第47話
「まだだ――――『火』の『槍』よ、彼らを『貫』きたまえ!」
魔力文字の三重詠唱により出現する真っ赤に燃える槍は幾つもの束となってオレへと襲ってくる。
オレは剣を握り締め火の槍を斬りおとしながら、尚もレインハルトへと近づいた。
「『火』に重ね『火』、『炎』となりて我が『壁』とならん!」
レインハルトの言葉に魔力は真っ赤な炎となってオレの目の前を遮った。
しかし、オレには何故かそれを突破出来るような気がした。
『断』の文字に力を篭める。光り輝く文字を握り締め、オレは炎の中を突き進む。
「炎を……斬っている?」
信じられないような表情を浮かべるレインハルトへと接敵していく。
レインハルトへと懸命に近づく中、ふと、とある事がオレの頭を過ぎる。
――――何故、オレはライトノベルを好きになったのか、と。
思い出してみればオレは逃避がきっかけであったように思う。
始めは自分に何の才能も無い事が嫌だった。
オレは小さい頃から身体が小さかったし、運動神経も大して良くはなかった。
だからかけっこでもビリだったし、運動部に入っても活躍するなんて事は一回も無かった。
いつの間にかオレは頑張る事を止めていた。
頑張る事を止めたオレはライトノベルに出会った。
ライトノベルの主人公は皆が皆、格好良くてヒーローでそれでいて「主人公」だった。
自分を中心にして物語が展開する。
オレもこうなりたかったと願う時期があった。
いつの間にかライトノベルを読む事は逃避などではなく、人生の主題にまでなっていったが。
それでも最初の頃は主人公になる為の代替としての読書だったのだ。
そう――――オレは主人公になりたかったのだ。
さて、今この状況はどうだろうか。
魔法の剣を手にして、炎を斬り進みながら進む今の姿。
背にはオレを応援してくれる仲間。
負けたくない理由を背負い戦うオレ。
これは――――主人公に違いないのではないだろうか。
幼い頃からの夢を果たす姿。
まるでライトノベルの主人公ではないか。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
気合を吐きながら炎の中を進んでくるオレに対し、レインハルトは笑ってみせた。
それは勝利を確信した笑みではない。
勝利を獲る為に覚悟を決めた笑みだ。
彼は叫んだ。
「テンドウ君! その力、敵とするに相応しい力だ! 今、私は君を好敵手として認めよう!」
だが、と彼は言葉を続けた。
「勝つのは私だ!」
魔力の奔流を目視する。
レインハルトの周囲が真っ赤に染まった。彼は言葉を紡ぐ。
「『火』に重ね『火』、『炎』となりて『槍』を成し、我が宿敵を『貫』きたまえ」
炎の槍が現出する。
数え切れない程の数が空中に浮かび、そして一斉にオレへと向かってくる。
「おおおおおおおおおッ!!」
剣を握り締め、炎の槍の尖端を交わす。
「!?」
だが、その感触は今までと変わっていた。
濃い魔力の奔流が迸る。
今までの力では斬り飛ばせない――――
「もっとだ! もっと、力を!」
オレは剣へと更に魔力を篭める。
魔力を篭められた剣は更に強く、光り輝いた。
「レインハルト!」
オレは自然、叫んでいた。
「勝つのはオレだ!」
「小癪なぁああああ!」
レインハルトが生み出す炎の槍はオレを押し返すべく放たれる。
とうとうオレは一歩を踏み出せなくなった。
「ツバキ君!」
背に仲間の声を感じた。
背に仲間を背負って戦う感覚。
なんだよ、オレってば主人公っぽいじゃん。
などと思ってる場合ではない。
――――だが、切り札はある。
今の状況では諸刃の剣かも知れないが、使うしかない。
それに十分に近づいた。今ならギリギリで当たる。
「『壁』から『口』、『椿』から『木』を分解する――――」
剣の輝きがみるみる内に減っていく。
魔力を他に回しているからだ。
炎の槍が一斉にオレを貫くべく狙っているのが分かった。
しかし、オレはここで止まる事が出来ない。
勝利を掴む為にリスクを背負うのは当然の事だから。
「『力』を加えて再構成――――」
槍が一斉に放たれた。
剣で迎え撃つが魔力が足りないのか押し返される。
だが、吹き飛ばされる前にオレは秘策の為に最後の言葉を紡ぎだした。
「敵を捉える為の戒めの『枷』とせん!」
言った瞬間、オレは槍の勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。
だがオレは言い切った。
紡ぎだした言葉から膨大な魔力が放出されていく。
魔力はオレの言う通りの形となって、レインハルトを捉えるべく向かっていった。
「なッ、これは――――魔力の……『枷』? 君はそんな言葉を持っていなかった筈じゃ――」
魔力はレインハルトを捉え、その口をも閉じてしまう程に効果を発揮する。
そう。オレは『枷』なんて文字と契約した覚えはない。
この言葉は今、オレが作り出したのだ。
――――『分解』と『構築』。
師匠から教えて貰った禁術に当たる技。
その膨大な魔力の使用から術者にさえ危害を加えかねない諸刃の剣。
更にオレの魔力量はまだ大した事もないレベルだ。
発動するだけでリスクを背負ってしまう。
だが、それだけの価値がこの技にはあった。
膨大な魔力と引き換えに魔力文字を分解、再構成して新たな文字を作り出す方法。
生み出せたのは『枷』の文字。
相手に一定以上近づかなければ意味がなく、また相手の魔力量次第によっては躱されてしまう危険性すらあった。
だが、レインハルトはオレに勝つ為に最後の魔力を振り絞った。
アレイから貰った剣を潰す為に。
最後の最後で仲間の助けを借りる所は心許ないのかも知れないが、それもまた主人公らしいと言えばそうなのかも知れない。
「勝負有り、です」
最後の力を振り絞り、オレはレインハルトの元へと向かうとその首元へと剣を突きつけた。
その様子を見たレイネは会場中に響き渡る声で叫んだ。
「勝者――――テンドウツバキ!」
瞬間、拳を振り上げる。会場中が沸き立った。
気付けば身体中がボロボロで――――あいつら、オレのこのボロボロの姿を見て沸き立っているのだろうか。
もしもそうだとしたら、ホント駄目だな、この街の男達。
「ツバキ君!」
いつの間にかオレの元へと近づいていたアレイが抱きついてきた。
「凄いじゃないか、ツバキ君! まさかあのレインハルトに勝つなんて!」
「いや、まあオレに掛かればこんなもんと言うか……」
そこでオレはようやく気付いた。
アレイの顔が目の前にある。
そこで火照った顔を背けたオレに対し、アレイもまた顔を背け、オレから離れた。
なんだ、これ。超恥ずかしいんですけど。
「負けたよ、完敗だ。テンドウ君」
魔力の枷が外れ、立ち上がったレインハルトが握手を求めてくる。
「敗者は言葉を持たないが、今はこう言わせてくれ。おめでとう、と」
「レインハルト……」
「約束通りダンジョンの攻略の際は私を呼んでくれたまえ。ではまた近い内に」
そう言って身体を引き摺りながらレインハルトは立ち去っていく。
いや、レインハルト様負けても格好良くない?
なにあの潔い感じ。
しかもオレってばどう考えても褒められるような戦い方をしてないんですけど。
つうか普通に抗議されてもおかしくないんだけど。
それをレインハルトは素直に負けた事を認めて、そしてクールに去る。
……今からでもあの人の弟子にして貰おうかな。
うちの師匠は社会的にちょっとアレだしね。……比べるまでもないな。
「ツバキ様」
続いてレイネが握手を求めてきた。
「良い戦いでした。本当にありがとうございます」
「え、いえ……」
確かに試合前はオレに勝って欲しいみたいな事を言っていたけれど、オレ、この人に感謝されるような事をしたっけ?
「今日の戦いで負けた事に関してレインハルト様を煽れる機会を戴いたばかりか、ロリコンという事まで知る事が出来たなんて……っ、ああッ、暫くはネタに困らなくて済みそうです」
なんだか凄いことを言っている従者。
本当に真性だな、この人。
「では、いずれ」
レイネはそう言うと、レインハルトの背中を追って去っていく。
「えと、ツバキ君。今日は疲れたろ、ほら、ボクに掴まると良い。宿までちゃんと送ってやるからさ」
「ああ、そうだな。……そう言えば急に疲れが」
「え、……つ、ツバキ君! だ、誰か! あ、エイラにユリア! ちょっと来てくれ! ツバキ君が倒れて……あ、ちょっとエイラ! 写真なんか撮ってないでどうにか――ってユリア! なにをキスしようとしているんだ! そんなの神が許してもボクが許さ――――あ、ツバキ君! 白目を剥いている!? ヤバい、これは……誰か! その、助けて下さい!」
意識がうっすらと途切れる中、オレはアレイの小さいながら確かな胸の感触を感じて、少しだけ幸せな感慨に浸るのだった。
これにて第五章の決戦は終了です。
次回がエピローグとなってます。あと少しですが最後まで見届けて下さると幸いです。
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