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第11話




 痴漢に際して男の持つ力とはかくも無力なものなのである。


「…………」

 現在、無言のままオレを見据えるアレイ(少女)の元に供物として捧げられた生け贄のようにオレは土下座の形を取っていた。


 謝る時は土下座。これ即ち日本の文化である。



「ドレスを着けた男の娘が土下座。新感覚」とエイラが横で不愉快な事を口走っているが、ここは土下座を解く訳にはいかず、獲物を前にしたスナイパーの如き、不動の姿勢である。



 そんな様子にアレイは困ったように、

「くっ、まさか彼の地において最高級の謝罪態勢である土下座を君が知っているとは。この戦形を組まれたらどんな罪でさえ許さなくてはならないと言う……」


 そんな風に口にしながら、どうしたものかと小首を傾げるアレイ。



 つーか、この世界にも土下座は伝わっているのか。


 しかもどうも変な形で伝っているようだが、しかし都合が良いので放っておく。



「おら、気が動転してただけで……何か、別の気があってあんな事をした訳ではないのです。どうか許しておくんなまし」


「……仕方ない。今回ばかりは許すけれど、次はないよ」


 アレイはそんな風に不機嫌そうながらも許してくれた。



 ……ちょろいな。



「良かったよ、許してくれて。じゃあ今日は本当に色々すまなかった。今度、飯でも奢るよ」


「いや、君、誰が出て行って良いって言ったんだい?」


 オレはどさくさに紛れてまたぞろこの部屋を後にしようとするが、アレイは許してくれない。



 ……駄目だ、このままここに居ると次の要求は火を見るより明らかである。



「このボクにこんな事をしといてそれは君、無視が良すぎるんでないかい?」


 勝ち誇ったかのようにアレイはそんな事を言ってみせる。


 ……分かっていたが、こう言われると弱い。


 ――――だが、オレとて目的がある。ここでそう簡単に屈する訳にはいかない。




 そこで、

「いやいや! だってオレが間違えるのも無理ないじゃん! お前ってば、顔は中性的だし、髪短いし、それにほら、身体の凹凸少ないしで、男と間違ったオレの気持ちも考えて欲しいね。いやー、これは冤罪だわ。オレに罪なんかないわー」


 日本流交渉術最終形態、逆ギレに移行する事とした。


 この方法は我が国、日本でも多用されており、この方法を取ったが最後、なけなしのプライドと引き換えに高い利益を得る事が出来ると考えられている。



 さあ、この構えはどうだ!?



「君、ボクの胸を触ったよね? ね? それでそんな事を言えるなんてすごいねー」


「…………」


 その氷のような冷ややかな目から逃れるべく、オレはまたも土下座に移行した。


 逆ギレ中止! 即時撤退! 降伏勧告受け入れ態勢に移行せよ!



「顔を上げて」

 アレイの言葉にオレはゆっくりと顔を上げる。



「そんなにボクとギルドを組むのが嫌かい?」

 顔を上げた先に待っていたのはしおらしくもしょんぼりとしたアレイの顔。


 今までとは違う、そのちょっと可愛らしい表情を見て、オレは彼女が女の子である事を否が応にも自覚させられた。



 ……なるほど。彼女がここまで言っているんだ。


 ここで断っては、ボクの人間性が疑われると言う訳か。



 オレは観念したかのように一度、息を吸ってこう答える。



「貴方とギルドを組むのは嫌です」


「き、君!? ボクがここまで言っているのに、それでも駄目なのかい!?」


 オレはライトノベルに魂を売ったと断言出来る男。



 こいつとパーティを組むのは効率が悪いという結論が生まれた以上、オレに生半可な交渉術は通用しない。



「お前に助けられた事は嬉しかったし、さっきのあれは悪かったと思っている。だが、それはそれ、これはこれだ。ポンコツとは組まないしオレにはどんな方法も通用しない。次は泣き落としか? あるいは脅しか? ――――やりたまえ。オレは貴様などには屈しない」


「ポンコツって……ポンコツって……」


 今日何度目になるか分からないオレのポンコツ発言にアレイはとうとう泣き出す。



「……提言」

 体育座りしつつ膝に顔を埋めるアレイを他所にエイラが無表情のままに声を発する。


「何だ? さっきの提案は断るぞ」


 宿と冒険資金が付いてくると言っても、それにマイナス要素があるなら意味はない。



「……最終兵器、発動」

 エイラはそんな風に言って後ろ手に隠していたモノを俺の前に見せた。


「何だそれ機械? ……もしかしてカメラか?」


 彼女が見せたそれは日本のそれよりもかなり大きく重そうで、小回りが利きずらそうではあったものの、レンズがある事からカメラである事が見て取れた。



 この世界にもカメラなんてあるのか……、いや、日本の知識が伝わっているなら、カメラなんかも再現は出来るのか。



「そう、カメラ。それでこれ」


 エイラは一枚の紙をオレの前に示す。


 それを見て、オレは全てを察した。



 ――――この女は悪魔だと。



「分かった。アレイ、ギルドを組んでやろう」


「……え? い、良いの? え、何で? どうしてどうして? やっぱりボクの素晴らしさに気付いたのかい? あはは、照れるな。それならそうと早く行ってくれなきゃ。例えジョークだって繊細なボクは傷つくんだからね!」



 ……うぜぇ。


 そう考えたものの今の状況では全てを受け入れるしかない。



 エイラから渡された最終兵器を前にして抵抗出来る男なんて存在し得ない。



「まあな、オレは考え直したのさ。お前は最高のパートナーかも知れないって」


「そ、そんな……あはは、照れるな……」


 そう言って頬を染めるアレイを見て、オレは確信した。


 この少女は実際ポンコツに間違いないだろうし、中身も方もオレはさっきから結構疑っているのだが――――しかし外見に限っては申し分ない。



 確かに少年っぽい外見なのだが、それも中性的な感じであるし、実際仕草は女の子然としたものだ。実際、顔立ちは整っていて、美人だと言って良いのだろう。


 全然関係ないのだが、ここで性の話をしておきたい。



 オレは外見こそ男らしさが足りないと言われがちだが、内面はそうでもない。


 一般男子高校生程度の常識、即ち旺盛な性欲は持ち合わせているのである。


 そして異世界転生者――ライトノベルで言えば少年が多いだろう――の多くは性欲の捌け口について問題を起こしがちである。



 何せエロ文化に関しては他の追随を許さないまでに発展している日本と異世界の比較はするまでもない事だ。



 これは思春期の男子にとって非常にナイーブな問題なのである。


 この事にオレは実のところ、最初から気付いていた。


 確かにライトノベルがオレにとっては一番だ。



 しかし、雑多な事として挙げられる、「物」の確保はオレにとってライトノベルの次に切実な問題となっていた。


 オレはあははは、と喜んでいるアレイに見えないようエイラへとサムズアップする。そしてエイラも了解、と言わんばかりのサインを示す。


 この女、取り扱いは厄介だが分かっている。



 ――――分かっているのだ、この女は。


 悪魔的に、されどオレにとっては天使のようであった。



 オレはそのきめ細やかな白い肌を惜しげもなく晒し、無防備な様子で服を着替える下着姿のアレイの写真をそっと懐に仕舞いつつ、ほくそ笑んだのだった。




 この日からオレはアレイと共にギルド、そしてパーティ(仮)を組む事になったのだった。


これにて第1章が終了です。

次回からはこんなノリを含めつつ、ようやっとダンジョンへと向かいます。

もしお楽しみ戴けたようであれば、ブクマや評価など宜しくお願い致します。

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