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第37話




「なんや、ウチらの逢瀬を邪魔すんなや! 三枚に卸すぞ、クソッタレぇ!」


「何を言うか、このクソビッチが。我々は彼の地の教えに従い、桃色の気を発する邪教徒共に鉄槌を下さんとする崇高な者達だ。貴様のようなビッチに我々の教えを邪魔させはせん!」


「そんな事言って羨ましいだけやろ、この腐れ童貞共が!」


「「「ど、どうてい、ちゃうわい!!」」」


 ユリアさんの煽りに分かりやすい反応をしてみせるテロ集団。



 ……悲しいなあ。



「そもそも自分らの言っているリア充って男女の事やろ? ウチらをよく見ろや、両方とも女やろ、女ぁ! その目かっぽじってよく見ろや、二つ付いているその目は節穴か!?」


 いや、節穴は恐らくお前の方だ、ユリアさん。


 だが、テロ集団はオレの方をじっくりと見て、おかしいなとばかりに首を捻った。



「……女だな。女に見える。何故だ? 間違いなく男の桃色闘気を感じたのに……」


 なにお前ら気を感じてこんな所にやってきたの?


 童貞極めるとそんな訳の分からない能力身につけられるの?


 童貞すげぇな、マジすげぇ。だが一緒にしないで欲しい。



「ほらぁ! だからここは自分らの出番じゃないんや! 謝罪した後、とっとと去れや、糞童貞共!」


「童貞ではない、我々は教えを遵守する為に敢えて、そう敢えて! 清い身体で居るだけの事。機会が無かったとか、女の子にもてなかったとかそういうのではない。分かったら我々を童貞と言うのは止めないか、この糞ビッチがァ!」


 童貞共は怒りを覚えながらも、リア充に女と女の定義は当てはまるか、などと議論している。



 ……本当に悲しいなあ、あいつら。



「これでは拉致があかん。女と女の場合、リア充に当たるのかそうでないのか。ここはリーダーに来て貰い判定をお願いしよう」



 リーダー? そういやあいつらがアレイから聞いた件のテロ集団と言う事ならそのリーダーって奴が凄腕で厄介って話だが。



「リーダー、お願いします!」


「……ふむ。こいつらか、我々の教えから逸脱する邪教徒共は……」


 出てきたのは当然男で、真っ黒なマスクを被った頬の刀傷が特徴的な男で――



「…………」


 そしてオレはその特徴に何となく覚えがあった。



「おい。三十五歳童貞糞ニート、社会のゴミとして街の空気を汚す気分はどうだ?」


「だ、誰が三十五歳童貞か! ――――はッ!?」


 この糞下らないテロ組織のリーダーが誰か判明した。


 ……正直、知り合いである事を恥じるレベルだった。



「三十五歳童貞糞ニート、お前、そこで何をやってやがる……つーか、本当何やってるんですか、マジで? 仮面なんか着けて街を騒がした挙句にやっている事がリア充の撲滅とか……。もしかしなくてもアホじゃないですかね」


「うぉっほん! そこの君、どうやら何処ぞの輩と勘違いしているようだが……。私はそんな男でもなければ三十五歳童貞糞ニートでもない。それにちゃんと仕事しているもん」


「おい、そこのお前ら」


「無視かよ!」


 三十五歳童貞もとい師匠の戯言を聞き流し、オレは師匠以外の他テロ組織集団に目を向ける。



「そこにいるリーダーとやらはお前らが尊敬するところなど微塵にもない、三十五歳童貞にして女と見れば即襲い掛かるような、人間としてどうしようもないクズだぞ。分かったらこんなテロ組織なんて即解散して、全員真っ当に生きるなり就職するなりしたらどうだ?」


「お、おい……うちのリーダー、三十五歳童貞だってよ……」


「しかも女と見れば即襲い掛かるようなレイプ魔だってよ……」


 オレの言葉に周囲がざわつく。


 よし、これで名誉の失墜したリーダーを始めとして傍迷惑なテロ集団など即座に解散する筈。



「「「三十五歳童貞にして糞ニートなんて、これ程までに社会の迷惑を掛ける存在は他にいない。これこそ我が組織のリーダーに相応しい!!」」」



 ……こいつらはもう駄目だ。


 もう放っておくしかない。遅すぎたんだ。



「それよりもリーダー! あいつら二人、どうやら女同士らしいですが……リア充かどうかの判定は如何なさいましょう?」


「あ? 女同士? 馬鹿を言え、あっちの不肖我が弟子は見た目女に見えてなんなら襲っちゃう童貞を捧げたいやばいやばいとか考えちゃうけれど、れっきとしたおと――――うおッ!」


 オレが投げた短剣は師匠の頬を掠めて飛んでいく。


 ちッ、外したか……。



「おい、テメェ! 仮にも師匠である俺になんて事をしやがる!」


「うるせぇ! テメェみたいな下らない存在を師匠にした覚えはないんだよ! それにここでそれ以上の事を言ったらぶち殺すぞ!」


 と言うか、オレはこの危機にようやく気付いた。


 見た目は男性ホルモンが少ない所為で女の子に見えなくもないオレだが、この場において師匠だけはオレが正真正銘の男である事を知っている。



 そして男だとバレる事は――――



「おら、糞童貞共! ウチらは女やぞ! リア充でも何でもないんやからさっさとどっかに行ってまえ! こんな中じゃツバキちゃんとの密事も雰囲気でぇへんやろうが!」


「女同士!? 何を言っているか分からないが君のその隣にいるのはおと――――だから短剣を投げつけるのは止めろ! 物騒だろうが!」


「馬鹿野郎! こっちは命かかってんだぞ! 言葉には気をつけろよ!」


 男だと隣の百合少女にバレる事は即死に繋がりかねない。



「一先ずここから逃げますよ、ユリアさん!」


「きゃッ、ちょ、ちょっとツバキちゃん! そない強引にされたらウチ、簡単にイってまうわ」


「ホントその百合脳、どっかに締まってくれませんかねぇ!」


 オレはユリアさんの手を引き、その場を離れるべく走り出した。



「リーダー、彼らの処遇は如何に!?」


「黒だ! あっちの綺麗な女は兎も角、メイド服の方はこれ以上ないくらいの真っ黒だ! 厳戒態勢を敷け! 奴をここで討ち取らなければ我が組織の強大な障害となり得る。つーか、俺の弟子の癖に見た事もない綺麗な女の子連れて歩いているとかマジ許せん。全人員を導入し、ここで奴を抹殺するのだ! 女も確保しておけ! 捕まえた後に土下座で交際を申し込む!」


「「「イエス、リア充よ、爆発しろ!」」」


 どうやら師匠を筆頭に糞童貞共はオレを見逃すつもりはないらしい。



 いや、オレだってリア充は無条件で腹が立つし、女連れで歩いているイケメン見ただけで呪いの言葉を脳内散布する事は珍しくはないが、少なくともあそこまで吹っ切れてはいない。



 ただ、吹っ切れているからこそ捕まれば何をされるか分かったものではないし、もしも途中でユリアさんにオレが男だとバラされたら、死すらも免れない。



 なんだこの状況は!? 異世界に来てまでオレは一体何をやっているんだ!

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