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第40話




「君はレインハルトに勝てると思うかい?」


「……勝てるかじゃねぇよ、勝つんだよ」


 そうでなければオレがライトノベルを読めなくなってしまう。


 だが、オレの考えを見透かすようにしてアレイは言った。


「ツバキ君。君も分かっているだろう? 多分、レインハルトには勝てないって事を」


「…………」


 その言葉にオレは先日の光景を思い出した。


 あの悪夢みたいなモンスターであるエクスキューショナルスパイダーを一方的に蹂躙してみせたレインハルトの姿を。



 なんだあれヒーローかよ。


 レインハルト様、超かっけー。


 ……だが、つまるところあれが敵になるという事である。



 …………。




 どうやって――――勝てば良いんだ、あんなの。




「大体それが理由だよ。君じゃレインハルトには勝てない」


「おい、なんだそれ。馬鹿にしているのか、それとも喧嘩売っているのか、どっちだよ」


「馬鹿だな、君は」


「やっぱ喧嘩売ってんだな、よし買った。表出ろや、女だろうがなんだろうが、その鼻っ柱をへし折って――――」


「違うよ、ツバキ君。だからパーティを解散して、君はあのままダンジョン探索を続けなと、ボクはそう言っているんだ」


「…………」


 その言葉にオレは押し黙る。


 まあ言いたい事は大体分かっていた。



 こいつの考えも大体分かった。


 なるほど。つまりこういう事だ。


 レインハルトの事は自分に任せて先に行け。



 ……なんだよ、こいつ。ライトノベルの主人公気取りかよ。


 いや。その台詞はどっちかって言うと主人公のライバルとか他の主要キャラのものか。


 死亡フラグ立っているしな。それで生きているってパターンもあるけれど。


 とは言えどっちにしろ人気が出そうではある。



「レインハルトは君に対して悪感情を抱いてはいないだろう」


「どちらにしろオレのレインハルトに対する絶対的な尊敬は不動のものだが」


「……まあ、気持ち悪がってはいるかもだけど」



「ちょっと待て。あのレインハルト様は懐の深い男。そんな事はない」


 そんな事は絶対にない。


 ……無い、よね?



 いや、彼がオレをどう思っていたところでオレの彼に対する忠誠心は揺らがない。



「それはさて置き。ボクと君がパーティを解散し、ボクがレインハルトと戦えば、少なくとも先の約束であるところの『ダンジョンに手出しをしない』という条件は君に対して不問になるだろう。あの男はそういう所、結構甘いから心配はない。君は他に仲間を募集するなり他ギルドに入るなりしてダンジョンの攻略を進めれば良い。あのダンジョンのライトノベルが気になるなら、レインハルトに言って仲間に加えて貰うって手もある。それならあのライトノベルを読める確立もぐっと高くなる。どうだい?」


「どうだい、って……」


 アレイの言っている事は理解出来る。



 確かにある意味で正論だ。


 それにレインハルトの所に行くというのも魅力的だ。


 だが……、なんだか、スッキリとしない。



「師匠に課題を出され、君が達成した時にボクは思ったんだよ」


「何を?」


「……ボクはきっとこの先もずっと君の足手纏いになるって」


「今更か」


「うん。今更だ」


 ……、何をお前、オレの煽りを受け入れてんだよ。


 張り合いが無さ過ぎて挨拶に困るじゃねぇか。



「ボクは君をパーティに加えた。かなり強引にね。はっきり言ってそれは打算的なものだった。ボクはダンジョン探索の才能がない。自分でもそんな事は気付いているさ。けれど、だからと言ってボクには目的がある。父を探すって目的がね。冒険者としてダンジョンを攻略していけば、きっと父の創ったダンジョンに巡り合う筈だ。けれど、ボクの実力ではそう簡単には上手くいかない。だから他人を頼る事にした。ボクが優秀でなくても他の人が優秀であれば、きっとボクの目的は達せられる。それで良いんだって」


「……、なら最後まで利用しろよ。なに、お前、ひよってんだよ」


「ボクも、そう考えて、言い出そうか迷っていた。けれど、決めたんだ」


「決めたって……」



 だから何、お前そんな清々しい顔きめちゃってんの?


 恥ずかしくない、それ。



 そんな感じに一人で決めて、一人で行動して、勝手に突っ走っちゃうとか、青春系の面倒臭い自己完結型のキャラかよ。完全死亡フラグだぜ、それ。



「君、ボクのお父さんに似てるんだよ」


「お前、そういうの、気軽に言わない方が良いぞ」


 絶対勘違いするって。


 ライトノベルでも定番の高感度上昇確認台詞じゃん。


 普通に勘違いするって。止めろよ、ホント。絶対その気ないだろ、お前。



「ライトノベルが好きで好きで堪らなくて、それでいてその為ならどんな努力も惜しまないで、自分の事すらライトノベルの二の次で、それで――――ライトノベルに命まで懸けちゃうってところが、もうそっくり過ぎて引くくらいだよ」


「……そんなのこの街じゃ普通だろ」


 ここはライトノベルが流行っている街なんだ。


 そんな奴がごまんといてもおかしくはない。



「馬鹿だな。何処までいってもライトノベルは娯楽の一種なんだ。ダンジョン探索には命が懸かっているとは言え、もっと安全を重視した考え方だよ。君みたいな無謀そのものの考え方じゃない。そこまでイッちゃってない。君みたいな狂人をボク達と一緒にしないでくれ」


「えー……」


 ライトノベルが好きなだけで狂人扱いかよ。



 それ、酷くない。普通に酷いよね。



「この前、君は言ったよね。『ライトノベルに命を懸けている』って。その時にボクは君と父を重ねてしまったんだ。だからあんなに感情的になった。そして次に思ったのはこうだ。『ボクでは君を止められない』って」


「…………」


 こいつの父親は『作家』としてその命を懸けた。


 ライトノベルという崇高な娯楽に。



 だが、こいつにとってそれはどんな事よりも馬鹿な事なんだ。



「だからボクは君の面倒を見切れないと思う。だから誰かに託す。無責任だと罵って貰っても構わない。けれど、きっとボクは後悔するんだ。だから……」


「…………」


 これは無責任なんだろうか。


 つうか、オレはこいつの父親とは違う。



 オレがライトノベルに向ける愛は読者としての愛だ。


 作家としての愛ではない。一時、それを考えたとしても多分、別種だろう。


 だから、この考えはこいつの勘違いだ。


 オレはその思い違いに腹が立った。


 こいつの訳分からない、自分の考えをただ人に押し付けるだけのエゴにも。



 オレにはオレのライトノベル愛がある。


 それは誰にも邪魔させない。誰にも止めさせない。


 こいつでは止まらないんじゃない。


 誰であっても止まらないんだ。



 だから――――オレはこいつの考えを根っこから否定する。



 だが、否定する為の要素が必要だ。


 こいつを納得させる為の。



 オレがアレイという足枷を背負って尚、進めるというだけの根拠をこいつに示してやる必要があるんだ。



「なあ」


「ん? ……ああ、宿の事か。それはエイラに言って置いて暫くはそのまま使えるよう頼んでおくよ。元々はボクが巻き込んだ事だからね。ボクが責任を以って――――」


「違ぇよ、馬鹿。お前はさっき言ったな――――オレはレインハルトに勝てない、と」


「……事実だろ?」


「それが勝ったらどうする?」


「……は?」


「勝ったらさっきのお前の自分勝手でふざけた理論が破綻しているって認めるか?」


「え、あ、は? そんなの無理に決まって……」


「言ったな。言質は取ったぞ。誰が負けるだ、絶対勝ってやる。オレがお前の想像を超えた規格外の狂人で、ライトノベルに命を懸ける馬鹿だけれど――――それでも、お前というハンデを背負ってやる。背負い、きってやる。お前の言う通りにならない。お前の父親とは違うって事を証明してやるよ」



 言った直後にオレは立ち上がった。


 そしてアレイへと宣言する。




「レインハルトとはオレが戦う。邪魔はさせない」


「……ホント馬鹿だろ、君」


「ムカつくんだよ、決め付けやがって。オレは十代の若者だからな。決め付けられるのが大ッ嫌いなんだよ! 良いか、証明してやる! オレが最強のラノベ読みだって!」


 そう言ってオレは走り出す。


 後ろでアレイが何やら言っているが構わず走り続ける。



 ――――オレが最強のラノベ読みだ。



 命を懸けて――――命を燃やし尽くして尚、ライトノベルへの愛は消えない。


 そんな読者にオレはなりたい。


 オレは走り続けて気付けば足は自然とスラム街の方へと向かっていた。



 そして、オレは少しだけ躊躇しながら、一軒のボロ屋の扉を開けた。



「師匠!」


「この糞リア充、どの面下げて来やがった爆発しろ。氏ねじゃなくて死ね。女に刺されてその哀れな生涯を惨めに締めろ」


 ……どんだけ嫉妬してんだろ、この三十五歳、童貞は。


 じゃなくて。



「師匠、頼みがあって来ました」


「誰が師匠だ。テメェみたいなヤリチンに興味はないんだよ、こっちは」


「……頼みがあって来ました。お願いします」



 自然な動きだった。


 師匠がやっていたような、流れるようで綺麗な動き。


 弟子は師匠の真似をすると言うが、こんなところにも影響するのだろうか。



 オレは気付けば師匠の前で土下座をしていた。



「オレをレインハルトに――レインハルト・聖・エイレンルートに勝たせて下さい」


 恥も外聞もない。


 ただ一つの目的の為に。


「……何でそこまでする? 無理だろ、諦めるんだな」


 師匠の無慈悲な声が頭上から届く。


 オレは顔も上げずに言った。



「絶対に負けられない理由が出来たんです」


「……、オレが女版お前とヤリたいって言っても?」


 ホント社会のゴミだな、こいつ。


 しかし……、オレは誰にも止められないんだ。



「師匠がお望みとあれば」


「ばーか、そんな事しねぇよ。……顔、上げろ」


 師匠の言葉にオレは顔を上げた。



「お前の覚悟を試したんだ」


 そう口にする師匠の拳は握りつぶさんばかりに震えていて、下唇を噛みながら襲い来る衝動に耐えているようだった。


 ……三十五歳、童貞ってホントに悲しいんだな。



「分かった。だが、万に一つの勝機だ。勝つ為ならお前のプライドも矜持も捨てて、卑怯でも姑息であっても使えるものは何でも使え。良いな?」


「元よりそのつもりです」



 ――――オレは今宵より修羅になる。



 その覚悟を持ってオレは師匠の言葉の一つ一つを受け取った。



 勝利。



 その二つの文字を掴む為に、オレは前へと進み始めた。

これにて第4章が終了です。

次は決戦パートに差し掛かって来ます!

宜しければブクマや評価などお願い致します!

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