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第36話


「え、え……」


「ん? 百合って言った方がええの?」


「そういう問題ではない」


「じゃあどういう問題? 女の子同士は駄目?」


「いや、大問題でしょう」


 悪いがオレは同性愛者ではないし、しかも今の状況は女の子に勘違いされている。


 凄まじい勘違いがこの場に渦巻いている。



「ツバキちゃん」


「え、あ、はい」


 改めて名前を呼ばれたオレはビクリ、と身体を強張らせる。


 何故な背中に悪寒が走った。



「ウチな、女の子が好きやねん。ああ、ライクじゃないよ。ラブの方で。女の子の柔らかい手とか唇とかホント大好物やし、それに良い匂いするし。そんな女の子をウチが滅茶苦茶にしてやれたらどんなに心地良いかって思うとな、こう、身体がゾクゾクしちゃうねん」


 この人は絶対童貞殺すマンじゃない。


 勘違いさせた挙句に鉄槌を下す美人局クラスの詐欺師だ。


 しかも純濃度の変人オーラを発している辺りでかなりの遣い手だと思われた。


 その時、オレは先程の会話から一つの推測へと至った。



「あの、良いですか?」


「ん、なんや? ウチは早くディープキスとかしたいんやけど」


 直球過ぎる。打とうとしたらバットが折れるレベルだ。


「いや、さっき話していた友達の名前って……もしかしてエイラって言うんじゃ……」


「よく分かったな、正解や。あ、あの娘の知り合いか? ああ、じゃあそのメイド服、あの娘に作って貰ったんか。なるほど、納得したわ」


 うん。これで判明した。


 この人はあれだ、関わりあったら駄目なタイプの奴だ。


 このまま行けば、間違いなくオレは殺られる。



「……はぁ、しょうがないな」


 このまま行けばオレは男として大事な何かを失ってしまう気がしたので白状してしまう事にした。


「すみませんが、わた――いや、オレは貴方のご期待には添えません」


「え、何で、なんでなん?」


 悲しそうな表情をみせるユリアさん。


 その表情には大分心揺さぶられたが、さっきとは違いオレの貞操がかかっている。


 ここで引いてはいけない。



「何でも何も……実はですね」


「うんうん」


「オレ、こんな格好してますけれど本当は――――男なんですよ」


「――――え?」


 オレが言い放った言葉に動揺の色を浮かべるユリアさん。



「そ、そんな訳ないやん。そんな可愛いのに」


「いや、本当ですよ。なんなら証明したって――――」


「もしも自分が男や言うのなら、なんや、ウチは男とイチャイチャして、男と手を繋いで、あまつさえ男と一緒に寝ようとしてたんか? ……駄目や、そんなの許されへん。男みたいな愚劣で汚い生き物とウチがまさか……それがもしも本当やったとしたらウチ……ウチ――――自分を殺して、ウチも死ななくてはならん……うぅ、……リセイが……トんジャう……」


「――――う、うっそー冗談でしたあ!」


 瞳から完全に色が消えようとする一歩手前でオレは回避の選択肢を選ぶ。



「エ、……ウソ、ホント、ホントカナ?」


「あ、ああ当たり前じゃないですかあ。考えてみて下さいよ、こんなに可愛い子が男の子の筈がないじゃないですかぁ」


「……あ、そっかあ。そうだよね。ウチもおかしいと思ったわ。もうツバキちゃんってば冗談キツいわあ」


「えへへー☆」


 ヤバイ……この人にオレが男だってバレたら殺される……。



 さっきの目は間違いなく殺し屋の目だった。



 オレが冒険者としての経験を積んでいなければ失禁していた事だろう。



「じゃあツバキちゃんはウチと一緒に寝られるね!」


 ……そして事態は最初の問題へと戻る。



「え、えーと……、それはどうかなって。オレ、そういうタイプじゃないし」


「大丈夫。一緒に寝たら世界が変わるって」


「あー……、ほ、ほら! オレ達ってば知り合ってまだ間も無いでしょう? それがこんなに早くそんな関係になるのもどうかなって」


「大丈夫。一緒に寝たら世界が変わるって」


「……、それにですね、オレ、あの、こういうの初めてなんですよ。だから怖いって言うか……こんな強引にこられるとちょっと引くと言うか……その、分かりますよね?」


「大丈夫。一緒に寝たら世界が変わるって」


 どうやら話が通じていないらしい。


 壊れたカセットテープのように同じ事しか言わなくなった彼女の表情は笑ってはいるが、目が完全にマジの奴だった。



 しかもこのまま宿屋にでも連れ込まれたら女として嬲られた上、男だと判明して殺されるまでがセットの内容だ。



 なにこのアンハッピーセット、ボリュームありすぎんだろ。責任者を出せ。



「ほら、痛くしないから……ね、ね?」


 そんな風にジリジリとこちらににじり寄って来るユリアさんがオレの目には森で出会う熊よりも危険な生物に思えた。




「――――天誅ぅうううう!!」


 その時だった。


 絶海の孤島で泣き叫ぶかのような、そんな悲しみに満ちた声が聞こえたかと思えば、視界のあちこちで閃光が迸った。


 これは――――ロケット花火か?


 その急な襲撃に混乱する中、街の屋根伝いに幾つもの影が姿を現した。



「やあやあ! リア充諸君! よくもまあ、往来の中でそうもイチャつけるなあ! この街に必要なのは気高き精神であって貴様らのような軟弱な者達の逢瀬は目の毒、嗚咽を覚える糞そのものよ! 本能の意のままに群れあう野生の獣にも劣るその下卑た性根を気高き清らかな魂を持つ我々が正しに参った次第だ。では続き天誅を受けたまえ!」



「あれはリア充殲滅テロ組織――――通称、『裁きのDT』!!」



 ……なんだ、その糞みたいなテロ組織は。



「ツバキちゃん! あれはきっと今巷で話題のテロ組織や! リア充である恋人達を狙い撃ちにする事で逢瀬の雰囲気を台無しにする集団!」


「……何でそんな奴らがこの街に?」


「なんでも『彼の地にはリア充を撲滅する教えが存在する。我々も彼の地の教えに従い、我々の敵を駆逐するのだ!』って事らしいけど……。迷惑な話や」


 いや、本当迷惑な話だ……。


 しかも彼の地って日本の事だから……その思想だか教えだかってあれだろ?



 リア充爆発しろ――――って事だろ?



 …………間違って伝わってんぞ、日本文化。

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