本屋の花嫁
エスカレータを下りながら
なんとなく向けた視線の先
上半分が隠れた本屋の入り口の
窓ガラスの向こうに
純白のウエディングドレスを見た
派手な装飾はない
光沢のある上品な質感
足をすっかり隠し
遠慮がちに広がり揺れる
本がよっぽど好きなんだな
書店員のカップルなのかな
そんなことを考えた次の瞬間
瞬き一つで現れたのは
たなびく傘袋の束と
横に佇むサラリーマンだった
見間違いと分かってなお
あれは花嫁に違いないと疑わないのは
雲間から差し込む光と
吉兆の予感のせいだ
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