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第22話



 奥へと通されると中は以外にも快適そうな空間が広がっていた。



 中央にテーブルが置かれ、テーブルを挟むようにソファーが置かれている。棚には雑多な物が所狭しと並べられており、何が何だか分からないような物ばかりが見て取れた。


 所々皮が剥げたボロボロのソファーに腰を下ろした師匠は、対面のソファーにオレ達を座らせると、テーブルの下から何かを取り出しテーブルの上へと置いた。



 中心に置かれた透き通るような水晶が特徴的で、水晶の下には何やら複雑な紋様が浮かんだ板を敷いている。


 それだけ見れば裏通りのよく分からない雑貨屋に置かれているような使用用途の不明な機械のようであった。



「ああ、魔力文字の契約か」

 それを見てアレイはぽん、と手を叩く。


「魔力文字の契約? これでか?」


 オレの疑問に師匠は「そうだ」と答えた。



「これは『契約盤』つってな。魔力文字の契約に際して使用する道具だ。今からこれでお前の魔力を視る」


「魔力を視る? 魔力文字と契約するんじゃなくてか? それに契約にはなんだ、契約士ってのが必要とかって話じゃなかったっけ?」


 アレイから教えて貰った話をうろ覚えに思い出しながら、オレは尋ねる。



「いや、お前は駆け出しなんだろ? なら該当する固有魔力の獲得は出来てないだろう。あと契約士ってんなら問題ない。なにせ俺がその契約士なんだからな」


「え?」


 アレイへと視線を移す俺に彼女は頷いた。



「これで実力は確かだって言ったろ?」


「普通はギルド所属の契約士に頼むとか、フリーの契約士に高い金払って視て貰うとかでこんな風に気軽に出来る事じゃないんだぞ。このオレに感謝しろよ」


 どうやら意外にもちゃんとした実力を持ち合わせているらしい。



 ならどうして童貞なんだ、こいつ。



「早速視てみるぞ。ほら、そこに手を置け。ああ、その篭手は外しておけよ」


 師匠はオレに複雑な紋様が書かれた板に手を置くよう指示する。


 オレは指示された通りに篭手を外して紋様の上に手を置く。



「それじゃあ、行くぞ」


「うおっ」


 師匠の言葉に水晶が光り輝いたかと思えば、オレの手の甲に向けて真っ直ぐに光りが降りてくる。ぼんやりと温かさが手の中に広がった。


 更には水晶の真上に光りと共に立体映像のように文字が広がった。



 その幻想的な様子はオレに異世界感を与えると共に、ライトノベルで鍛えられた好奇心を刺激してくれる。



「……それで、魔力を視るってのはどういう事なんすかね?」


「魔力を視るってのは当然、才能を視るって事だ。魔力数値は冒険者に置いて全ての基本だからな。これを視て今後の対策を練るんだよ。魔力はモンスターを倒すなり何なりすれば増やす事が出来るが、それでも期間は二週間だ。悠長な事は言ってらんねーし」


 聞けばこの世界の生き物が持つ強さは基本的に魔力の強さに他ならないそうだ。


 この世界の生き物は全て魔力を基としている。



 そして魔力は生命活動の根源的な力となり、魔力文字の使用に際して力を発揮するのは勿論の事、身体能力の強化にも繋がるらしい。



 魔力が大きければ大きい程強いと言う事はそう言うことだ。



 それを含めて存在力という言い方をするそうだが、詳しい事はよく分からなかった。


 その魔力を高める方法だが、多くの冒険者は魔物を倒す事を選択するそうだ。



 魔物とは基本的に魔力の高い生物の事を指す。その魔物を倒す事により、倒れる瞬間に吐き出す魔力を呼吸にて取り込む事により魔力を得る事が出来るという理屈だ。



 アレイが言っていたがレインハルトのように魔力値の高い魔物を材料とした食事を摂る事で魔力を増やす方法もあるそうだが、生き物の魔力は死ぬ事で徐々に失われるらしく、倒す方がよっぽど魔力の摂取効率は高いとの事だ。



 必然、食事による魔力摂取には高い魔力値を持つ魔物を材料とする必要があるが、高い魔力値を持つ魔物は当然手強いので、材料を手に入れるには高い金を支払う必要がある。


 つまり収入が不安定な冒険者が食事をする事で魔力を増やすというやり方は理に合わず、レインハルトのようなやり方は冒険者の中では邪道も良いところだとアレイは言っていた。



「実際、普段の食事にも微量ながら魔力は含まれているらしいぜ。どんな生物も魔力は持っているからな。一旦摂取した魔力はお前さんが存在する為に使われ、減る事はない。この歳でどれだけの魔力を取り込んだのかは個人差だ。だから魔力数値を確かめるんだよ」


「その理屈だと冒険者以外は爺になる程、魔力は強くなるって事なんじゃ」


「? そりゃそうだ。爺の方が元気なのは当然だろう?」



 衝撃の事実である。


 この世界では基本老人達の方が若者よりも力が強く、身体能力も高いらしい。


 ただし、魔力は時間を置く程に濁りやすくなり、その濁りが病気や身体能力への負荷を引き起こす原因になるそうだが。



 若者の横で飛んだり跳ねたりする爺が居る訳だ。


 ……シュールだ。



 そんな時だ。オレにふと疑問が沸く。


 この世界の生物は魔力を基にしていると言う事らしい。



 ならオレはどうなんだろう?


 老人の件と良い、この世界に置ける人間はオレの世界と比べ根本から違う用である。

 ならばオレにはこの世界の法則は当てはまるのだろうか。



 その辺、異世界に来るに当たって上手く調節されているのだろうか。




「お、結果出たぞ」


 そんな疑問を浮かべている矢先に師匠がそう告げる。



「お前さんの魔力数値は――――うおッ!」


「え、なになにどうしたんすか?」


 オレは不安半分、期待半分と言った様子で聞いた。


 不安なのは勿論、オレの身体はこの世界に順応しているかどうかについての疑問である。



 そして期待と言うのも勿論、異世界転生系におけるお約束。


 オレがこの世界において天才、チートタイプという事である。


 ラノベの異世界転生系に置いて転生先でチート能力を得ているというのは最早必然と言っても良いものである。



 そして、オレはこの後、「天才だ」と持て囃され、その実力を伸ばすべくその昔、優秀であったとされる凄い人のところで修行し、その後色々な可愛い女の子を助け、ハーレムを形成していくってお決まりのパターンでは――――




「いや、魔力数値は普通だな。平凡そのもの。もしかしたらレインハルトに楽に勝てる値が出るんじゃないかと期待したが……正直、ガッカリだな」


「返せ! オレの未来のハーレムを返せ!」


 がっくりと肩を落とす。



 散々、妄想の翼をはためかせていただけにオレの落胆は大きい。



「あれ、ツバキ君。もしかして期待しちゃった? 自分に凄い才能があるって期待しちゃったのかな? いやいや、そんな訳ないじゃん。だってダンジョンであれだけ苦労してたのにこれで天才とかある訳ないじゃん。ははは、まったく君は馬鹿だね……ん、ツバキ君。なんだい、その手は……ちょ、待っ、止めて! その手を放して! 現実を受け入れて!」


 オレを小馬鹿にするアレイに対して必殺の男女平等パンチをお見舞いしようかと、拳を握り締めていると師匠がぽつりと言ってみせた。




「だが多分、契約出来る文字があるぞ――――それも二つも」


「「え」」


 醜い争いを繰り広げようとしてきたオレ達二人はその言葉に突き出した拳を止める。

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