。



 でも言うべき事は言っておく。脚本に嘘は吐かない。



 それがライトノベル読みとしてのオレの唯一にして絶対のプライドだ。



「ま、まあ……無事? みたいだし、……後で街の医者に見て貰うと良いよ……」

 少年はどうやら引いたようだったが、ゆっくりとオレを地面に下ろすと触手植物モンスター(?)へと対峙する。



 そして少年はモンスターに向けて、右手をゆっくりと前へと向けると、口を開く。


「緑の奥地、その深遠に身を置きし魔物よ、我が右手を見よ……ッ」

 お、……おおお!?



 少年のそのそれっぽい前口上と共に空気の震えをオレは直に感じた。



 まさか……これは……!?



「我が身体の内に眠る膨大なる魔力よ……その力を今、ここに顕現せしめよ。一つ、二つ、三つ……魔力の紡ぎし十二の時、今ここに陣を敷き、奴らに破壊の音を聞かせたまえ!」

 詠唱(?)する少年の周囲から火花のような力強いナニカが漏れ出ているのを視認する。


 つまり……これは、――――魔法!?



 そのラノベでは腐る程見た光景ではあったものの、実際にそれを見るとやはりそのスケールと迫力には圧倒されるものがあった。



 そして少年は右手を左手で支え、魔力の奔流を制御するべく腰を落とす。



「さあ、ボクの全力を喰らえ……ッ、『爆』破ッ!!」

 少年の魔力の奔流が頂点に達した時、遂にその攻撃が放たれる。


 閃光を思わせる光が眼前に爆ぜたかと思えば、魔物を飲み込むべく炎が広がった。



 それはオレが見知った魔法と呼ばれるモノで間違いなかったのだろう。


 その迫力、威力共に申し分無かった。



 ――――但し、それが当たればの話であったが。



 爆発は魔物とは見当違いの方向、つまり右方向斜めに放たれ、その膨大なエネルギーは魔物ではなく木々を押し倒す為の、言わば自然破壊の方向へと使われていた。



「あ、あの……」

「あ、あれ、しまったな……」

 その微妙な空気にどう声を掛けたものかと首を捻り、当の少年は苦笑いを浮かべている。



 魔物の方はと言えば、触手の一端さえ爆発に飲まれなかったのかピンピンとしており、元気に触手を右往左往と伸ばしきっていた。



 その内、触手の一端が勢いよく伸び、少年を無視してオレの方を狙ってきた。



「ちょ……まッ……なんでオレに……!?」

 触手はオレの身体の隅々に伸びるとまたも空中に投げ出すようにして掴まえた。



「あっ、ちょっと君! こうなったら仕方無い! 『爆』破!」

 オレが再度掴まえられた事に焦る少年は再度、右手を掲げて魔力の奔流を飛ばす。

 しかしながら、その力強い奔流はまたも森林伐採の方へと使われる。



「『爆』破! 『爆』破! 『爆』破! もういっかい――――『爆』破!」

 何度となく放たれる爆発の閃光は全て明後日の方向へと放たれる。それどころか、その一つはオレの方へと飛んできて、モンスターが咄嗟の判断で触手を逃がさなければ、オレはジューシーな焼肉となってその生涯を終えていただろう。



「ちょ、ちょっと、あんた! おい、どうなってるんだ、殺す気か!?」

 そのオレの怒りに少年は気まずそうに頬を掻く。



「いや、はは……ボク、実は魔力のコントロールが苦手でさ……、真っ直ぐにモンスターへの攻撃が出来なくて……こんな感じに……」


「コントロールが苦手ってレベルじゃねーだろ! もう少しで恩人どころか憎い仇になるとこだったぞ! って言うかあんた、さっき長々と前口上言ってたけど、見ている限り、言わなくても出来るんだよな?」


「えーと……、まあ、その……、自分でもさっきの登場の仕方は格好良いと思っていたからね。今日は行けると思ったと言うかつい出来心と言うか」


「チェンジ」


「あッ、ちょっと何でさ! ボク、せっかく君を助けたのに! それに結構頑張っていただろう!? そんな風に言われる筋合いは無いよ!」


 少年はオレの言い草に抗議すべくわちゃわちゃと腕を動かす。



「頑張って人を爆殺されちゃ適わないんだよ、こっちは! じゃあ、その腰に下げている短剣使って助けてくれ! 触手から離れたら、こいつから逃げるぞ! どうせ、こいつ、ここに根を張っていてここから動けないタイプのモンスターなんだろ!?」


「え、でも……ボク、実は刃物の扱いも苦手で……」


「じゃあ何の為に腰に下げてんだよ、それ!」


「格好良いからかな」


 えっへんと胸を張る少年に対し、オレは一つの結論に達した。


 ――――間違いなくこいつは駄目なタイプの奴だと。




「もう良いから。自分で脱出するからナイフを投げて寄越してくれ! そっと、そっとだぞ! 変な投げ方したら間違いなく明後日の方向にいって、モンスターに当たって怒らすみたいな事がお約束なんだからな、お前みたいな奴の場合!」


「酷い事を平気で言うな、君は! ……ボクは別に逃げてしまっても構わないんだけどな」

「ああッ、お前、そういうこと言うのか!? 最低だな、この鬼畜やろ――あ、ちょっと待って! そろそろ服がマジで溶けてきた! ごめん、ごめんなさい! 謝るから、マジで助けて下さい! ほんとお願いします!」


「任せてくれ。ではボクの爆破魔法で――――」


「そのノーコン魔法は止めろ! 早く、早くナイフを貸してくれぇええええええ!!」

 着ていた服が下着を残して全て無くなるまで、触手から逃れる事は出来なかった。

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