第28話
身体中がふわふわしている。
先程から疲れはピークを脱したのか、ランナーズハイのような状態になっている。
「ははははは、やったぜ! はははは」
最後のパワーインセクトを斬り捨て、オレはそのまま倒れるように地に仰向けになった。
「ツバキ君!? 大丈夫かい!」
アレイがオレへと駆け寄ってくる。
オレは笑いながら拳を突き上げた。
「達成だ……一週間でモンスター二百匹の撃破、達成……ちゃーんと、パワーインセクトも二十匹倒してるぜ……」
時間はダンジョンに差す陽光から察するに七日目の正午を回った辺りだろう。
師匠より出された課題は問題なく達成の筈だ。
「ああ、お疲れ様だ。ツバキ君、途中からテンションおかしくなってたし、『はははは、かかってこい。オレの短剣が血を欲しているぞ、うひひ』とか言っていた辺り、もう駄目なんじゃないかって思っていたけれど、どうやら無事なようで何よりだ」
「オレ、そんな事言ってたっけ」
記憶を探ってみるが、どうもそんな事を言ったような気も……。
まあ結果が良かったんだから問題ないだろう。
「さあ帰るよ、ツバキ君。こんな所からはお去らばだ」
「ああ……ん、あれ?」
起き上がろうとするも身体が言う事を聞かない。
何度となく試みるが、やはり同じ事だった。
脳の神経が切れてしまったんじゃないか、と思うくらいだ。
そして、それとは別に強烈な眠気も襲ってきている。
やばい……こんな所で寝たら。
帰るまでが遠足。ダンジョンから帰らなければ、全ては意味を為さないのだから。
「ほら、やっぱり限界だったみたいじゃないか。身体、動かないんだろう?」
「……そうみたいだな」
「ったく。ほら」
アレイはオレの身体を担ぎ上げると、そのままゆっくりと歩き出した。
「君が女の子よりも軽そうな体重で良かったよ」
「おい、それはオレが男であると知っての事か。オレは人より男性ホルモンが少ないだけでれっきとした男だっつーの。襲うぞ、てめぇ」
「ふふ、それはボクをちゃんと女の子だと認識しての言葉かい? だったら――――」
「ん、そう言えばそうか。それなら……」
「ツバキ君!? そこは悩むところなのかい!?」
ショックとばかりにアレイは否定する。
それよりも、とオレはアレイへと聞いた。
「さっきの言葉。『だったら――――』の先、お前、なんて言おうとしたんだ?」
「……何だって良いだろう?」
「いや、よくないな。出来ればちゃんと聞いておきたい」
「君、聞いたら笑わないかい?」
「多分、笑う」
「…………、君は本当に酷い奴だ。さっきのは間違いなく勘違いだ。忘れてくれ」
アレイの言葉にオレは彼女に悟られぬよう、そっと胸を撫で下ろした。
……いや、だって、こいつとオレはそんなんじゃねぇだろ。
見てくれは悪くないが中性的な感じで、性格だって可愛いってタイプじゃないだろ。
例えるなら女友達みたいなものだ。
にも関わらず変な雰囲気になって流されるのは違う気がする。
それに、こっちがその気になって関係を進ませた後、絶対こいつ「やっぱ君とは付き合えないよ」とか言いだすタイプだぜ。
オレはそう言う地雷は踏み抜かない。
心の強さを持つんだ、オレ……。
「そ、そういやさ」
オレは変な雰囲気を打開すべく、言葉を投げかける。
この機会にオレは疑問に思っていた事を彼女へと尋ねた。
「お前、何でダンジョンなんか潜ってんだ?」
「……え?」
その質問に驚いた様子を見せるアレイ。
「そりゃあライトノベルが好きで」
「嘘吐け。お前、オレの直感だけど、そこまでライトノベル好きじゃないだろ。それこそダンジョンで命を懸ける程にはな」
「…………」
「それにお前はダンジョンではポンコツだ。自分だって向いてない事、知ってんだろ? にも関わらずお前はダンジョンへと潜っている。命を懸けて。なら、理由がないと釣り合わない。オレのライトノベル好きに相当するような理由がな」
「……君のラノベ好きは中でもずば抜けているように思えるけれど」
アレイは一瞬逡巡した後、そして言った。
「うん。そうだよ。ボクはライトノベルをそれ程、好きじゃない。どころかちょっと嫌いなくらいだ」
「なん……だと……」
ライトノベルを嫌い?
そんな、人間かこいつ……。
「いや、そこまで驚く事かな」
「引く程、驚いている」
「……、まあ君には悪いが、そういう事だ。ま、所謂食わず嫌いって奴だがね」
「食わず嫌い? つまりあまり読みたくない理由があるって事か?」
まあライトノベルの食わず嫌いなんて実際、珍しい話じゃない。
関係性構築の為の急すぎる展開とか、主人公に都合の良いような関係、展開とか。
それこそラノベを彩るイラスト、萌え絵が受け付けないって人も沢山いる事だろう。
だが、アレイの理由はもっと根源的な、深い理由があるように思えた。




