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第32話


「具合はどうだい、ツバキ君」


 早朝。アレイはベッドで横たわるオレに声をかけた。



「ああ、もう何ともないよ」


 オレはそんな彼女に向かって言葉を返す。


 ダンジョンから帰ったオレはなんと三日間も眠りっぱなしだったらしい。



 聞けば魔力が殆ど切れている状態で、身体にまで悪影響を及ぼしていたとの事だ。


 この世界に置いて魔力を元としている生物は魔力が切れるだけでも様々な影響を及ぼす。



 疲労は勿論の事、病気への抵抗力が弱まり、結果として様々な障害を併発する。


 下手したら魔力切れによる死因というのもあるそうで、それくらい魔力切れというのは恐ろしいものなのである。


 オレはどうやら衰弱していただけで、ちょっとばかり休養を取る事である程度まで回復したが、実際は結構危険な状態であった事など、後でアレイよりこっぴどく叱られた。



 普段から無闇に口うるさいアレイだが、この時ばかりはマジな表情で怒っていたのでオレも言われるがまま説教を受けていたが、アレイも怒りは収まった様子である。



 収まった様子なのだが――――




「アレイ。今日は師匠のとこ行くんだろ?」


「ああ、まあね。決闘について対策を練らなければ。あの男、『いや、レインハルトにお前らが勝つなんて不可能だと思っていたからテキトーな事言って煙に巻こうと思っていたのにまさか課題を達成するなんて』とかふざけた事を抜かしていたからさ。今日こそは真面目に対策を練って貰わないと」


 あの糞童貞はそんな事を考えてあんな滅茶苦茶な課題を出したのか。



 まあ結果的に飛躍的な実力の向上に繋がった訳で。その辺は不幸中の幸いと言うか、あまり間違った事を言ってはいなかったんだろうけれど。



 それでも腹が立った事には違いない。


 そんな風に思ったオレはベッドから立ち上がる。



「じゃあ、オレも行くわ。師匠にはオレ必殺の幻の左ストレートを味あわせた上で、是が非でもレインハルトに勝たせて貰わないといけないからな」


 三日前。ダンジョンにて遭遇し、エクスキューショナルスパイダーを倒したレインハルトとの差は思っていた以上に大きなものだった。


 少しばかり実力を持ってしまった今だからこそ分かる。


 正面からぶつかったところでオレはあのレインハルトに勝つ事は出来ない。


 そう思っていたオレだったが、アレイはかぶりを振った。




「駄目だよ、ツバキ君。君はまだ寝ていないと」


「いや、もう三日も寝ていたんだ。身体だって回復しているし、それに何より身体が鈍って仕方がない。ここで寝ているよりはレインハルトへの対策でも考えておいた方がマシだろう」


「大丈夫だよ、ツバキ君。対策ならボクが考えておくから」


「えー……、だって戦うのはオレなんだろ?」


 一週間で二百匹のモンスターを狩るという課題についてオレは成功したものの、アレイについてはあと少しのところで及ばなかった筈だ。


 ならばここはオレが戦った方が勝率も少しは高まるだろう。



 あのダンジョンのハーレム系ライトノベルは是非に読みたいと思っているところ。



 例え相手がレインハルトであっても負ける訳にはいかない。



 しかし、


「い、良いから! 君は少しでも寝ていたまえ」

 まただ。この話をすると露骨に様子がおかしくなる。



「あー、なんだ? まだ少し怒っているのか? オレだって反省しているよ。それに勝つ為だ。少しの無理は仕方なかったじゃないか」


「そんなんじゃないよ! そ、それにさ、この街、今物騒な事になっているらしいし危ないよ」


「物騒って?」


 そのワードに思わず反応してしまうオレ。


 しかして、アレイは話が逸れた事にほっとしたのか、気前良く説明してくれた。




「今、街でテロ組織が活動しているんだよ」


「え、この街って結構治安良いんじゃなかったのか?」


 スラム街ですらそこまでの危険が無いとか聞いたが……、いつの間にここは紛争地帯並みの危険区域になったのだろうか。



「いや、ボクも詳しい事は知らないんだけどね。そのテロ組織のリーダーとやらが大層凄腕らしくて、対処に苦労しているらしいよ」


「そのテロ組織の連中は一体何をやらかすんだ? 自爆テロか? それとも主要な建物の爆破予告とか大人物を人質にした要求とか?」


「なにそれ、君は物騒な事を考えるな。その頭の中に何が詰まっているんだい? 爆弾とかじゃないだろうね」


 え、違うのか? テロと言えばそんなイメージなのだが。



「つうか魔力文字を使った無差別爆破を行うような奴に物騒とか言われたくねーよ。それよりそのテロ組織は何をしでかすんだよ?」


「……ロケット花火を人に向けるとか」



 子供の悪戯かよ。


「街中で異臭騒ぎ起こすとか大声で歌い始めるとか、他にも色々だよ」


 ……この街は本当、平和そのものだな。



「あ! ツバキ君ってば下らないって顔しているけれど、結構大変な事なんだよ? お陰で『街の景観が損なわれる』とか苦情が殺到しているらしくてさ。今や街の衛兵とか、各大手ギルドの連中とかが対処に当たっているんだけど、その凄腕のリーダーを始め、犯人が近日中に捕まるかどうか」


「話を聞いている限り、どう考えても危険には思えないんだが」


 どうも子供の悪戯程度の被害しかないみたいだし。


 しかし、アレイは首を横に振ると語気を強めた。



「危険だよ! それに君はまだ本調子じゃないんだろう? ならテロ組織の連中と合ったらどう対処するんだい? 師匠の所にはボクが顔を出しておくから。それじゃ君は寝ていたまえよ。じゃあね!」


 アレイはそんな風に無理矢理オレをベッドに寝かせると、部屋を出て行った。



「…………」



 ――――何かおかしい。



 オレはアレイの様子を観察しつつ、その所作に疑問を覚えていた。


 彼女は元々、変に頑固な所がある。それはこの数日で何となく分かっていた。


 しかしながら、今の彼女はどうも様子がおかしい。


 意固地になっているようにも見えるし。

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