第39話
「飲むかい?」
アレイは何処からか調達したのか、焼き物に入れられた飲み物を持ってくる。
「ああ、悪いな」
オレはアレイから飲み物を受け取ると、一気に喉へと流し込んだ。
甘い味が舌へと広がっていく。
「これは……」
「うちの街の名物だよ。『イチゴオレ』って飲み物なんだけどね、赤い果実とミルクを混ぜたものだ。美味しいだろ」
「ああ、これなら知っている」
日本でも飲んだ事あるし、むしろ好物でもあった。
「飲み終わったら器はその辺の邪魔にならないところで割って捨てると良い。土で出来てるからそのまま還るよ」
そう言ってアレイは入れ物を川の辺の方へと投げる。
ぱりん、と乾いた音を響かせ割れた入れ物に習い、オレも飲み干した入れ物を同じようにして捨てた。
逃げ疲れた身体を休める為、川の土手の方へとやって来たオレ達は二人してイチゴオレを飲み終えると、ふとアレイが口を開いた。
「ところでこんな所で、しかもその格好。どうしたんだい? しかも例のテロ組織に追われていたみたいだけど、君、何かしたのかい?」
「いや、何もしてないんだけど……」
アレイからローブを借りて羽織ったオレは事の次第を掻い摘んで説明する。
「ああ、だからこんな格好でこんな所に居たのか。……しかし、ユリアか」
「なんだ知っているのか?」
「何でも何もボクらと同じくらいの歳であの娘を知らない奴はいないよ。あれに目をつけられたらそれこそ地獄まで追いかけられるから」
「……あ、そうなの」
自然乾いた笑いが浮かぶ。
……いや、マジで本当にどうしよう。
「それよりお前は師匠のとこに行ったんじゃないのか? 何故あんな所に?」
「それがね、師匠の奴、普段は引き篭もりの癖にどっか行っちゃったみたいで。それで探してたら君がテロ集団に襲われるところを見たもんだから」
「……、お前、テロ集団のリーダーは見たか?」
「見たよ。なんだか格好良い仮面を着けていたけれど。……あの仮面、ボクも欲しいな」
「師匠に言えよ。もしかしたらくれるかも知れない」
「え、ホント? ……あのケチな師匠がそう簡単に物をくれるかな。と言うか何で師匠?」
うーん、と考え込むアレイ。
……師匠の事についてはそっとして置こう。
「という事は師匠とは今後の対策が練れなかったんだな?」
あの糞童貞、ホント使えねぇな。
まあ疑っていた実力も取り合えずは本物だって分かった事は一種の収穫なんだろうが。
「あ、うん。まあね」
「なんだ、その釣れない返事は。言っとくが明日はオレも一緒に行くからな。あのアホには何が何でも今後の対策を練って貰わなくてはならん」
オレのその言葉にアレイは尚も浮かない表情をみせた。
「あー……、うん、あのさ。君、明日も寝ていた方が良いんじゃない? ほら、今日、テロ組織やらユリアやらに追われて疲れたんだろ?」
「…………」
今日の早朝に感じた違和感と同じようなものを覚えたオレは彼女の顔をじっと睨む。
アレイはオレの訝しげな視線に気付いたのか、ふいと視線を外した。
……分かりやすいな、こいつ。
「あのよ、何か言いたい事があるならハッキリ言え。そういう態度、オレはむしょうに腹が立って仕方がねぇんだよ」
ライトノベルのハーレム展開における主人公の優柔不断さでさえ快く楽しめるオレだったが、しかしこういうのはどうも苦手だ。
自分が蔑ろにされているような、そんな気分になってしまう。
そんな風に憤慨しているオレの姿を見て、アレイは諦めたようにこう言った。
「ツバキ君。ボク達、パーティを解散しよう」
「――――は?」
何やら小言でも言われるのかと思って待ち構えていたオレはその予想だにしなかった一言を受けて呆けてしまった。
その言葉に怒ったというよりも、状況が掴めないという感じだ。
にも関わらずアレイは話を進めていく。
「だからレインハルトとはボクだけで戦うよ。元々はボクが買った喧嘩だったからね。ボクが戦うのが筋というものだろう」
「え、い、いやいやちょっと待て!」
一旦話を切ろうとしたオレに対し、アレイはふっと笑った。
何だかその笑顔には諦観が込められているような気がした。
「ボクはね、ツバキ君。思ったんだ」
「いや、待て。だから何の事だ? 一からちゃんと説明しろ」
全然話についていけない。
パーティを解散して、レインハルトとはアレイが戦ってそれで……。
いや、ホントなんだこれ。
「ボクはね、元々君と相性が悪いんじゃないかって」
「……相性?」
その言葉をオレは繰り返す。
相性? 一体何の話をしているんだ。
「ああ。ボク、前に言ったろ? ライトノベルは好きじゃないって」
「それは聞いたが……」
「対して君はライトノベルが大好きだ。ほら、合わないだろう?」
「いやいや。合わないだろ、じゃねぇよ。意味が分からねぇよ。それにオレは相手が例えライトノベルが嫌いだったとしても趣味を押し付けるような人間じゃない。そんなのはエゴの押し付けだ。確かにライトノベル嫌いとか、ちょっと信じられねぇなぐらいの事は思うが、だが、それでもオレはそんな事で合わないとかパーティ解散とか考えたりしねぇよ」
こいつはオレを馬鹿にしているのか?
ここ数日でオレはこいつからそんな矮小な人間だと思われていたってのか。
「ごめん。さっきのはただの建前だ。忘れてくれ」
「忘れてくれ? つまり他に理由があるってのか? オレの何が嫌だったんだ?」
「……ツバキ君。なんだか不思議だよ。君はボクとパーティを組んでいたくないのだと、そう思っていたのだけれど。案外、そうじゃなかったのかな?」
「それは……」
そう言えば、そうだ。
何をオレはこんなに熱くなっている。
元々、オレはこいつとパーティを組もうだなんて思っていなかった。
こんなポンコツとじゃなくて、もっと優秀なパーティと一緒に冒険するつもりだったのだ。
そうすればもっと効率的にダンジョン探索を進められるし、ライトノベルも読みやすくなる。
――――なのに。
なのに何でオレはこんなに焦っている?
「……違ぇよ。ただ――」
「ただ?」
「あまりに一方的で意味が分からなかったから、それが気になるだけだ」
「まあ、そういう事にしておこうか」
そう言ってアレイは面白そうに笑った。
なんだ、こいつ。オレの男女平等パンチで歯でも折ってやろうか。
そうすればこいつもこんな馬鹿な事を言い出さなくなるかも知れない。
……なんて、パーティ解散を阻止しようと自然に考える自分がよく分からない。




