表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノノ怪さんごくし!  作者: 蟻足びび
人中の呂布、馬中の赤兎
12/23

人中の呂布、馬中の赤兎 其の陸

赤、いや、あかの輝きが部屋を包む。

太陽を連想させるそのまばゆさに、一瞬たじろいだ。


「来たれ、太陽龍テラソレイユっっ!!」


手をその飾りに添え、閉じた目をカッと開き詠唱。

辺りの気圧がガラッと変わった。

風が荒れ狂い俺自身、ふっとばされそうなのを必死で耐える。

光が入り乱れ、さらに熱が発生。

とてつもない超常現象が起こっているということだけかろうじて掴める。


しばらく不規則に吹き散らしていた風がやがて、規則的に流れ始める。

一点に。まるでそこに吸い寄せられるかのように、ある一点の周りを取り囲むように。

いや、『目に見える風』というのもあまり良くない例えなのだけれど、そこには空気の流動がたしかに認められる。粒子の総移動。

収束する頃には、再度現れた強いひかりが爆発的に熱を発生、皮膚の焦げる感覚に意識が遠のく。

それが瞬間的なものだったので、灰となるのは免れた。

水分が軽く蒸発し、体温が上昇する。

体中の表面にある神経が悲鳴を上げる中、なんとか視界を保った。


龍が、いた。


あかを基調とした皮膚に、ところどころ淡青色たんせいしょくが浮かんでいる。

肩には勾玉をかたどった紋様もんようが浮かんでおり、”主”との契約をありありと示している。

ただ、さっきの水龍と違うのは、大雑把に言うとそのビジュアルだ。

蛇のようにうねりくねるタイプではなく、両足で立ち、地を覆うような翼を携えている。

例えるならば、地球の神龍シェンロンとナメック星の神龍シェンロン

前者が水龍、後者が太陽龍。


思わず、数メートル距離をとっていた。


「なんだよ、キミ。もしかして、腰抜かしたのか?別に、コイツはキミのこと、取って食ったりはしないよ」

「___そんな心配はしてねえけど......」


してないけれど、でも確実にたじろいでいる。

その視線に気圧され、踏みつけられる。

一瞬でも、一寸でも動けば次の瞬間にはこの身があるか不安で、それで俺は、まるで金縛りにあったみたいに動けないでいる。

だけど、そんな心配虚しく。


「オイオイ、やめてくれよォ。オレサマがそんな悪いやつに見えるか?そもそもファンタジーモノで、龍が悪役の物語なんて、読んだことねェぞ。このピュアな目に、未来では愛くるしいとされるキバっ子だぞ?」

「男の八重歯は需要ねぇよ!」


思わず大声でツッコミを入れてしまったが、『目』とか『キバ』とか言うたびに、人差し指でそこを指す必要は無いだろう。

なんともひょうきん過ぎるその態度に、色んな意味で舌を巻かざるを負えない。


気づけば彼は今、龍の見てくれではなく、人を模した姿に。


男前中の男前という表現が脳裏に浮かぶのがなんとも悔しいが、でも単純明快に言って、イケメンだ。

朱色の髪の毛を首の後ろあたりで短く束ね、もう一つ気になることといえば、”八重歯”と呼ばれる犬歯が、ちらっと覗いていること。

絡んじゃいけないタイプの人のルックスだわ。


いやでも、人は見かけによらないっていうのはこのことなんだろう。

見えない優しさがある人っているし、何を言うにも、まずとても頼りがいがありそうなのである。


「なんともまァ弱っちい身体だなァオイ。こんなやつ連れてくるたァ、巫女ちゃんも何考えてんだか」

「あぁ、たしかに俺は弱い。でもだな、俺はヒメをそんな風に扱わない!」


俺は、精一杯”事件現場”を指差し、そう言い放つ。

なんと龍サマは、ヒメの尻に手をかけていた。

当のヒメは、しばらく状況のローディングをした後、かぁぁと顔を赤くする。

やかんだったら、ぴゅぅぅと音を立てそうなくらい顔を火照らせた後、


「こんの、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


と怒号をあげた。




◇◇◇◇




「おぉっとぉ!なんだか楽しいことが起こってるみたいだね!どぉれどれ?あたしも混ぜて!」


と言う声が聞こえたのは、ヒメが叫び声をあげた直後。

依然としてヒメは、ぷるぷると震えてしまっているわけだが、俺もテラもお構いなし。

あ、テラっていうのはヒメの契約相手の太陽龍テラソレイユからとった呼び名。


「お?お前もやられたいのか?良い趣味してんじゃねェかよオイ」

「やめとけ。下手したらヒメより低学年だぞ。お前は小学生低学年にまで手かけんのかよ?害悪だな」

「黙れごぼう!オレサマは可愛い女の子なら誰でも良いだけなんだよォ!」

「そこを指摘したつもりだったなぁ!?」


そもそも、ごぼうっていうニックネームを素で使える人すごいな。

なんて思ってると、


「あたし、16だよ。あ、そこの女の子、元気になったみたいだねぇ〜!ヒミコちゃん?っていうんだっけ?倭の国の女王サマやってるんでしょ〜?あたしは倭の国救ったも同然だね!」


きゃぴきゃぴと、いちいち幼子おさなごなんだけれど多分これ素だわ。

ていうか、同い年なんですけど。このロリ感が許せる可愛さを持っているからずるい。

ヒメとは系統が違うが、めちゃくちゃ可愛い。もしコレがアニメだったら、登場シーンには彼女の周りにはフラワーが浮いている。

ともあれ、今の話を聞くに、


「じゃあ、お前が俺たちを助けてくれた女の子なのか?」

「うん!そうだよ!えへへ〜、命の恩人かぁ。一回なってみたかったんだよね〜!」


将来の夢として持つのにはちょっとズレてる気もするけれど、この子なりの優しさなんだろう。

がちゃりとドアが開き、「失礼します」と、人数分のお茶が運ばれてくる。律儀な館主やかたあるじだ。

まあ、本人が挨拶くらい来てくれてもいいと思うけどね。


「そういえば君は、ここに龍が住んでるの知ってる?」


俺は、さっきっから気になって気になってしょうがなかった事を尋ねた。

ここに住んでいる者ならきっと知っているだろうとは思うが、基本話に入る時は本題からではない。

先程運ばれてきたお茶をずずずとすすりながら返答を待つ___


「あ〜、もしかして驚かせちゃった?ごめんねぇ、あの子見た目おっかないもんねぇ!おっかなびっくりだもんね〜!あたしも契約する前はちょっと怖かったよぉ」


俺は、ぶぶぅーーっ!と盛大に液体を吹き出す。

正面に座るその子を避け、無意識にテラにかからないように気をつけると、その矛先はヒメに向いた。


「ちょっと!何してくれんのさ!キミは女の子を濡らして愉快になるという性癖の持ち主か!?そうなんだな!?」

「痴女」

「ひゃふんっ」


すぐさまとっかかってくるヒメだが、濡らされたことに微塵も嫌がっている様子がないので謝る気も失せ、弱点を捉えた口撃クリティカルヒットで撃退した。


くるりと向きを変え、一言。


「なあテラ。龍ってロリコンなの?」

「しらねェよ!少なくともオレサマは違うけどな」

「あ、信憑性しんぴょうせいないですぅ」


あァ!?ととっかかってくるのを尻目に、


「さっきのは、お前の龍なんだな?」

「うん!そうだよ!ミズたん!ちょ〜可愛いでしょ!一周回ってカワウソでしょぉ〜!!」

「___うん、かもな......じゃあ次の質問。ここどこ?」


こんな意味不明な状況にいちいちツッコミを入れるほど馬鹿じゃない。ので、俺は単純明快に問う。

ヒメが割って入った。


「そうだ。ボクらを助けてくれるのはありがたいのだけど、ただ、素性を知らない相手とこう話しているのも、こちらとしては気味が悪い話なんだよ小娘」


いや、小娘って言えるほどお前女性じゃないよ、とは、話に水を指すようなので言わないが。

なんかヒメ、コイツにちょっと冷たくね?気のせいかな。


「そうだね〜、ごめんよぉ。お互いを知らなきゃ、()()なんて無理だよねぇ!あたしはここの館主やかたあるじ、リュウビだよぉ。んー、びーちゃんとかりゅーちゃんとか、適当に呼んでね!!」


ん、ちょっとまて。劉備りゅうびって、三国時代の一要素、しょくの国を治めた人だよね?


___男だよね?


察した。常識は通用しないわ。


彼___彼女は俺のあこがれの人物だった。

俺の、歴史上に存在した会いたい人ランキングは、一位:卑弥呼、二位:劉備。

民衆に愛され、義を重んず劉備の姿勢に、俺はとっても感動した。

三国志の本というのはかなり読み漁っているけれど、主人公は劉備だし、三国志というのは彼なしには語れない。

もしも昔に戻れるのなら絶対に会ってやると神に誓った俺は、見事天罰を免れたのである。

そのくらい、俺の好きな人物。


が、なんかイメージぶち壊れなんですけど。

卑弥呼と言い劉備と言い、なんかまともな人いないの!

ロリばっかかよ!


まったく。


「ボクはヒミコだ。あんたとはまだ国交活動してないな。いやまあ、これからもしてやる気は無いけどね」


ヒメが、手短に自己紹介を終わらせる。

やっぱなんか怒ってない......?

初めて会った人にここまで怒れる人いないって。こうやって余計な敵を増やさないでほしい。

なんか理由があるのだろうか。


「ヒミコちゃん、よろしくねぇ!これから仲良くしようねっ♪」


コイツもコイツだと思う。

空気の読めなさが病的なんですけど。

完全にそうゆう雰囲気じゃなかったじゃん。でもまったく憎めないんだよなぁ。

ヒメでさえ、予想外の感じにおろおろしてるし。

ともかくこの二人、なんだかんだ仲良くできそうでホッとした。


「じゃあ俺の番だな、えぇと___」

「彼はりょふだ。未来から連れてきた」


ヒメが、シンプル過ぎる代行自己紹介をする。


「りょ___ふ__へ?なんだってぇ......?」


すると、そこでリュウが硬直した。

いろいろ説明しないといけないことがありそうなので、少し補おうとする。


「いや、まあ未来から来たとか言われたら誰でもびっくりはするだろ。顎の一つや二つ外れてもおかしくないわ」

「そんなことどぉでもいいよぉ!!名前、名前だよ!」


ヒメは、俺のことを『りょう』ではなく『りょふ』と呼ぶ。

文字通りの音を読むのだ。

本当は『りょう』なんだけれど、それを伝えても呼び方は変わらなかった。


「.........俺の名前が、どうかした?」


おそるおそる尋ねる。

俺の名前に由来なんて多分無いし、変な性格をした親だったからこその賜物たまものだ。

こんな美少女にあった事があるならば絶対覚えているし、そもそも時間軸がズレまくっているのだから間違いなく初対面。

じゃあ___


「ちょーうん!ねえ来て!すっごいよぉ!”呂布”なんてほんとにいたんだ〜!てっきり、ただの迷信だとばかり思っていたよぉ〜!!」














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ