第20話
ダンジョン探索を中止し、魚車にてメルエスタの街に戻ったオレ達はその足でとある場所へと向かった。
メルエスタでも治安の良さそうな大通りから外れた場所を進むオレ達はアレイを先頭に、何処か暗く、ボロボロの家屋が目立つ場所を通っていく。
「……ここは?」
「スラム街さ。この街は規模も大きいからね。仕事を求めてこうした低所得者層も集まる。けれどこれで結構治安は良くてね。無闇に襲われる事は無いから心配しなくて良い」
アレイはそう言うが、日本ではライトノベルばかりを読んでいた所為でそう言った荒れ事には弱いオレは心配せずにはいられない。
……本当に大丈夫なのだろうか?
「ここだよ」
アレイの案内のままに付いてきたオレは、やがて一軒の家屋(?)の前に立った。
ただ、そこは家屋と言うよりは掘っ立て小屋という表現が正しく、板を適当に繋ぎ合わせたかのような雑な作りで、普通なら寄り付かないだろうと思わせるような場所だった。
……ホントの本当に大丈夫なのか?
「ししょー、きたよー」
オレの不安など知らないとばかりにアレイは呑気な声を張り上げ、中へと入っていく。
仕方なくオレも彼女の後に続いた。
――――その瞬間、
「オンナァ! 女がいるぞぉおおおおお!!」
「うおおおおおおおお!?」
真っ黒な大きな影が世紀末のような事を口走った。
影はオレの顔を見るや否や一目散にオレへと突撃してくると、そのままオレへと覆いかぶさってくる。
その速さは正に電光石火の勢いで、オレは悲鳴を上げながらも抵抗すら出来なかった。
いやぁああああああ、犯されるぅううううううう!!
「こら」
そんな中、一人冷静なアレイが影に向かって右ストレートを叩き込む。
「俺の初めて……遂にここで果たされる! いざ――――がはァ!」
影はそんな事を言いながらアレイの拳をマトモに受け、吹っ飛ばされた。
「また……また果たせなかった…………無念」
がくり、と気絶した影を確認したオレはアレイへと抱きつく。
「うわぁあああああ!! 怖かったよ、犯されると思ったよぉおおおお!!」
「つ、ツバキ君! ちょ、ちょっと!?」
始めはそんなオレの姿に驚いたアレイだったが、直にオレを包み込むようにして頭を撫でながら、
「うんうん、怖かったね。もう泣かないでね、よしよし」
と母性ある対応を見せてくれる。
そんな彼女の優しさを受けつつ、オレは徐々に冷静さを取り戻していった。
「それで、こいつは一体なんだ? このスラム街は治安良いんじゃなかったのかよ」
暫く経った後、若干の気恥ずかしさを覚えつつも、この影について尋ねる。
影はよくよく見れば三十代くらいの男で、頬の刀傷が特徴的で口ひげを生やしている。
体格はオレより二回り程の大きさだろうか。オレが十六歳の標準身長より著しく低い事を考えれば、極々標準的な体型だ。
「これがボクがさっき話した師匠だよ」
「え!?」
オレの質問に答えたアレイはにわかには信じられない回答を寄越した。
「このレイプ魔が……お前の師匠!?」
師匠だか、レイプ魔だか知らないが、男は白目を向いて情けなく倒れている。
「……まあね。恥ずかしい話だけれど間違いないよ」
「いや、じゃあ何で襲われたんだ?」
「バーサークーモードだよ。師匠は発情期になると、女と見れば一目で襲い掛かっていくんだ。何せ齢にして三十五、その間ただの一度もそういう、ええと、……アレ、な経験をしていないらしいからね。そんな悲しさが頂点に達した時はあんな感じになる」
「いや、マジでレイプ魔じゃねぇか」
しかもオレは男なんだけど。
……そこでとある事に気付く。
「そういや、何でお前じゃなくてオレが襲われたんだ? 先頭に居たのはお前だし、普通はお前が襲われる筈じゃあ――――」
「てい」
「ああああああああ!! 目があああああああ!!」
猛烈な眼球への痛みに悶絶するオレへとアレイは言う。
「ツバキ君。野暮な事を聞いちゃいけないよ」
「野暮な事って……オレはふと気になっただけで……」
痛みに呻く中、オレは師匠とやらが起き上がるまで目を開ける事が出来なかった。




