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第24話



「うわぁああああああああ! オレの、オレの象徴がァあああああ! これがあるからこそ、オレはオレが男である事を信じられていたのに! オレの数少ない男性ホルモンが今、身体の中から消失しただと!?」



 オレに男の娘属性があれば「ボク、女の子になっちゃうよおお」などと言って遊んでいられたのだろうが、ライトノベルに置いて数多くのジャンルに精通し、誰よりも多くの範囲をカバー出来ていると自負しているオレだったが、男の娘属性だけは受け付けなかった。



 そんな訳で、今のオレに余裕はない。


 にも関わらず呑気な様子でアレイはオレに笑いかける。




「良いじゃないか、アレイ君。どうせあって無かったようなものだろう?」


「ぶち殺すぞ、お前」

 あって無かったようなモノとか言うな。



 あれで大事に大事に育て、育んできたモノなんだよ。



 オレがオレだと信じられる唯一無二のモノだったんだ。



 男性ホルモンが人よりちょっと少ないだけで、それが蔑ろにされる理由にはならない。




「つうか見ろ! どうだ、お前のそのまな板よりもデカいんじゃないか? これでお前は男のオレよりも女の子らしくないと認められた訳だ。悔しかったら牛乳でも飲んでもうちょっと必死になれや!」


「も、もう飲んでいるもん!」


 アレイは若干目に涙を浮かべて、言った。


 ……そっか、もう飲んでいるのかー。



 飲んでそれならもう手遅れかも知れないと一瞬頭を過ぎったが、小さいモノの気持ちはオレとて分からなくもないのでそれ以上の言葉をオレは言えなかった。



 そんな中、

「……テイスティング宜しいか」

 ――――と。声を発す者が居る事にオレは気付くのが遅れた。



「…………え?」

 股間に感じる温かなぬくもり。ゴツゴツとした感触。


 ――――師匠の右手がオレの股間を掴んでいた。



「なぁあああああああああ!?」


「――――ふむ。感度良好。感触も申し分なし。紛う事なき女、だな」


 それからの師匠の動きは実にしなやかだった。



 川を静謐に流れる水の如し軽やかさで、されど風を思わせる速さと炎のような猛々しい強さをも持ち合わせていて。



 彼はそんな印象の中で一言、人生を賭けているとも思われるような必死さでこう言った。


「――――一発ヤラせて下さい!」


 そんな土下座をしてみせた師匠の顔面には数秒後、オレとアレイの蹴りが飛んだ。






「……やっと戻れた」

 オレは股間への象徴を確かめつつ、ほっと一息吐く。



 魔法で女になったのは兎も角、戻り方が分からないと焦っていると時間が経つと共に元に戻れた。


 聞けば魔力文字による魔法は重ねがけしない限りはそう長く持つものではないらしい。


 その辺は魔力が気まぐれなんだとか、素直な分、飽きやすいだとか色々言われたが、詰まるところ魔力による改変は時間制限付きという事だろう。



「女に戻れたのは良いが街中でそんな風に股間を弄るのは止めたまえ。痴女だと思われる」


 横ではそんなオレの様子に肩を竦めるアレイ。



「……オレは男だ。どう間違っても痴女ではない」


「今にしてよくそんな事が言えるね」


 アレイは呆れたように息を吐く。



「良いかい? 師匠の話じゃ、『女』という文字で普通は女になるなんて事は考えられないそうだ。何故ならそれは身体中の魔力を弄る事に他ならず、もし出来るとすれば膨大な魔力ともっと細かな命令を魔力へと送らなければならない。にも関わらず君は女の子に変身した。それに変身した時、身体つき、声などに多くの変化は見られなかった。それらが示す結論はつまり――」


「聞きたくない聞きたくない」


「――――君が元々、女の子に近い身体をしていたって事実なんだよ」


「あーあーあーあー」


 アレイの言葉をオレは聞こえないように耳で塞ぐ。


 オレの身体が女の子に近いなんて、そんな事実などあってはならない。



 何故ならオレは生粋の男であって、女の子に近いなんて事実は有り得ないからだ。




「……さて、そんな事よりも。さっきの話、どうするんだい?」


「おい。オレの重要案件をそんな事、の一言で済まそうとするな。こっちは必死なんだぞ」


 だが、確かにアレイの言葉にも一理あった。



「さっきの師匠の話か」


 オレは先程の事を思い出して顔を強張らせる。


「一週間で魔物を二百匹……また二百匹の内、『ランナーラビット』『ウォールゴーレム』『パワーインセクト』の三匹をそれぞれ二十匹撃破しろ、だなんて。無茶にも程があるよ」


 オレ達に蹴られた後、ロープで縛ったまま椅子に座らせた師匠からオレ達は今後のスケジュールについて聞かされていた。


 スケジュールについては先程、アレイが口にした通りだ。


 曰く、これぐらいしないとレインハルトには勝てないどころか相手にもならないそうだ。



「それで、現実的にそれは可能なのか?」


「……どうだろう。一週間で魔物を二百匹……、現実的に考えてまず不可能だ。だって二百匹と言えば相当な数に上る。ダンジョン近くで寝泊り、ほぼ不眠不休でやってギリギリ間に合うかどうか。……けれど、そんなものは現実的じゃない」


「そうなのか?」


「まあ。ダンジョン探索は基本的に無茶をしてはいけないのが鉄則だからね。不眠不休でダンジョンに潜れば当然、集中力は乱れるし、集中力の乱れは死に繋がりかねないから」


 聞いておいて何だが……、そんな事は聞かずとも分かる事ではある。


 異世界転生系のダンジョン攻略に置いて……、と言うかどんな事でもそうだが、死の危険がある限りは準備と言うのはこれ以上ないくらいに入念に行うのが普通だ。



 ダンジョン探索では装備を整え、アイテムの補充を必要以上に行い、それでいて健康にも気を使わなくてはならない。



 そうでなければ後悔するのは自分なのだから。



「ところで『ランナーラビット』『ウォールゴーレム』『パワーインセクト』ってのは?」

「塔型ダンジョン第一〇二三号――あのダンジョンの事だね――あそこに置いて、駆け出し冒険者が決して手出ししてはいけない、三大モンスターの事だよ」


「……師匠はなんでそんなモンスターを撃破しろなんて言ったんだ?」


「そりゃあ魔力文字持ちのモンスターだからだよ。ランナーラビットは『速』の文字、他の二匹もそれぞれ『壁』と『力』を持っている」


「なんだか使えそうな文字だな」


「ああ。それだけにモンスターも厄介だ。特にパワーインセクトは目撃した瞬間に即逃げるレベルだ。そして絶対に寄り付いてはいけない」


 アレイは険しい表情をみせる。


 こいつがこれだけ言うからには、まあ、本当なのだろう。



「それで……。どうするんだい? こんなの言わば狂気の沙汰だよ。他に方法が無いか師匠に聞いて――――」


「――――やろう」


「みないか――――って! ツバキ君!? それは本気で言っているのかい!?」


 驚くアレイ。そのアレイに向けて首を縦に振る。



「無茶は承知だ。だが、ライトノベルが目の前にあるんだ。こんなところでおめおめと引き下がれるかよ。それに師匠はその実力だけは信用出来るんだろ? じゃあむしろやるしかねぇよ。その程度の無茶で目的が達せられるなら万々歳だ」


「その程度の無茶って……。君は本気かい?」


「本気だ」


 オレは断言してみせる。



「オレは本気でライトノベルの為なら命だって張れる。ライトノベルを読む事がオレの人生の生きがいで、それ以外の事なんてオレにとっては些末な事だ。ならこんな事もオレにとっては些末な事なんだよ」


「…………」


 オレのそんな決意を前にアレイは複雑そうな表情をみせた。


 その表情は危険なダンジョン探索に挑む事への不安もそうだが、それ以上のものが見て取れた。



 だが――――オレは止まらない。




「行こう。ダンジョンへ――――」

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