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あの線路の向こうに・・・  作者: 杠葉 湖
4月 十勇市の騒乱
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4月 十勇市の騒乱 パート3

 朝食を終えた後、梢の身支度やら何やらで時間を消費し、真人と梢が家を出たのは、真人が梢を迎えに来てから既に30分以上が経過していた。

「とってもいい天気だねぇ~」

 梢は空を見上げながら両手を天高く上げのびのびと背を伸ばす。

 空には、まるで水色の絵の具を流し込んだかのような雲ひとつない青空が広がっていた。

「何がいい天気だ。お前のせいで俺はいつもより早く起きる羽目になったんだぞ」

「心配しなくても大丈夫だよ。こんなに陽気がいいんだから、マーちゃんだっていつものようにお昼寝すればいいんだし」

 梢は笑いながら真人を見る。

「あのなぁ……俺はお前みたいに、いつも授業中寝たりしないんだぞ?」

 真人は大きくため息をついた。実際、授業中居眠りする回数で言えば梢のほうが圧倒的に多いだろう。それでも梢は真人よりも成績が優秀なのは、今もって謎だったりする。一時期は睡眠学習でもしてるんじゃないかと疑り問い詰めたこともあったが、梢はそれをかたくなに拒否し、さらに授業中に居眠りする真人の寝顔をスケッチをするという「暴挙」に打って出たため、以来この件は触れられないようになっている。もし真人があのまま梢の機嫌を損ねる行為をし続けていれば、そのスケッチはどこぞの作品展覧会や美術部の作品展示会などに飾られ、瞬く間に真人は有名人になっていたであろう。

「はぁ……行くか……」

「うん」

 真人達は歩き出そうとする。

「お兄ちゃん!」

 しかしその歩みを、背後からすぐさま止める者がいた。

 聞き覚えのある声に苦笑しながら真人は振りかえると、そこにはセーラー服を着た見慣れた少女が立っていた。

 前髪を切りそろえた長髪ぱっつんの髪型。梢よりも小さい体格。その全身から怒気をみなぎらせて、真人を睨んでいる。

「もぅお兄ちゃんってば!また芹里香のこと置いてけぼりにしようとしたでしょ!?」

 その少女はぷりぷりと怒りながら真人に近づく。

「家の中にもいないし、もう学校に行っちゃったと思ったら、梢お姉ちゃんの家にいたなんて!お兄ちゃんの意地悪!!」

「あのなぁ……俺だっていっつもお前と一緒に行けるわけじゃないんだぞ?今日は梢が日直だって言うから……」

「じゃあちゃんとそう言ってくれればいいじゃない!」

「ああもぅ、わかったわかった。俺が悪かったよ」

 真人はいきり立つ少女の頭を優しく撫でる。

「う~っ……」

 少女は恥ずかしそうに頬を赤らめ、次第におとなしくなっていった。

「でもな、お前もわがまま言うんじゃないぞ、芹里香」

「うん……」

 真人が手を離すと少女はコクンと頷くが、少し間を置いた後慌てて無言でフルフルと首を横に振る。

「芹里香がわがまま言うのはお兄ちゃんにだけだもん!」

 そしてジッと真人を見つめる。

「しょうがない奴だな……」

 真人は苦笑するしかなかった。

 楠重芹里香は真人の従妹で、楠重家の一人娘である。六文中学の2年生であり、朝登校する時は決まって通学路の途中である真人の家に立ち寄り、真人と一緒に登校している。父親は考古学界で権威のある人物で、大学で教鞭を振るう傍ら、全国の遺跡を飛び回っている。

 そんな父親の影響もあってか、芹里香自身民間検定の『焚火検定4級』なる怪しげな資格を有しており、自慢の種にしている。真人は検定自体の内容はよく知らないのだが、芹里香が木を使って錐揉み式で火を起こせるということは、叔父一家と行ったキャンプのことでよく知っていた。

 また、真人は2年前まで叔父一家に世話になっていた身分である。ましてや芹里香は叔父から真人のお目付け役を任命されていたため、多少のわがままは聞かざるを得なかった。芹里香の一言によっていつ楠重家に連れ戻されるかわからなかったためである。

 真人が楠重家を出て古閑家に戻ると言った時、最後までかたくなに反対し続けたのが芹里香であった。終いには「お兄ちゃんと一緒に住む!」と、駄々をこねたくらいである。それを考えれば、これくらいはまだかわいいほうと言えるだろう。

「じゃ、行くぞ。これ以上おしゃべりしてたら、芹里香が遅刻しちゃうからな」

「うん!」

「はーい」

 そして三人は、一旦止めた歩を再び歩み始めた。

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