第43話
闘技場に響き渡るような声でレイネが発した試合開始の合図と共にオレはローブを空中に投げ捨てた。
「なッ――――なんだそれは貴様!?」
次いでレインハルトが驚きの声を上げると同時に会場中がどよめいた。
闘技場の視線を今一身に受けている事を肌で感じられた。
ヤバイ――――超恥ずかしい。
顔が火照っているのが分かった。恥ずかしさを堪えるように、オレは短剣を握り締め、レインハルトへと対峙する。
眼前のレインハルトの顔は真っ赤に染まり、そして彼の視線はオレの身体へと向けられていた。
オレの着ている――――超際どいビキニアーマーを着けた身体へと。
「貴様、ど、どどどういう事だ!? 貴様はおと、男だったんじゃ――――変態か!?」
あまりの驚きに呂律が回っていないレインハルトに向かってオレは地を蹴った。
ぷっくりと膨らんだ胸が揺れるのが分かった。ビキニアーマーで押さえられて尚、揺れる胸を邪魔だと感じながらも、その様子にレインハルトが息を呑んでいるのが伝わる。
どうやら作戦は順調であるらしい。
そうでなくては意味がない。
「――――『速』き『力』を、オレに」
契約したての魔力文字を唱える。元々、魔力によって強化されていた身体能力に更に『速』さと『力』が加わる。
レインハルトとの戦力差が途轍もないものである事は分かっていた。
それがたった数日で埋まる事は無い、なんてのは火を見るよりも明らかだった。
だからオレは禁断の力に手を出した。
自分が『女』になる事で。
オレの着ている特注のビキニアーマーはエイラの伝手を使って作ってもらったものだ。
本当のところ相談するつもりで話を持ち掛けたのだが彼女はノリノリで自身の知り合いだという魔文技師――魔力文字を使った特注の装備、道具を作る者達――を紹介してくれた。
それだけではなく自らもまた製作に加わる事によってオレが考えたよりも遥かに出来が良く、且つ扇情的で恥ずかしい装備を作ってくれた。
ビキニアーマーの持つ元々の防御力に加え、ビキニアーマーの下には以前買ったスケイルリザードの鎖帷子も装備しており、それがオレの身体を更に艶かしく見せている。
極めつけはオレの魔力文字であるところの『女』だ。
『女』によって当初から男性ホルモンが少なかったオレの身体が更に女らしく強化され、この作戦に対する成功率を飛躍的に上昇させる。
こうして完成されたエロ装備を着けたオレと相対する者は誰であれその姿に隙が出来てしまうだろう。
オレが男であると知っている者であれば尚、その効果は倍増する。
なにせ本当は男である筈のオレが女になって、しかもビキニアーマーを着けて襲い掛かってくるのだ。
最初からオレを男だと見抜いた素晴らしい慧眼を持つレインハルトが抱く驚きは如何ばかりだろうか、それは彼の赤く染まった表情を見てしまえば一目瞭然である。
奇襲としてこれ以上の方法があるだろうか。
更に言ってしまえば、レインハルトは童貞である。
同じ童貞であるオレは分かる。
女の胸の揺れは童貞にとって目の毒であり、これ以上ない凶器である。
視覚的な凶器を作り出す奇襲戦法。
それがオレの秘策であった。
「ひ、卑怯だぞ、変態!」
高速で接近するオレに対し、レインハルトが喚いた。
――――変態。
その言葉が一瞬、胸へと突き刺さる。
躊躇が無かったと言えば、嘘になる。
むしろ嫌で嫌で仕方が無かった。
だって『女』になってしまう事すら嫌だったのに、それを衆目に曝してしまうのである。
ユリアに見られれば勘違いは加速するだろうし、他の奴らにこれから女として扱われるかも知れない事を考えれば身の毛もよだつ思いだ。
更に言ってしまえばオレは昔から女の子に間違われる事で被って来た苦労は他の人の比ではない。
それを開き直って女になってしまおうと言うのだ。
そんなの嫌で嫌でしょうがなくて。
恥ずかしくてみっともなくて泣いてしまいたいぐらい、ここからさっさと逃げ出してしまいたいぐらい嫌に決まっている。
しかし――――オレは決めたんだ。
レインハルトに勝つ為にはどんな手段でも取り得る、と。
――――修羅になる、と。
だから変態で結構。
男なのに女にしか見えない、という謗りも甘んじて受けよう。
それでも勝ちたいから。
勝つ為に、オレはここに来たのだから。
「これがオレの――――覚悟だぁあああああああ!!」
レインハルトの懐に飛び込んだオレはその勢いのままに彼の頬へと拳を放つ。
放たれた拳はガードしようとしたレインハルトの手を強引に跳ね除け、そのまま吸い込まれるように頬へと突き刺さった。




