表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノノ怪さんごくし!  作者: 蟻足びび
黄巾の乱
21/23

黄巾の乱 其の捌

「何か含んだような物言いだな」


シリューくんはそれを補うように続けた。


「今回の戦、少し()()()()()()()()のです」

「上手く進みすぎた?実際俺たち奇襲に遭ってるし、ヒメだってギリギリ勝てたようなもんじゃないですか」

「でも、全部勝ってるでしょー?」

「あっ」


言われてみれば、そう捉えることもできる。こちらの損害もほぼ無い。死者はゼロだ。

ヒメは、奴を凌駕していた。それ以上でもない。


「考えすぎ、ってことはないの?単なる“偶然だった“っていう可能性だってあるでしょ?」


そう、ヒメの考えは愚直だが、あながち間違えでは無い。

俺らの考えすぎかもしれないし、何より根拠が薄い。

あくまで『客観的に見ると』の話であって、現実は意外と単純だったりもする。

三国志演義で諸葛亮などが用いた空城計も、それを駆け引きへと応用した戦術だ。(空城計とは、わざと城を開け放ち、いかにも何か罠があると、敵に警戒させる策のこと。)


「じゃぁなんで、黄巾党はわざわざ全軍を引き上げる必要があったんだろ〜?」


あ!そうゆうことか!確かに、そこだけは不可解だった。一連を偶然と考えると辻褄が合わなくなる。

いくら幹部を失ったとはいえ、それだけで全てを引き上げる?

俺だったら、そんなことはしない。新しく隊長を立てるなどして、体制を立て直すことに力を注ぐだろう。


「各国には、張曼成と並ぶような実力者が散らばっていると聞きます。一部を崩されたのなら、そこを修復するために力を注げばいい。増援部隊の一つや二つ、送るのが理でしょう。”善く兵を用うる者は、譬えば卒然のごとし”です。張角は少なくとも、その器を持ち合わせているはず」

「その張角が、兵を引かざる負えない状況になった、ってことか」


何かしらの理由で。

ん?なんかみんなの視線が俺に集まっている気が......

当然だよね?みたいなやつ。


「てゆーことはー?」にこにこ

「やっぱりなっ!」


回ってくると思ったぜ。

くそう、こうなったら、意地でも答えてやる。

整理しよう。全ての発言を反芻する。


____表向きはね。

____今回の戦、少し上手く進みすぎたのです。

____単なる”偶然だった”っていう可能性だってあるでしょ?


普通に見れば、シリューくんの駐屯している部隊に奇襲があり鎮圧。党の指先までも討伐に成功。その結果、混乱した軍は、その全てを撤退。

こういう筋書きをしてみると、やっぱり”ラッキー”だったんじゃないかと思うのが自然な気がしてしまうけど......

もしそれが、ラッキーじゃないのなら。”偶然”じゃないのなら。

()()に起こされた、()()なら、どうか。


「こんなん、常人には考えもできねえよ…」


至った答えは、常軌を逸するもので。スケールが大きすぎて、にわかには信じられないが、たどり着いてしまうと、何よりもすとんと腑に落ちる。

ロケットの速さを計算し終えたけど、数値が大きすぎて結局速さを掴めない、みたいな。

わかりにくい?これ。

俺はおずおずと答える。


「誰かしらの介入があった、ってことだな。裏で糸を引く、誰かしらの」


するとリュウビはパチンと指を鳴ら(そうとして失敗)し、


「その通りだよ!さっすがぁ!」


とはしゃいだ。あのう、指パッチン失敗は恥ずかしくないんですか?

ともあれ、どうやら正解だったらしい。

肩から息を吐き、とりあえず一安心。

一方話の展開に、胸の鼓動は速くなるばかりだ。


「なー、ゲントク。偉そーに『正解』とか言ってるけど、別にそうと決まったわけじゃないんだろう?ボクも、既にほぼ確信に近いそれは感じているが」


ヒメの的確な一問に、リュウビは「待ってました!」と手を叩き、一答する。


「もう宛があるのさ♪あした、さっそく行ってみようと思ってるよ〜」


………………………俺らいらなかったんじゃねーの?

………………………そうみたいね。


アイコンタクトでヒメと会話し、思うだけ無駄と判断して、背中を丸めてその場を去る。



◇◇◇◇



時は日暮れ、場所は風呂。


「んー、なんて言うか、ご立派なもんだな。そこらの銭湯じゃ足元にも及ばねえ」


1人男風呂に体を沈める俺は、ちゃぽんと水面を叩いてみたり、暇を持て遊ぶ。

ゆっくりできる時間というのも、そういえば久しぶりだ。

今はただ何も考えず、湯に体を溶かす。

それにしても、すげー気持ちいい………

本当に溶けてしまいそうだ。凝り固まった体のあちこちが、湯の熱に解凍されていく。

じゃぶんと立ち上がって、探検がてら、露天風呂も堪能することにした。


「えっとー、外は…こっちか」


ガラ、と扉を開けたその先には……なぜか、湯を愉しむ“美少女2人”の姿があった。

言わずもがな、リュウビとヒメである。


「「なななっ…!」」


口を揃え慄く俺とヒメ。前と同じように、膠着状態に入ってしまい、その場から動けずにいる。

一方、リュウビは、ザブンと勢いよく立ち上がり、


「あ、りょふくん!いらっしゃーい♪どーお?お風呂、おっきいでしょ!楽しんでる?」


と楽しそうに腕を広げる。


「ばばばばか!座れ!立ち上がるんじゃない!てかなんでここにいんだよ!ここ男湯だよなっ!?」


声は醜く裏返った。


「キ、キキキミだってにゃんでここにっ!ここおんなゆだよっ。えっち、へんたいっっ」


興奮気味に顔を真っ赤に染め上げたヒメは、ぷんぷんと怒る。

すこーんと風呂桶を食らってしまったよ。

幸い(?)、俺からは湯気でほぼ見えていないが、俺だって男湯に一人でいてタオルなんて巻いているはずないので、真っ裸だ。

…………ごくり。

俺は無言のまま、すかさず華麗な「ビーナスの誕生ポーズ」を作る。

そのポーズのままカサカサと後退し、扉に手をかけるや否や、ばたんと勢いよく閉めた。


「ふぅ………」


ガラッ!


「りょふくーん!」

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」←俺の声


閉めた扉は今度は勢いよく開かれ、美少女(真っ裸)が可愛く首を捻る。


「なんで行っちゃうの〜。あたしだって逃げられたらかなしくもなるよぉ?」


あざといんじゃない、素なんだ……!耐えろ、頑張れ、平常心平常心……

心の中で『人』を3回書き、飲み込む。


「へぇ、りょふくん、体しっかりしてるねー。ちょーうんと良い勝負できそうじゃない?」

「殺す気か!前はラッキーで死ななかったけど、今度こそ死ぬぞ!胴貫かれて死ぬぞ!」


視線は虚空を彷徨う。

リュウビはというと、新緑の瞳で、しっかり俺の顔を見て話している。

こいつ、恥じらいはねえのか!見習いてえぜ。

ぺた。腹部に、冷たい感覚。リュウビの小さい手だ。


「うぉぉ、すごいなぁ!鍛えてるの?」


しばらくお湯に浸かっていたからか、頭がくらくらする。

立ちくらみになんとか耐え、


「まあね、中学ん時の部活、強くて。それで、結構鍛えられたんだよ。いや、鍛えられたっつっても、別に普通の人並みで……」


あれ?と違和感を覚える。明らかに、前より自分の体が筋肉質になっているのだ。

胸板も少しばかりしっかりしてきたような…

まさか……はっと、リュウビを見やる。


「ここに来てから、外部のカルマがいっぱい働きかけてるんだよ。頑張ってりょふくんに干渉しようとしてる。でも、りょふくん自体に勾を受け止める器がないから、それは叶わないんだけどね。外部との交渉で、少しずつ力が付いてきてた!それをあたしが、解放してあげたの、今」


リュウビは小さく何かを唱え、その手をそっと離した。


「あたしは、皆が最大限の力で戦えるように、色々な加護を授けることしかできないの。だから、あたしは、頼むしかできない。他人の力を頼るしかできない」


ぽたん、とどこかで水が床を叩く。


「りょふくん、この乱世を終え、安寧の世を築こう!!」


目の前の少女には幼さの影は一切なく、自我を、大志を遂げんとす群雄の面影を映していた。

俺は恥ずかしくなって、頭をかきながら、


「ああ。なんだ、せっかくの温泉なんだ。湯に浸かって戦に備えるとしようぜ!」


と、懸命に誤魔化した。

うん!と頷くリュウビは、俺の手を引き、おすすめだと言うお風呂に連れて行った。


「なあ、そういえばなんでお前らが男湯にいんの?」


当然のように振る舞われて、男湯にリュウビといるのにも慣れてしまいそうだ。


「露天風呂は、混浴なんだよ〜!」

「知らねえよ!先言えよ!」


そんな会話をしているうちに、その湯へ到着した。


「これこれ。あたしのおすすめー。あったまるよ〜」

「そうなの?ほんじゃ、浸かってみるか_________」


じゅっ。


「あっつぅぅぅぅ!?!?熱すぎだよ!じゅっていったよ!?何度!?ねえこれ何度!?」

「100度」


聞こえてきたのはヒメの声。

燃えるような足を押さえながら振り返ると、いつのまにかタオルを巻いている。


「はははー、大成功だね、ヒミコちゃん♪」

「うん、お返しだよ、キミ。ボクのは、裸を見たお返し。え、えっちなキミには、これくらいしなきゃっ」


照れてしまって、声が尻すぼみに小さくなる。

胸を押さえるような形で、でもドッキリの仕掛け人として、虚勢を張ってたたずまう。

その顔は紅く染まったままだ。


「死ぬかと思った………もうしません、ヒメの裸を見たりしません」

「っ、ゆわなくていい!」


やがて、あっはっは、という笑い声が、温泉特有の反響をする。


「そういえば入浴剤、ゲントクから貰ったよ!頑張った甲斐があったよ!素晴らしい物だね、あれは!毎日使いたいくらいだ」

「満足してくれて良かったよ。二人からアロマの良い匂いがするなぁと思ったら、そうゆうことか」

「なっ……すけべっ!やっぱゆるさないぃっ」


ぽかぽかと殴りかかってくるヒメ。

楽しいお風呂だった。めちゃくちゃ気持ちいいお湯に浸かれて、こうやって笑い合える仲間(少女)がいて。


少女……?

思い出したくない事があったような………


「りょふくん、そういえばあたしたち、一応同い年なんだよねぇ?」


リュウビはいたずらに笑い、


「これで、『裸の付き合い』だねっ」


んん??何のことかなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

恥ずかしさのあまり、脱衣所にダッシュして、案の定コケた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ