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あの線路の向こうに・・・  作者: 杠葉 湖
プロローグ
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プロローグ

 近年、我が国における高度経済成長は、各方面に様々な恩恵をもたらしてきた。

 中でも鉄道の高速化は、我々に素晴らしい未来をもたらしてくれると夢を与えてくれた文明の産物と言えよう。

 これまで一昼夜かかっても行けないようなところが、わずか5時間程度で行くことが出来ると知ったときの人々の驚き!

 それはまるで、さながら魔法か催眠術にかかっているかのような、夢の世界の出来事のように感じられたのだ。

 環境破壊の懸念が叫ばれたが、それでも各地で鉄道の高速化が進み、それによって採算の取れない在来線は切り捨てられた。

 タイムイズマネー、時は金なりとはよく言うが、人々、とりわけ国のお偉いさんは、時間短縮を優先させたわけである。

 そんな強引な手法に対して、当然反発も起こった。露骨な駆け引きもあった。そこにはまるで地獄絵図を描いたような、ドロドロとした人間の野望と思惑が渦巻いていたのである。

 それはここ、真田県とて例外ではなかった。

 数十年にわたって地元民の支えとなってきた在来線が、知事を始めとする鉄道高速化推進派によって、廃線の危機に立たされたのである。

 住民達は総出でありとあらゆる手を尽くし、それを阻止しようとしたが、既に手遅れであった。

 結果、真田県は新幹線の誘致に成功し、工事区間の着工日時も決定。

 在来線はと言うと、沢井~松川区間、すなわち臼田峠の区間を廃止し、沢井~篠崎峰区間は第三セクターへと移行されることになった。

 翌日の地元紙では、一面でこのニュースを大きく伝えていた。

 『真田新幹線、ついに開通へ』と。

 一方、同じ日付の社会面に、ひっそりとこんな事故の記事が掲載されていた。


 先月30日午後3時頃、伏須磨県白石市の阿武隈峠で、乗用車同士の正面衝突事故が発生した。

 この事故で会社員の古閑真一さんと妻の弥生さんが死亡、長男の真人くんが重体。

 また、会社員の綾瀬宣幸さんと妻の美恵さんがそれぞれ重傷を負った。

 警察の調べによると、現場は見通しのいい直線道路で、綾瀬さんの乗る車が対向車の古閑さんの車を避けようとしてハンドル操作を誤り、ぶつかってしまったという。

 なお、宣幸さんも美恵さんも多量の飲酒をしており、警察では、真人くんを含めた3人の容態が回復次第、事情聴取を行って事故の全容解明に乗り出す方針だ。

 古閑さん一家は谷部喜多町へ向かう途中、綾瀬さん夫婦は松平市から帰る途中の事故だった。


 このような事故は、日常茶飯事とはいかないまでも割と毎日起こっているもので、記事にはなりにくい。

 現にこの朝刊も事故の記事を載せただけで、その後彼らがどうなったのか、追跡調査をしたような記事が掲載されることは決してなかった。


 この事故の被害者、古閑真人は重傷を負い、大破した車の中から救助され病院へと担ぎ込まれると、すぐさまICUへと移された。

 彼は何箇所も骨折をしており、出血も酷く、内臓損傷の疑いもあったため、まさに治療は時間との闘いになった。

 その医師団が懸命の治療を続けている間、彼は続にいう『臨死体験』というものをしていた。

 走馬灯のように流れて行く記憶の渦。

 ぼんやりとかすんで見える両親の面影。

 どこからともなく聞こえてくる、不思議な声。

 しかし――

 彼は生き延びた。1週間後に昏睡状態から目を覚ましたのだ。

 おそらく医師団の懸命の治療の甲斐があったのだろう。

 あるいは死んだ両親が一人残された息子のことを護ったのか。

 それはまさに、『奇跡』と呼ぶに相応しい、到底信じられないことであった。

 それからの真人は、しばらく入院生活を余儀なくされたが、めげることなくリハビリに取り組み、普通の生活を送っても支障がない状態にまで回復した。

 やがて医師のお墨付きを貰うと、叔父一家に連れられ退院したのである。誰もいなくなった自分の家から、叔父の家へと居を移して。

 

 そして、5年の歳月が流れた――

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