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第21話


「いや、すまない。ちょっと気が昂ぶってな。つい」

 豪快に笑った男はそう言って頭を下げた。



「つい、で襲われちゃたまんないんだが……」


 日本なら即逮捕どころか重犯罪で人生詰むところである。


「それで。今日はオレに何の用だ?」


 オレの言葉を誤魔化すように師匠とやらはアレイへと尋ねる。


「実はですね――――」


 そんな風にアレイはレインハルトの件について説明する。


「なーるほど。レインハルトの奴がね。そりゃまた随分厄介な事になったもんだ」


 事情を察してくれたらしく、師匠はそんな風に溜息を吐く。



「そんなに不味いのか?」


 オレの質問に師匠は頷いた。



「そりゃあ、そうだ。レインハルトと言えば駆け出し冒険者の中じゃ、トップクラスの強さだ。そんでお前さんは勿論、アレイの奴もその実力は奴に遠く及ばないだろう。とてもじゃないが二週間でどうにかなるもんじゃない」


 師匠は真面目な顔をして断言する。



「……で、アレイ。このおっさんの言う事は信じられるのか?」


「おい」


「ツバキ君。気持ちは分かるが、このクズはその実力だけは本物だ。このクズが言うからには間違いないだろう」


「アレイ、アレイちゃーん? 俺ってば君の師匠なんだけど? 師匠の事をクズって言ってるような気がするんですけど?」


「ボクはレイプ魔を師匠にした覚えはないんで」


 アレイはさらりとそう言って師匠を冷たく斬り捨てる。


 さすがに慈悲はないらしい。




「ちょっと待ってくれよ! 良いじゃないか、穴の一つや二つ。世の中には無数の穴があるんだ。つまりは俺は炭鉱夫、未知へと挑む探険家なんだよ」


「アレイ。このクズは駄目だ。簀巻きにして海に沈めるなり、山に埋めるなりしよう」


「同感だ。海は遠いから山にしておこう。それならば人気の少ない絶好の場所がある」


「ちょ、待ってくれ、二人共! あッ、ちょっ、どっからロープなんて持ってきた!? だ、駄目! 縄が食い込んじゃう! そんなにキツくしちゃらめぇえええええ!!」


 三十五のおっさんがらめぇえええ、とか……。


 本格的にこのおっさんは駄目だ。粛清対象に違いない。



「わ、分かった! 分かったよ、おい! 俺が責任を持ってお前らを鍛えてやる!」


 身体中をロープで縛り上げた段階で、ようやく師匠はそんな事を言い出した。


「レインハルトに勝てるのかい?」


 アレイは訝しげな目付きのままに師匠へと尋ねる。



 師匠は首を必死に縦に振った。


「言っても二週間だ。お前らには結構な無理をして貰うし、それで冒険者としての才能がうんこなアレイには無理かもだが、そこのお前の才能によってはそれも可能かも知れん」


「本当かよ」



 隣で「誰がうんこだ、あんたなんて社会の底辺、言ってみれば社会の老廃物だろう、この糞師匠」と簀巻きの師匠を足蹴にし、足蹴にされた師匠は「あ……、ちょ……、う、うん? 女の子に簀巻きにされて足蹴にされるこの感覚! なにか、ナニカに目覚める!?」などと荒い息を吐いていて心配になるのだが、オレにとって朗報には違いなかった。



 なにせレインハルトに勝てば、ダンジョンの攻略に際して彼の助力を期待出来る。


 そうなればオレはあのダンジョンに封印されしライトノベルを紐解く事が出来るのだ。


 あのライトノベルをこの手に……考えただけでワクワクする。



「さて。そう言う訳で、お前さんもオレの弟子という事になる訳だな」


「ああ、まあそういう事になるのか」


 教えを請う以上、弟子になると言うのは当然だろうが、しかし。


 なんだろう、この男の弟子になるってのはどうも嫌な予感がしてならない。




「なら対価を払って貰おうか」


「……対価?」


「ああ、対価だ。なにせ弟子を取る事にメリットなんて何も無いからな。対価くらい貰わないとやってられない」


「そうなのか?」


 オレは確認の為にアレイに尋ねると、彼女は首を傾げた。


 どうやらアレイは対価なんて払ってはいないようだが。



 そんな中、師匠ははっきりと告げた。



「アレイとはこいつの父を通しての知り合いでな。昔、世話になっているから対価の要求は良い。と言うか、そんなの要求したら殺されかねん。……それより対価だが」


 師匠は目をカッと見開くと、自然な流れでオレの前にて土下座をしてみせた。




「――――俺の童貞を貰ってやって下さい!」



 その余りに潔い姿と綺麗な土下座にオレは思わず頷いてしまいそうになった。


 やっぱこいつろくでもねーな。



「アレイ。駄目だ、こいつ。他を当たろう」


「うん。ボクも今日限りで逆破門で良い気がしてきたよ」


「ああッ!? 駄目、駄目なのか!?」


 オレへと必死に縋りつくおっさん(三十五歳、童貞)。


 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! 



 ……などと思わず叫んでしまいそうになる。



「それに、師匠。ツバキ君にそのお願いは不可能だよ」


「ど、どどどうしてだ!? いや、優しくするよ?」


「そんな事言ってるんじゃねーよ。そうじゃなくてさ、オレ、男だよ」


「ぺっ」

 オレの言葉を聞いた途端に唾を吐き捨てる。



「ほら付いて来い、くそったれ。時間が無いんだ。さっさとしねぇと置いてくぞ」


「おい、あいつ、神速の勢いで掌返しやがったぞ」


「師匠は人間的にはゴミも同然だからね。今更驚かないけど、しかしさすがのボクもどうかと思う変わり身の速さだったね」


 その変わり身の速さから身体が一瞬ぶれたんじゃないか、と思うくらいの様子に思わずどん引きしながらもオレとアレイは師匠に続き奥へと入っていく。

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