第23話
「え、文字が二つって……。ダンジョンではそれ程、魔物を倒した覚えは無いんだけれど。それともツバキ君、この街に来るまでに魔物退治の経験があったの?」
アレイの言葉にオレは首を振る。
「そうか。ならお前さんもアレイと同じく文字持ちって事だな」
文字持ち。アレイの話によれば文字を持って生まれた特殊な存在との話だが。
これはまさか、もしかして……。
「ツバキ君が文字持ち!? そんな馬鹿な!」
「ふふふ、どうやらオレの時代が来たようだなァ!」
きたきたきたきたキタぁああああああああ!
まさかのオレもチート持ちじゃねぇかあああああ!!
これぞ、異世界転生よ!
これでライトノベル探索も捗る! しかも皆にチヤホヤされる!
やったぜ、これからオレの時代よ!
「それで、オレの文字とやらは一体何なんだ? 『闇』とか『焔』とか?」
「……、そんな言葉が真っ先に出てくる辺り、君も大概厨二病だね」
どうやら厨二病という言葉もこの世界には伝わっているらしい。
いやラノベでは頻出する表現だし、伝わっていて当然と言えば当然だとは思うが。
「お前さんの文字は…………、ああ、一つ目は『椿』だってよ」
「ツバキ? 君の名前と一緒じゃないか」
師匠の言葉にアレイは納得したかのように呟いた。
成程、文字持ちというからには生まれてこの方、ずっと一緒だった自分の名前も、持って生まれた文字としてカウントされたという事だろうか。
椿。自分の文字とは言え、攻撃や補助に転用出来るような文字ではないか。
いや、文字は二つあるんだ。もう一つに期待しよう。
「それで、二つ目は?」
「ああ、ちょっと待て。もう少しで……ああ、出たな」
オレはその先の言葉を待って、喉を鳴らす。
この先の言葉次第ではオレのライトノベル生活は華やかななモノになる事間違いなしだ。
来い、チート能力よ!
「二つ目の言葉は――――『女』だな」
「――――え?」
師匠の言葉にオレは自分の耳を疑った。
…………女?
オレは男なのに――――女?
え、なに、どういう事?
「ぷッ、つ、ツバキ君、おめでとう。文字持ちってね、その人の本質を映し出すって言われているんだ。き、君はその辺りの女の子よりも女の子らしいと認定されたって事だね。やったね」
「な……ッ、違うよォ! オレは皆よりも少しだけ男性ホルモンが少ないだけだよォ! あと十年経ったらオレも筋肉ムキムキの巨漢ガチムチ体型になるんだよ!」
「いや、それ骨格から違うじゃん。どんな変体だよ。いや君の場合は変態かな? だって男の癖に女の子っぽいって事だからね。おかしいね。ぷくく」
「おう、言わせておけば舐めてんのか、クソ女。お前もお前で『爆』とか、どんなイカレ女だ。頭爆発してんだろ、テメェ。つうかお前もお前で女成分全然ねぇじゃん。その成長の欠片もない胸はなんだ? まな板か? テメェの胸の上で魚でも捌いたろか」
「……君は今、言ってはいけない事を言ったね?」
アレイは顔を近づけてオレへと凄んでみせるが、オレもオレで彼女へと眼を飛ばす。
「おいおい、まがりなりにもここは俺の家だぞ。喧嘩するなら他所でやれ……っつーか、お前さんは文字、契約しなくて良いのか?」
「そうだよ、ツバキ君。『女』の子になっちゃいなよ。きっと可愛いよ」
「……お前とは後で決着をつけなくてはいけないようだな」
オレは考えた末にどちらの文字とも一応の契約をする事にした。
…………いやいや。別に本質がどうこうなんて認めた訳じゃないよ?
ただただ便利なモノは使う主義だし、どっかで役立つかも知れないからね。
『女』なんて出たのは偶然の産物であって、まあ奇跡というか間違いみたいなものだ。
オレは作品がどれだけ批判を受けていたとしても主観を信じる男。
ネットでの批判その他のような安易な情報には踊らされないのである。
「契約するんだな。じゃあもう一度さっきみたいに手を置いてくれ」
師匠の指示通り契約盤に手を置いたオレの手の上で、水晶がまたぞろ光を放ち始める。
水晶の光が先程と同じくして細い光となり掌に降り注ぐと、光の柱はオレの手の甲に『椿』の文字を刻んでいく。
柱が動く毎に手の甲に焼けるような痛みが走り、思わず顔を顰めた。
赤黒く燃える文字は最後に光を放った後に手の甲へと溶けるようにして消えていった。
『女』もまた、同じような工程を経て、オレの手へと消えていく。
「これで契約は完了だ。お前さんは魔力文字を使い、魔法を使用出来る筈だが……」
「『椿』は使用意図が不明だし、『女』は一体どんな効果を齎すんだろうね? 楽しみだね」
「お前、完全に馬鹿にしてんだろ」
アレイの含み笑いを見てオレは苛立ちを募らせる。
いや、待て。もしかしたら『女』ってのはチート能力かも知れないじゃないか。
何故なら『女』は言わばくのいち、忍に類する言葉だ。
ならば変化だとか、または幻惑能力だとか、そう言う能力かも知れない。
オレは右手を掲げ、にやりと笑う。
「見切ったぜ、これはお前の考えている能力とは違う! 確信した、これは最強の文字だとな。アレイ、今オレの文字を見せてやる。馬鹿にした事を後悔しろ! 『女』ァ!」
オレは高らかに魔力文字を謳った。
その瞬間、手の甲に『女』の文字が浮かび上がる。
次いでくるのは一瞬通り過ぎる焼けるような痛み。
「さあ来いこいこいこいこい! ――――お、おお!?」
『女』の文字が一層光り輝くと、それに呼応するようにオレの身体も光を放ち始める。
……ここでようやくオレの脳裏に嫌な予感が浮かんだ。
「ちょッ、待て待て待て! 待って! オレの身体に何が起こるの!? いや、嫌だよ、待ってくれ! お願いだ! 『女』になるのだけはぁああああ!!」
――――光りが止む。
中心に居たオレは身体の中を恐る恐る弄った。
――――無い。
男としての象徴。シンボルが、その形も影も消していた。




