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第45話



「――――とりゃ!」


 ビキニアーマーの胸元を掴むと更に際どい地点が見えるよう引き下げる。


 そのオレの仕草に会場がどっと沸いた。


『おっぱい! おっぱい! おっぱい!』



 太い声のおっぱいコールが会場中を揺らした。


 ……この街の人間の頭はホントに大丈夫なんだろうか。


 つうか太い声に混じって一人、関西弁の女の子が発狂しそうな感じで騒いでいたのは気のせいだと信じたい。


 そんな色々な犠牲を払っての奥の手はどうやら功を奏したのか、一瞬吸い込まれるようにしてレインハルトの視線がそっち付近に注がれている。



 おっぱいはダイソン。その吸引力は童貞にこそ最大の効果を発揮する。


 その隙を突いてオレはレインハルトの死角から短剣を叩き込むが、さすがに二度は通じなかったのか、レインハルトは距離を取る事でオレの短剣から逃れる。



「くっ、まさかその身体を犠牲に難を逃れるとは……。君も中々、策士だな」


「いえ、その……」


 罵倒されこそすれまさか褒められると思っていなかったオレは言葉に詰まる。



 この人の寛容さはホント天を突き抜けてるね。



「だが、それも誤魔化しに過ぎないよ。私との差は君が身に染みて分かっている事だろう? 君の実力は既に見切った。君が持つ魔力文字は『力』『速』『壁』、どれもあのダンジョンで倒した魔物の持っている文字だね。あとは、えと……その、女の子に変わる為の文字だ」


 最後の方だけ尻すぼみに声が小さくなるレインハルト。



 なにこの人、ちょっと可愛いんだけど。


 オレがもしも本当に女の子だったら今の様子でアウトだったかもしれない。



 それはさて置き、レインハルトの言っている事は殆ど当たっている。


 正確にはもう一つ、『椿』が残っているが、今、この文字に使い道はない。



 つまりレインハルトの言っている事は実質的に間違ってはいない。



「更に君の剣の腕は素人同然だ。そしてその短剣は安物、とてもボクの剣には耐えられない。剣の腕でカバーする事もままならない状況、君は一体どうするんだい?」


「…………」


 返す言葉もないオレに対してレインハルトは深く溜息を吐くと、そして言った。



「君には降参を薦めるよ。これ以上戦えば大小あれども必ず怪我を負う事になる。そしてそれは私の本意ではない。なにせ君は私の仲間になるかも知れないんだからね」


「……お断りします」


「そんなにあのダンジョンのライトノベルが欲しいのかい?」


 レインハルトは聞く。それに対してオレは即答した。



「欲しいに決まっています。是非とも読んでみたい」


「テンプレ、ハーレムモノなのに?」


「……ええ」


 オレはそう答えた。


 言葉を少しだけ濁したのは少しだけ疑問を覚えたからだ。



 レインハルトの言葉にはいつもの自信に満ち満ちた声色では決してなく、何処か自嘲的なものだったからだ。



「レインハルトはどうなんですか?」


 思わずオレは聞き返してしまった。


「好きに決まっているじゃないか」


 けれどね、とレインハルトは言った。



「世間の評価はそうじゃない。私がハーレムモノが好きで、初級ダンジョンに挑戦していてもそれは他意があると思われてしまう。新人いびりだのと他の理由を探してね」


 そう言えばアレイもそんな事を言っていた気が……。


 好きな事を好きと言ってもそれを信じて貰えない。


 それはもしかしたら辛い事なのかも知れない。



「元のギルドでも同じような事を言われたよ。『テンプレハーレムものよりも他のライトノベルを探しに行こう』と。私がどれだけ言っても誰も聞いてくれなかった。私はハーレムものが好きで、例えテンプレであっても構わない。私は様々なキャラクターでそのハーレムを見たいのだと言っても誰も聞き入れてはくれなかった。だから私はギルドを抜けた。自分の読みたいライトノベルを読む為にね」


「……レインハルト」


「君にも覚悟があるだろう。しかし、私にも覚悟がある。誰かにどれだけ馬鹿にされても、おかしいと言われても自分の好きなラノベを探し続ける覚悟が。その為なら!」


 そう口にしながらレインハルトはオレへと斬りかかってきた。



「くッ」


 それをオレは短剣で受ける。が、すぐに刃こぼれしてしまう。


 ……これじゃあ持たない。


 オレはまたも秘策を使おうと胸に手を掛けるが、


「二度も同じ手は喰わないよ!」


 その瞬間を待っていたのか、胸に向けてサーベルを突き立ててくる。



 オレはそれをすんでの所で躱すが、形勢は不利なままだ。



 レインハルトのその対抗策に会場中はブーイングの嵐だったが、レインハルトはそれに構う事なく剣を繰り出した。


「個性豊かなキャラクター、その魅力を引き出すイベント、そして彼女達の問題を解決すべく必死になる主人公。他に何が必要か!」


 レインハルトの太刀筋は迷いがなかった。



 ……それだけ真剣だと言う事か。



「君はどうだい? 君は私以上にライトノベルを愛しているかい? ハーレムモノが好きなのかい? ライトノベルなら何でも良いのか!?」


「オレはライトノベルが好きだ。ジャンルなんて関係ない、ライトノベルの全てをオレは愛したいと思っている」


「……ッ、そんなのはずるいよ。一つに絞れない奴に私の気持ちを越えられはしない!」


 レインハルトのサーベルが更に鋭く、オレへと迫る。



 短剣が耐えられなくなり、オレは新たな短剣を取り出した。



「確かにオレはハーレムモノ以外も大好きだ! けど!」


 残った短剣はあと一本だ。


 この剣にオレは自分の持てる想いの全てを懸ける!



「オレのライトノベル愛は他の誰にも負けていない自信がある! オレが最強のラノベ読みだ、ハーレムモノへの愛一つを取っても誰にも負けていない!」


「この……」


 剣の応酬に置いてオレは初めてレインハルトの防御を抜いた。



 短剣の攻撃は彼の肩辺りへと届き、鎧を少し傷つけただけで終わったが、レインハルトの表情がほんの少し強張った。


 それでもオレの劣勢は変わりはしない。


 短剣も応酬においてその刃が段々と零れ落ちていく。



「甘いよ! こんなものでは私の気持ちには勝てない!」


「――――違う!」


 ガキン、とオレはレインハルトのサーベルを弾いた。



「違う? 一体何の事……」


「魔力文字、剣の腕、駆け引き。その全てにおいてオレは貴方に届かない」


 だけど、とオレは断じた。



「オレはライトノベルだけなら他の誰にも負けない。だからこそ分かる。貴方のその想いには続きがある筈だ」


「続き、だと……」


「ああ。貴方の剣には迷いがある。それは想いに迷いがあるからだ」


「そんな事はない。私のハーレムモノへの想いは本物だ!」


「ええ、それは間違いない。しかし――――」


 ライトノベルのハーレムモノが好きだと言う人は少なからず居るだろう。


 だが、ライトノベルに置いて重要なのはシチュエーションだけではない。



「貴方はハーレムモノのどんなキャラが好きだと言うんだ」


「好きな……キャラだと」


「貴方の想いには続きがあると見た。ライトノベルはキャラクターノベルとも呼ばれるぐらいキャラクターを大事に扱っていく。そして貴方のその想いにはキャラクター愛が見える。オレはそれを感じている」


 ライトノベルはキャラクターへの愛が重要不可欠だ。



 一般小説との最も顕著な差異は一体なんだろうか。


 文章、展開、絵の有無、レーベルなどそれは議論に尽きない。


 だがオレの意見ではライトノベルと一般小説の差異はキャラクター性だと思う。


 一般小説でもキャラクター描写はピンキリだが、ことライトノベルに置けるキャラクター描写は既に一線を画していると言って良い。



 その徹底的なまでに先鋭化されたキャラクター描写は時に事前知識さえ必要な程となっている。



『ライトノベル好きの為のライトノベルキャラクター』とまで言われるそのキャラクター描写能力はライトノベルに置いて重要な文化だと言って良い。



 だからこそ――――オレはこう思う。



「キャラクターを語らずしてライトノベルに非ず――――レインハルト! 貴方の想いの奥底には一体何があると言うんだ!!」


 そのオレの問いかけにレインハルトはふっと息を吐き、肩を竦めた。



「まさかそこまで見抜かれていたとは……。良いだろう、とくと聞け。私の想いを!」

 レインハルトはそう言うと、息を吸って高らかに言った。



「私は――――ロリコンだ!」




 会場中がしん、と静まり返った。

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