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あの線路の向こうに・・・  作者: 杠葉 湖
4月 十勇市の騒乱
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4月 十勇市の騒乱 パート4

 郵便局の十字路を右に曲がり、病院前のT字路を左へ。そしてその先の十字路を右へと曲がって道なりに坂をあがって行くと、左手に見えてくるのが六文中学である。

 六文中学は、1学年6クラス35~40人の、全校生徒684人の中学校で、その歴史はおよそ100年前の明新時代までさかのぼる。

 この中学卒業の山沢松三郎がうさぎの耳に傷をつけ、そこにコールタールを塗りつけることで、人工的に癌を発生させることに成功したことは、全国的にもかなり有名な話である。

 10年前までは別名の名前であったが、校舎を建て替えたことを機に、六文中学と名を変えた。ちなみに、六文とは、十勇市のシンボルマークともなっている六文銭のことである。

 真人は腕時計の時刻を確認した。

 時刻は8時。

 六文中学の登校時刻は8時15分なので、それまでに登校すれば遅刻にはならない。従ってまだ十分時間に余裕がある。

 また、真人と梢が通っている十勇桜ヶ丘高校は登校時刻=1限目の授業が始まる時刻なので、門が閉まって生活指導の教師に説教を食らうとか、そういったことはない。

 真人と梢もこの六文中学の出身なので、中学生の時には結構大変な目にあっていた。なので遅刻する恐ろしさと言うものが、イヤというほど身に染みている。

 芹里香と同じくセーラー服や学生服に身を包んだ生徒達が、真人達のように談笑しながら、あるいは無言のまま、中学校を目指して歩いていく。

 やがて校門近くまで来た時、芹里香を呼び止める声がした。

「芹里香ちゃーん」

「あ、柚子。おはよー」

 芹里香は声のする方を振り向き、パタパタと駆け寄ってくるメガネをかけた少女に向かって大きく手を振る。

 眼鏡をかけたショートヘアの、気の弱そうな表情をした、芹里香と同じく体格が細いその少女は、真人達の前で止まると、ハッハッと息を弾ませながら、軽く会釈をした。

「芹里香ちゃん、古閑先輩、霧里先輩、おはようございます」

「おはよう、柚子ちゃん」

「柚子ちゃん、おはよぉ~」

 真人と梢も挨拶を返す。

「もぅ柚子ってば。そんなに急がなくっても芹里香達は逃げたりしないのに」

 呆れたように芹里香が言うと、柚子は恥ずかしそうに横目で真人を見た。

「だ、だって……」

 それっきり黙りこくってしまう。

「もぅ柚子ってば。何か言うときははっきりとちゃんと言わなくっちゃダメじゃない。いつも言ってるでしょ?ほら」

 見かねた芹里香が柚子の背後に回り、肩を軽く揉んだ。

「あっ……せ、芹里香ちゃん、くすぐったいよぉ……」

「で、何を言おうとしてたの?」

「えっ?そ、それは……」

「言わないと首筋くすぐっちゃうぞ~」

「ひゃ!?だ、ダメぇ……」

「うりうり~」

「やぁぁ……」

「ははは。柚子ちゃんと芹里香って、本当仲がいいんだね」

 そんな仲睦まじい二人の微笑ましい光景を真人は温かく見守っていたが、やがて腕時計にチラッと目を見やった。

「それじゃあ、俺達はもういくから」

「芹里香ちゃん、柚子ちゃん、それじゃあね」

「うん。お兄ちゃんも梢お姉ちゃんもじゃあね」

「古閑先輩、霧里先輩、それじゃあ」

 真人と梢は二人に別れを告げ、一路自分達の学校を目指し歩き始めた。

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