第9話
「うわぁ!」
いきなり叫びだしたオレに驚くアレイであったが、そんなものは無視だ。無視。
なにしろオレは最高の世界への扉を開いたんじゃないだろうか。
何せライトノベルと言えば、途中で打ち切りになる事も多い媒体だ。
それが売り上げの所為なら兎も角、作者の事情により続きが出版されないケースも多い。
それだけじゃない。今、続きが気になって気になって仕方がない、あれやこれやの作品が読める可能性がある――――
確かに出版を待つのもラノベファンの義務の一つだ。しかし、本音を言えば喉から手が出る程に続きを早く読みたいのである。
それが叶うかも知れないのだ。この世界なら。
「決めた」
「……え、あ、うん。な、何をだい?」
ビクッと肩を震わせるアレイ。どうやら先程から様子のおかしいオレに怯えているようだが、そんな事はオレの知った話ではない。
「オレはこの世界で冒険者になる。そしてまだ見ぬライトノベルを読み漁っていくんだ!」
それはラノベ好きがこの世界に来た上での必然とも言える決意に他ならなかった。
日本に帰る前に未だ見ぬライトノベルを沢山読み漁って帰ってやる。
……などと決意を新たに異世界を生き抜く主張を掲げるオレに対し、
「それは素晴らしい! 素晴らしいよ!」
ぱちぱち、と拍手をするアレイ。
「冒険者はこの街で最もポピュラーな仕事だ。何せ街全体がラノベ好きなこの街にとってラノベを発掘出来るこの職業は皆の憧れの的にして街の活性化を担う重要な役割を持っている。ライトノベルを一冊、発掘するだけで皆に勇気を与える事が出来るんだ。そうか、君もそう言ってくれて、ボクは嬉しいよ。いや、君ならそう言ってくれるとボクは信じていたよ。何せ君は大のラノベ好きのようだし、それに冒険者向きだと思うよ。うん、うん」
そんな風にいきなり冒険者とオレを褒め称え始めたアレイにオレは違和感を覚える。
なんだこいつ……目がキラキラしていて……。
――――これは怪しい。何かある。
「まあ、そう言う事だ。お前らにも世話になったな、感謝するよ。じゃあオレはここで帰るよ。じゃあな、色々ありがとう」
多種多様な詐欺が横行し、スパムメールや迷惑メールが飛び交い、「あなたの健康を祈らせて下さい」とインチキ宗教などの入信を薦められる、騙し騙されが日常的な弱肉強食の国、日本にて伊達に十六年生きてきたオレではない。
更には空気を読む力については最早、超常的とも言える民族の血を引くオレはこの危なげな空気を察知し、そそくさとその場を後にしようと、ドアへと向かうが――――
「ちょっと待って! ドレスを着けて一体何処へ行こうと言うんだい? ボクが男物の服を持ってくるまでちょっと待ったらどうだい?」
そう言えば未だオレは女物の服に身を通しているのだった。
まさか、ここから簡単には出さない為に女物の服を――――
そう思い、オレは話に参加出来ずに暇そうなエイラへと視線を向ける。
すると、彼女はドヤ顔をしながらビシッと「似合っているぜ」と言いたげにサムズアップしてみせる。
――――違うな。こいつはただ着せたかっただけだ。
その証拠に眠そうな眼の奥はオレのドレス姿を捉え、キラキラと輝いている。
「い、いや……よく考えれば、会ったその日の内に他人に服を用意して貰うなんて厚かましい真似、オレには出来ないよ。このドレスも後日、ちゃんと綺麗にして持ってくるから、今日のところはこれで我慢して帰るよ。じゃあな」
「いやいやいや、そんな水臭い事を言わなくても君とボクの仲じゃないか。遠慮しなくても良いんだよ、ささっ、ここに腰掛けて……」
「…………」
「…………」
無言で向かいあうオレとアレイ。
次の瞬間、オレは無言で部屋を飛び出そうとするも、アレイによって腰に抱きつかれた。
「ちょっ、はなッ、放せ! テメェ、何のつもりだ!」
「ち、ちち違うんだ! まずボクの話を聞いてくれ! 絶対に、悪い話じゃないからさ!」
「『悪い話じゃないから』とか『良い儲け話がある』とか言う奴の言葉は宛てにならないってオレの国じゃ常識だったぞ!」
「大丈夫! 大丈夫だから! 一先ずボクの話を聞いてくれ!」
アレイは必死になってオレを引き止める。
考えた末、オレは仕方なく話だけでも聞く事にした。




