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第42話


 メルエスタの街には闘技場があるそうだ。


 何でもギルド同士での揉め事はそう珍しい話では無いらしく、オレ達のように決闘を必要とするケースもあるのだとか。


 そんな時に使用されるのが闘技場で、対戦カードによっては観客も訪れるらしい。


 ちなみに闘技場の整備、運営は観客より支払われる入場料と大手ギルドによる寄付で賄っているとの事である。



「まさか君と対戦する事になるとはね、驚きだよ」


 闘技場の中央に立ったレインハルトはそう口にする。



 その姿は重厚な鎧で武装し、腰にはサーベルを差している。



 貴族らしいと言うか何と言うか所々に金箔の入った姿は見た目派手で、成金主義者のようでもある。



「てっきり私はアレイ君とやると思っていたんだがね」


「オレでは不満ですか?」


「いや。私は相手が誰であれ全力を尽くす事を旨としている。不満などはないよ。それより……」


 ちらり、とレインハルトはオレの姿を見遣る。


 ローブを羽織り、武装を隠している姿を警戒しているようだ。



「これは……まさか反則ではないですよね?」


「反則ではない。……が、それは何のつもりかね?」


「……秘密です」


 詰まるところ、これはレインハルトに対する秘策の一つであった。


 オレはこの日、何が何でも勝つつもりで来た。



 このローブはその準備の一つでもある。




「まあ……良いだろう。こちらが格上なのは君も知るところ。丁度良いハンデだ」


「ありがとうございます」


 さすがにレインハルト、懐が大きい。


 ……その彼の大らかさに付け入るつもりなのは少々、罪悪感があるが。



「ツバキちゃん、頑張ってな! ウチも応援しているよ!」


 背筋にぞくりとするものが走る。


 後ろを振り向けば闘技場で血を見たい血気盛んなむくつけき男たちが犇く中、観客席にユリアが座っていた。その隣にはエイラも居る。


 エイラはオレと目が合うと無表情のままに右手をサムズアップの形にしてみせる。


 ……ユリアは兎も角、エイラにはある頼み事をしたからな。



 そりゃあ見にも来るか。


 これから見せる秘策はユリアとの関係について更に悪化しかねないのが怖いが。



「……それよりも」


 オレは観客席の中にアレイの姿を探した。


 だが、白髪で目立つ筈の彼女の姿は何処にもなかった。



 先程、エイラに聞いてみたがやはり来ていないようである。


 ……結果さえ伝われば良いとは言え、来ていないのは少し寂しい気もする。


 まあ良い。今日、あいつは居ても居なくても良い訳だしな。



「ではテンドウ君。そろそろ時間だ」


 レインハルトのその言葉にオレは彼へと向き直った。



「ルールを再確認しよう。どちらかが降参、もしくは気絶した時点で試合は終了。殺害はご法度、事故でさえ許されないから気を付けたまえ。……とは言え君は殺すつもりでかかって来ないと私には勝てないだろうが」


 くくく、と悪い笑みを浮かべるレインハルトの言葉に頷くオレ。



 それが事実である以上、オレに疑問を挟む余地はない。



「また武器の使用、魔力文字による魔法の使用は全面的に認められる。だが、装備品を除いた魔法道具の使用は即失格だ。そのローブの下に魔法道具が無いと良いのだが」


「……問題ない」


 このローブの下に着けたのは決してそんなものではない。


 もっと危険で、もっとえげつないものである。……オレ達にとっては。



「試合開始の合図は私の従者であるレイネに行って貰う。私の従者だからと言って心配はしなくて良い。彼女は基本的にこういう事に関しては平等だ。レイネ、出番だ」


 レインハルトが声を張り上げる中、レイネがゆっくりと闘技場の中心へと向かってくる。



「先程ぶりで」


 彼女の言葉にオレは無言で会釈する。



「先程? 君たちは先に何処かで会っていたのか?」


「あ、いや……」


「ええ、レインハルト様。先程はレインハルト様が如何に面倒で愚鈍で畜生な人なのかという議題でツバキ様には私の愚痴に付き合って戴きました」


「……君は一体何をやっていたんだ」


 レインハルトは嫌そうにそう言ったが、それ以上の事を追求はしなかった。



 やはりこの人、客観的に見ても普通に良い人っぽいよな。



「では――――両者、構えて下さい」


 レイネの言葉にレインハルトはサーベルを構え、オレはローブの下で短剣を腰から抜いた。


 一瞬の静寂が流れる。


 余裕そうな表情を浮かべるレインハルトに対し、オレは険しい顔を見せる。



 それはきっと戦いに対しての緊張感――――ではない。



 そんなものではない。


 この緊張感はきっとこれからオレが失うものへの恐怖に対してのものだ。



 なにせオレはこれから今までの矜持とかプライドなんてものは全て捨て去るのだから。


 だが、悔いはない。


 それだけオレはこの勝負に懸けているのだから。



「――――試合開始」

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