第34話
「そこまでだ! こんな所に居られるか! オレは出ていくぞ!」
メイド服までは中学の文化祭でも着せられた事があって許容範囲として許可したオレだったが、エイラが自分が着ているものと同じ型のスクール水着を取り出した時点でオレはその場からの脱出を決行した。
報酬(写真)を貰っておいてなんだが、報酬の額に見合った働きでない場合はストライキを起こす権利が労働者側には与えられている。
つまりはそれを行使したに過ぎない。
よってオレは悪くない――――QED、証明終了。
塞がれた入り口を諦め、窓からの脱出を試みた訳だが、どうにか成功した。
多くの魔物を狩った実績と身体能力の向上はオレの危機を救ってくれたらしい。
逃げてしまった以上、写真は後で返さないといけないかな……。
それまでは懐に締まっておこう。
そんな感じで部屋を出てきてしまったが為に暇が出来たオレは何をしようかと考える。
この暇を潰す為に最初に思い付いたのは師匠の所に出向く事だが、一緒に居るであろうアレイに何を言われるか分かったものではない。
だからと言ってその辺をぶらつくにしても慌てて出てきたが為にエイラより着せられたメイド服を着用している今、あまり目立つような事は出来ない。
早めに男物の服を調達したかったが、財布も置いてきてしまった。
部屋に戻ったらあのファッションショーの続きをさせられる事だろう。
言うなれば八方塞がりである。
さて……どうしたものか。
そんな中、オレは周囲の視線から注目を集めてしまっている事に気付く。
……やはり男が着るにはあまりにも変な格好であっただろうか。
「ねぇねぇ、あの娘、可愛くない?」
「あれってライトノベルでよく見るメイド服だよな?」
「いや、超可愛いな……、告白したら俺と結婚してくれないかな」
……どうやら別の意味で注目を集めているらしい。
オレって何なの? 神様はどうしてオレにこんなよく分からない才能を与えたの?
「――――おう、姉ちゃん。可愛い格好しているな」
そんな風にこの世を嘆いている最中、数人の男達がオレの前を塞いだ。
「それってメイド服だろ? ラノベで良く出てくる格好の」
「可愛いじゃん? 君が作ったの?」
「良かったらよく見せてくれない?」
そんな風に言い寄ってくる男達。
「あの……ちょっと……」
そう言って煙に巻こうとするも、男達は退いてくれなかった。
「良いじゃん、少しぐらい。うわッ、すげぇな、これ。ふわふわだぜ」
「つうかメイド服着ている君も可愛いね。どう? 良かったらお茶でも」
……こいつらはオレが男だと知ったらどういう反応をするのだろうか。
だが、悲しいかな。オレとて伊達や酔狂で苦労していない。
こんな経験は一度や二度じゃない。非常に悲しいかな、慣れたものである。
相手にせず無言で彼らの間を通り過ぎようとする中、
「ちょっと、ごめんね。そこ退いて」
男達の間からにゅっと一本の腕が伸びた。
「え、うわっ」
驚くのも束の間、その手に引っ張られてオレはその場を足早に立ち去った。
男達も早足で歩くオレとオレを引っ張るもう一人を追おうとはしなかった。
狭い路地に入り男達の姿が見えなくなった所で、引っ張る手はオレを放した。
「なんや囲まれていたみたいやったけど、大丈夫やった?」
特徴的な関西弁に透き通るような、綺麗な声。
驚いて顔を上げると、そこには息を呑むような美人が立っていた。
さらりと長い黒髪で、垢抜けた顔付きは驚く程に整っている。
細長い手足にモデルのような体型で、身長はオレよりも高く、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる、そんな身体つき。
「ああいう乱暴なのはあかんな。女の子は優しく扱うてあげな、これだから男って野蛮やわ」
少女はべーっと男達が居るだろう方向に舌を出すと、その後、少し恥ずかしそうに笑った。
その仕草一つ一つが端的に可愛くて、絵になっている。
ライトノベルなら今の仕草でイラストが入るところだろうか。
「えと、なんか助けて下さって、その、ありがとうございます」
どうも今までとは違う正統派な美少女の登場に何処か緊張を覚えつつ、礼を述べる。
あのままでも問題は無かっただろうが、助けて貰った事には違いない。
「ああ、良いよ良いよ。こんな可愛い娘、助けずには居られなかったさかい。ところでその服、どっから? ごっつい可愛いね」
「えと、友達が作って……」
「へー、凄いね。ウチの友達にもそういうの好きな娘が居るわ。結構おるもんなんやね」
さすがはライトノベルの街。
コスプレするような奴も結構居るのだろうか。
「つうかそんな格好で何してたん? まさか客引きとかじゃないよね」
「ええと、まあ色々あって今は暇していたと言うか」
まさかスク水を着けられそうになって逃げてきたとは言えない。
更に言えば、メイド服を着けた男である事も絶対に言えない。
そんな事を言えば変態扱いされかねないし……、一先ずは無難にやり過ごす事にしよう。
「へー、それなら暇な感じが顔に出ちゃってたんかもな。男って暇そうにしている女見ると声掛けたがるし」
そう言うものなのだろうか。
「じゃあ、その、オレ……じゃなくて私はこれで……」
話もそこそこに急いでその場を後にしようとするオレだったが、呼び止められる。
「えー、折角出会ったんやし、もうちょい話さへん? 君、可愛いし。ちょっと君に興味出てきたわ。暇みたいやし良かったらウチと少し遊ばへん?」
「えと、その……」
「あー……、もしかして迷惑やった?」
少女は少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
助けて貰ってその顔をされては、オレとて断る訳にもいかない。
「じゃあ、その、ちょっとだけ……」
「本当!? 良かったわ。断られたらどうしようかと思ったわ」
そう言って喜ぶ顔に少しばかり罪悪感を覚えるオレだったが、ここまで来ては仕方がない。
後は男だとばれないように無難に過ごすのみだ。
「ウチの名前はユリアって言うんよ。自分は何て言うんか?」
「椿です」
「ツバキちゃん言うんか、可愛い名前やな。じゃあ行こうか」
上機嫌に先を歩くユリアさんの後をオレは付いて行った。




