其の弐 弥生の女王は少女だった
前述の、とりとめもないやり取りを続けてから数分、ようやく慣れてきたらしいヒメに、色々質問をする。
「聞きたいことがたくさんあるんだが、いいか?」
「も、もちろんだともさ。ボクは何でも知っているからね」
ヒメは未だに興奮冷めやらぬ様子で、平然を取り繕いつつそう答えた。
ふむ、なんでも。これはこれは頼もしいお人であるけれど、自信過剰なだけな気もするんだよね。
「えっとだな、じゃあまず、ここがどこなのか教えてくれ」
「だからさっきにっぽ___」
「”にっぽん”以外でだ。そもそも、お前”にっぽん”に言い慣れてないだろ。日本人なのに、そこらへんどうなってんの?」
「”にっぽん”が命名されたのって、今から五〇〇年くらいあとだゾ?ボクの時代は『倭』って呼ばれてるんだから、キミに合わせてあげてることをもっとありがたく思ったら?」
「てことは、今ここ西暦二〇〇年くらいの日本なんだ!?」
回りくどい教え方をしてくるなこいつ!
いや、それより俺は一八〇〇年もさかのぼってきちゃったわけ!?
まあこいつが存在する時点でそんなことだろうとは思っていたけれど。
異世界系のラノベを見ても、こんなに時系列狂う転移はないね。
ただ、転移先が日本であったことは、もしかしたらツイてるのかも。
待てよ、なんでこいつ五〇〇年後を知ってるんだ?てゆうか、日本が『にっぽん』って読まれるようになったのって___詳しくは忘れたけど、もっと後になってからで___
「次の質問は!」
疑問符を頭の上に浮かべる俺、他方ヒメは、明らかに楽しんでる。胸を張って、ジロジロこっちを見ながら。
はっきり言ってうざい。俺の驚く顔が見たいという感じだ。
というわけで、俺からもいたずらを仕掛ける。
「お前のスリーサイズ」
「ふむ!上から73,63,79だ.........けど......」
途中から破廉恥な質問に気づいたのか、ヒメの声が尻すぼみに小さくなる。
かぁぁぁぁと、顔が茹で上がっていくのが、見ていて面白い。
「なるほどなるほど」
とスマホのメモアプリを起動ししっかりメモを取る俺に「やめろぉぉ!」と声を荒げる。
これは案外ちょっとした遊びになるな。と、もうちょっといじめようとするが、
「では復唱しまーす。まずバストは73!ふむ、これはなかなか、貧乳だな」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
とご覧の有様なので、やめておこう。
◇◇◇◇
「ぐすん......うっぐ............」
「おい、悪かったって。謝るよ、すまなかった」
「............うわぁぁん!」
数分後。そこには、自分が泣かせた女児の頭を(ちゃっかし)擦りながら、ひたすら頭を下げ続ける、惨めすぎる男の姿があった。
「うぅぅ............ぐすん......っ」
あまりにも泣き続けるので、俺は仕方なく切り札を使うことにした。
異世界系において、召喚した美少女からのお願いを聞いてあげるイベントを強制的に使ってしまうのは少々気が引けるが、この際、そんなことは言ってられない。
「もう、ごめんって。まじで、何でもするから」
その瞬間、きらりんっ!と音をたてて、ヒメの目が光った。
乗った___
もうほしすぎてたまらなかった反応を、倍にして返してくれた感じだ。
単純すぎて助かる。
とはもちろん言わず、あくまで謙虚そうに佇まう。
「なんでもですかっ!」
「ああ、そうだ、なんでもだぞ」
すると、ヒメは不敵に笑い、思ってもみなかったお願いを口にした。
「キミのそのポケットの中の『板切れ』を頂戴よ。たしか、すかーとぶぉんとかなんとか」
「そんな痴女語、僕は知らない」
「ちじょって言うのやめれぇぇ!」
なんか、俺とヒメの上下関係、ごっちゃだな。
話を戻す。
「これか?別にいいけど、そんなんでいいの?」
本当はちょっと手痛い代償だけれど、奮発するつもりで、手渡すか。
ヒメはキリッと切り替わり、
「もちろんだともさ!ボクは未来の産物に興味津津なんだから。きょうみしんしんのシングルマザーなんだから!」
「お前って、弟大好きな独身じゃないの?それと、その言い方だと、『何に』興味津津なのか、ちょっとわからなくなってくる」
「決してえっちな意味ではありません!」
もうこれ俺この子に勝ったわ。
色々コツを掴んできたと言うかなんというか......
「でも、ボクに弟なんていないけれど?」
「えっ!?」
優勢に立っていたつもりだったが、衝撃な事実の前にくらっとしてしまう。
たしか卑弥呼は、夫を持たず、滅多に表に立たず、弟に政治の補佐をさせていたとかなんとか___
「ボク、こう見えてけっこう人前に出るの好きだからな。表立った仕事___もとい、せいじなんてちょちょいのちょいなのさ」
「頑張って教科書作った会社に謝れ!」
はあ。こうゆう食い違いって、やっぱあるんだな。
なんだかちょっと残念だよ。今まで頑張って習ってきた日本史だとか、世界史なんてもっと、こうして本人に会ってみないとわからない食い違いが山ほどあるんだろうから。
俺、現代に戻れたら、週刊雑誌かなんかのライターとか目指してみよっかな。
「兎にも角にも、ボクのお願いは聞いてもらう。そうゆう約束だからな」
もどかしくなったらしいヒメが、強引に話を戻す。
「んん、じゃあ一つ条件いいか?」
「いいとも」
やっぱ、さすがにさらっと渡すわけにはいかない。
これは、『あること』に使用させてもらうからな。
「俺と、お前の、二人に所有権を認めてくれ」
「ほうほう、そうきたか」
こくこく、と頷く。
「基本はお前が持っていていい。ていうか、持っていてくれ。たまに俺が貸してもらう、みたいなスタンスで良いから」
ヒメはしばらく熟慮したうえで、
「よし、良いだろう。だが、優先順位はボク、キミの順だゾ」
「交渉成立だな」
俺はポケットからスマホを取り出し、おもむろにある仕込みをして、手渡す。
どんな操作をしたかは、もうちょっと後になってから明かそうかな。
ヒメはしばらく真顔で観察した後、ぱぁっと笑顔になったり、むむむ、と訝しげな顔になったりとまあ、忙しく俺のスマホをいじりまくる。
「ちなみに、このおへそ丸出しで、露出度まっくすの下着?を着たこの子は、キミのなんなの?」
「あっはは、それはだな、俺の疲れきった心を癒やす海辺のびしょうじょ___って、見るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スマホに保存されていたいつのだかわからない二次元少女の画像を覗かれ、すぐさま奪い取って削除しまくる俺は一体、なんのためにここに来たのだろう。




