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第10話



「分かったよ。話してみろ、どういう話なんだ?」


「いや、簡単な話さ。暫くボクと一緒にダンジョンに潜らないかって」


「……パーティって事か?」


 こいつの実力は先の戦闘で見せて貰っているが、いまいち信用は出来ない。


 こちとら目標はライトノベル入手の為のダンジョン攻略だ。



 どうにかここは丁重にお断りして……。



「いや、パーティを組むのは勿論だが、ボクと二人でギルドを作らないかって」


「ギルド?」


 異世界転生先の世界と言えば冒険者ギルドがあるのが普通だが、それは組合みたいなもので企業のようにおいそれとポンポン作るようなものではなかった筈。



 だが、アレイの話によれば、この世界に置けるギルドは重要な意味を持つらしい。


 この世界に置けるライトノベルには意志が備わっており、ダンジョンを攻略する事でそのライトノベルを従え、読むを事を可能としている。



 しかし、この場合、読む事が出来るのはダンジョンを攻略した者のみだ。


 例えパーティを組んでいたとしても、場合によってはその中の一人のみがライトノベルに認められ、他が読む事が出来ないなんて状況も起こり得るそうで、そうなればパーティは瓦解、悪くすれば命を懸けたライトノベルの奪い合いなんて事にもなりかねない。


 その状況を改善する方法がギルドである。



 魔力にはそれぞれ指紋とかDNAのように個人個人違う固有魔力を持っており、ライトノベルはその固有魔力値を見抜く事で個人の特定をしているそうだ。



 そこでギルドにて互い互いが契約、固有魔力値を疑似的に合わせる事によってギルド内でのみライトノベルを読み合う事を可能としているのだ。


 街の通りでギルドが人を勧誘していたのは仲間集め以上にそれが理由であるらしい。



「何処もギルド運営の為の人集めに必死だからね。人が集まれば多くのダンジョンを攻略出来るし、その分だけライトノベルが増えて、そのライトノベルを求めて人が多く集まる。そうやって皆競争し合っているんだよ」


 成程。このギルド加入によってはオレが頑張らなくても楽にライトノベルを読む事が出来るという訳か。



 自慢じゃないがオレは怠け者だ。ライトノベルが読めればそれで良いのである。



 頑張る事やその努力に使う時間があればライトノベルを読む時間に当てたい。


 ならば答えは決まっている。



「邪魔したな。お前はお前で良いギルドに巡りあえると良いな」


「わあああああ!! ちょっと待ってよ、待ってったら! 言っとくけど大手のギルドに入ったからってそのギルドが所持している本をすぐに読める訳じゃないんだからね!」


「え、そうなの?」


「そりゃそうさ。大手ギルドがそんな事してたら昔から入っている古株の連中が良い顔する筈が無いだろ。そういう大手ギルドの場合はギルドへの貢献度とか所属年数によって読める本のランクや冊数が変わってくるんだ。それに人が多く集まる以上、色んなしがらみや人付き合いが出てくる。どうせ君、人付き合いが苦手なタイプだろ? さっきから話している感じ人に気を使いそうにもないし、作り笑顔とかしないし」


「……だったらどうしたよ」



 確かに悔しいがオレは人付き合いに難があるタイプではある。



 友達がいない訳じゃなかったが、その友達もそう多くない。


 と言うか、友達も友達でオレの事を変な目で見る奴も結構居たし。


 女子への接触回数が極端に少ない男子校では悪い意味で目立ってしまっていたのだ。



 それとオレのコミュスキルが合わされば、友達など作りづらいのは当然である。



 だが、そんな事は些細な問題である。



「なら中小規模のギルド探して、そこに入れて貰うよ。それならどうにかなりそうだし」


「ははは、残念だったね。それも君の思うようにはいかないんじゃないかな? 中小規模のギルドは所持冊数や所属人数が少ない分だけ人の獲得と契約にはうるさいよ。入れば所持しているライトノベルぐらい全部読ませてくれるだろうけれど、所属契約年数を三年とか五年とか迫られる筈さ。それに挑戦するダンジョンは上の方が決めるだろうから、君に選ぶ権限はない。君の好きなジャンルのライトノベルが見つかったとして、指を加えて見ているなんて事をラノベ大好きな君が出来るのかい?」


「…………うっ」


 確かに、それは辛い。


 組織に所属すれば自分の意見など簡単には通らないだろうし、契約によっては命令に従う事しか許されないだろう。



 しかも所持している本が少なければすぐに新しいラノベを欲するようになる筈だ。



 そうなって自分の意見が通らなければ辛い事になりかねない。


 更には契約の所為で辞めたくても辞められない。



 何そのブラック企業。怖いわ。



 だが――――



「それでもお前みたいなポンコツと一緒に組むよりずっと良いわ。その必死さ、何処のギルドからも厄介払いされた口だろ? お前と一緒に組んだら負債背負うも良いとこじゃないか。だったら一人でやる方がずっと良い。一人で辛かったらギルドに入っても良いんだしな。そういう訳だ。邪魔したな。オレはお前の今後の活躍を祈っているよ」


「わああああ!! 止めてよ、止めてよ! その『今後の活躍を祈っているよ!』ってのは聞き飽きたんだよ! どこ言ってもそんな事言って肩をポンポンと叩いたりするんだよ! お願いだからボクと一緒に冒険しようよォおおおおおお!!」


 アレイが遂には泣きながらオレの足元にしがみ付いてきた。



「ええい、放せ! 恨むならお前のその実力を恨むんだな! こっちも必死なんだ! 慈善事業で足手まといを背負ってどうすんだ! しかも、ダンジョンっつったら命もかかってんだろ! そんな所にポンコツ持っていてどうすんだ! 」


「……提言」


 オレがそんな風にアレイを引き剥がそうとしている最中、その趨勢を見守っていたエイラが手を挙げてそんな事を言ってきた。



「提言? なんだお前からも言ってやってくれよ。お前には冒険者は無理だから今後は職種を堅実なものとして全うに生きろって」


「わたしはアレイの友達だから出来れば、一緒に組んでやって欲しい」


「……組んでやって欲しいって言っても。オレが超優秀なら兎も角、オレも駆け出しなんだぞ。こんなお荷物と組まされたらその辺でくたばる」


「酷ッ! ね、ねぇ、君、さっきからボクに辛辣過ぎない? ボク、君を助けた筈だけど」


「その説は助かったが、それとこれとは話が別だ。そのお礼は後程、オレが冒険者として成功したら飯くらい奢ってやるよ」



 そのオレの言い草に尚もきーきーと喚くアレイだったが、ここで引いてはならない。


 ここで変に折れて「じゃあ良いよ」とか言うと今後のオレの活動に支障を来たすだろう。


 オレは本気でライトノベルが読みたいんだ。この目的がある限り、オレは鬼にも悪魔にも魂を売ろう。



「じゃあ、アレイとギルドを組んだら、ここの宿を暫くは無償で貸す。冒険者になるんなら初期投資は必要。少しならお金貸しても良い」


「…………む、そう来たか」


 この提案には実際、心惹かれるものがあった。



 冒険資金の調達と毎日の寝床確保は異世界転生に置ける最初の課題に設定されやすい。


 実際、この辺の課題の克服で、下手にページを喰う作品も多いのだ。



 この辺が一挙に解決出来るならば、この提案は魅力的である。



 しかし、オレは気付いていた。



 ――――彼女の目が濁っていることに。



「なあ、お前。それ、アレイが友達だからとかいう理由じゃなくて別の理由があるだろ」


「そんな事はない」


「正直に答えたら、好きな服を着てやっても良い」


「この宿に貴方が泊まってくれたら、コスプレさせ放題だと思った」


「こんな所に居られるか!」


 オレは部屋から逃げ出そうと試みるが、以前としてオレに纏わり着いていたアレイがそれを許してはくれなかった。




「き、君、汚いぞ! 約束も果たさずに逃げようとするなんて! エイラに言った『好きな服を着てやる』って言葉はどうしたんだ!?」


「オレは『着てやっても良い』と言っただけで『着てやる』なんて事は一度も言っていない! それに口約束を反故するなんて事はオレの国じゃ常識だったぞ」


「君の国は一体どんな殺伐とした世界なんだ! 約束を簡単に破るなんてけしからん! まったく彼の地と呼ばれる日本を見習わせたいよ」


 いや、オレの国も日本って呼ばれているんですけど。



「いいからいいからあ! ボクと一緒に冒険しようよ! きっと楽しいよ!」


「ええい、いい加減にしろ! そろそろ離さないと、お前のこの悪評を色々な手を駆使して流してやるぞ! 具体的には暴漢に襲われたって!」


 今のオレの姿は女に間違われるのは(悲しいが)確実だろう。



 そんなオレが宿屋から出て一度叫べば、それだけで助けてくれる人は居る筈だ。



 だが、そんな言葉にきょとんとした様子でアレイは首を捻った。



「ん? それは良いけど、本当に良いのかい?」


「何を訳の分からない事を……。この状況で追い詰められているのはお前だ。オレは男だが、この格好を見て男と思う奴は居ないだろう。ならば世間は皆、オレの味方だ。知っているか? 痴漢冤罪での男の勝率の低さを……」


「…………。君、もしかして。……一つ、良いか?」


 その途端、アレイは今までにないくらい悲しい顔をした。



「何だ、どうした? そんな顔をして。もしかしてようやく諦めてくれたのか?」


「いや、何? 君の勘違いを正そうと思ってね」


「勘違い?」


「ボクは――――女の子だよ」


「――――は?」



 オレはその時、きっと気が動転していたのだろう。


 今まで少年だと思っていた人間が実のところ少女だったのだ。



 驚くのは最早自然の摂理。当然だと言って良いだろう。



 その証拠に、あまりにも驚いたオレは思わず右手をアレイの胸に伸ばしてしまっていたのだから。



 先に着けていた胸当てなど外した、黒のタンクトップ姿をした彼女の胸からは小振りながら柔らかい感触が右手を通して伝わってくる。



 そして、オレはこれ以上なく理解した。



 この娘は正真正銘――――女の子だと。



「い、いやああああああああああ!!」



「ぶごふッ!?」



 胸を触られたアレイはその中世的な、凛々しい顔を真っ赤に染め上げながら実に女の子らしい悲鳴を上げて、オレの左頬を握り締めた拳で思い切り振り抜いたのだった。



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