第33話
そんな折の事だった。
「だいじょうぶ? からだ、治った?」
部屋の入り口より姿を現したのは、アレイの友人であるエイラだ。
ここ数日、ダンジョン近くの宿舎で寝泊りしていた為に会っていなかったが、彼女とはアレイとギルドを組めば特典として宿を提供する事を約束していた。
そういう事で、この三日間、オレは彼女の家の宿屋で身体を休めていたのだ。
「ああ。もう大丈夫だ。部屋、貸してくれてありがとう。助かったよ」
「いい。約束したから」
エイラは特徴的な金髪ツインテールを揺らしながら、ひょこひょことベッドの横に近づいてくる。
近くで見るとやはりその小ささが際立った。
オレは人より少し男性ホルモンが少ない関係上、男子平均より背が低いのだが、そんなオレから見てもかなり小さいと感じるのでよっぽどだろう。
聞けば、アレイはオレと同じ十六歳で、エイラはオレ達より一つ下の十五歳だそうだが……、どう考えても十二歳以下、下手すると十歳くらいにしか見えない。
金髪ロリ碧眼無表情系妹キャラという詰め込み要素満載のエイラはさながらライトノベルでは頻出するテンプレキャラと言って良いが。
しかし現実で見ると凄い存在感であった。
キャラ立ち過ぎだろ。そりゃキャラとしてテンプレ化するわ。
だが、彼女は厄介な属性も同時に持ち合わせている。
「で、その格好は何だ?」
「これ? スクール水着」
「…………」
あろう事かエイラはスクール水着を着用していた。
胸の辺りに「えいら」と名前が刺繍してある辺り、属性記号をきちんと理解している。
「旧スク、だよ?」
首をきょとん、と傾けつつ、エイラはお尻の辺りをきゅっと直す。
……そっかあ、旧スクかあ。
オレは恐らくライトノベル読みとして非常に貴重な体験をしていると考えられるが、しかし、あまりに急過ぎて事態に頭が付いていっていない。
「そういやさ、お前ってこの宿の看板娘って事なんだろ?」
「うん」
「接客とかは……しないわけ」
「しているよ?」
「今は?」
「している」
「……、その格好で?」
「もちろん」
エイラはぺったんこな胸を強調するようにして胸を張る。
当然だけどスクール水着だったら身体のラインばっちり見えるよね。
「この格好で接客したら、わたしの出力がにじゅっぱーせんと、じょうしょーする」
「出力ってなんだよ」
やる気とかそう言う事だろうか。
まあこいつ、コスプレ娘だしな。
コスプレするとヤル気が出る。
戦闘服みたいなものだろうか。
「それに、お客さんにもこうひょーだよ? 『お、お譲ちゃん……今日も可愛いね、はあ、はあ……、ちょっと触って良い?』って大きいお友達にもひょーばんだから」
「いや、それもう通報しろ」
間違いなくそいつはロリコンで、しかもヤバい系の奴だ。
オレもライトノベル読みとして一般常識程度のロリコン属性は身に着けているが、しかし、ロリコンとしての矜持もまた同時に持ち合わせている。
ノータッチ、イエス、ロリータ。
ラノベ読みはこの精神を皆が持ち合わせている。
ロリに優しく。……世界の共通言語にならねーかなー。
「つうか、普通に接客しろよ。いかがわしい店か、ここは? ライトノベルは普通に健全な媒体なんだよ。そのライトノベルが流行っている街にも関わらず一線越えるとか、あっちゃいけないだろ」
ライトノベルはその時その時に置いて、結構如何わしい状況にはなるが、基本的には十八歳以下のお子様にも優しい内容になっている事が前提だ。
ノー行為、グッドライトノベル。
この基本的な精神はライトノベルに置いて磐石である。
「ううん。今日は特別」
「特別?」
「おともだち、来るから」
……友達?
いや、おかしくねぇか、それ……。
「口振りから察するにそれってアレイ以外の友達って事だよな。友達が来るからコスプレしているってちょっとオレ、友達の定義がよく分からなくなってきたんだけど」
「ともだちもコスプレ好き」
「……ああ、そう言う事ね」
コスプレ仲間って事か。
「うん。そのともだち、『可愛いエイラが可愛い格好するとホントに可愛い。……食べちゃいたいくらいや。自分が……オサエ、キレ……』って喜んでたからコスプレして待ってるの」
「その友達とはすぐに縁を切った方が良い」
いや、間違いなくやべぇだろ、その友達。
多分コスプレ仲間とかじゃないし、ちょっと切っ掛けあったらそいつに襲われるぞ、こいつ。
知らず知らずの内に身の危険が迫っているエイラだったが、そんな事は意に返さずとばかりに、いやそもそも危険に気付いていないのだろうが、彼女はオレへと上目遣いをしてみせた。
ロリ系キャラの上目遣いってどうしてこう可愛いのだろうか。
……なんだ、これ。いや、変な気持ちに――――
「おねがい。わたしと一緒にコスプレしてくれない?」
「お断りします」
即答した。
「なんで? てんどーはコスプレ嫌い?」
「コスプレ自体は嫌いじゃないが。お前、間違いなくオレに女物の服を着せるだろ」
「その方が似合う」
「誰が似合うか。オレは男だぞ、良いか? オレは女物の服なんて絶対着な――」
「アレイの下着姿の写真、もう一枚ある」
「――――話を聞かせて貰おうか」
オレは彼女の絶対的な交渉手腕によって見事に絡め取られてしまったのだった。
……いや、オレってば男の子だし、抗えないよね。




