#005 ドルフの仕事
2016年4月12日
2016年10月21日
おっさんはエルフを知らないようだったが、幼女神はエルフは居るという。
しかも、おっさんの奥さんの特徴を聞くと(誠に遺憾ではあるものの)エルフっぽい。
耳が長くても、ケモミミもふもふでも、ちょっとした特徴の違いで、異種族ではない。それがこの世界での考え方のようだった。
異種族という考えが無ければ、種族間戦争なんかも起こりようが無いだろうし、その点はいい世界かもしれない。
そんな話しをしながら進んでいると、やがて岩壁が見えてきた。
あれが、おっさんが言っていた採掘場なのだろう。
僕は警戒を強める。
出会った当初、おっさんは、「狩りのついでに鉱石を取りに来た」と言っていた。
しかし、よくよく話しを聞けば、おっさんはギルドに席を置く冒険者で、この森へはゴブリン退治の依頼を受けてきたのだ、と言う。
目撃地は採掘場の周辺。
よくもそんな修羅場に、ちょっとお使いみたいな気軽さで初対面の僕を誘ったものだ。
「もしかしたら巣を作ってるかもしれねぇ」
おっさんは眉をしかめた。
ここまでの道中、魔物との遭遇は無かった。
そこから、魔物が群れていることを考えるのはそれほど飛躍した推察ではない。
群れが安定してくれば、巣を作る。
雨風を凌げる採掘道内は、巣作りの一等地だろう。
森の最奥のこともあり、この辺りの警戒は薄い事情も聞いた。
つまり、採掘道の中に巣がある可能性は高い。……のかもしれない。
先におっさんが中に入り、それに続いて、僕も採掘道に入る。
少し進んだら、突き当たった。
人が来ないという割には、突き当りの壁にしっかり灯りが設置されている。
青白い幻想的な光だ。魔法の灯火なのだろう。
明るさは十分で、松明はいらない。
左右に分かれた曲がり角の向こうからは「ギャーギャー」と怪鳥の鳴き声のような声が聞こえる。
推察の通り、採掘道にゴブリンが巣を作っていたようだ。
声から察するに、10匹は居ない。という感じ。
「お前さんは下がってな」
そう言い残すと、ドルフは物陰から閃光弾のようなものを投げ込んでから、突っ込んで行った。
いや、そういうの持ってるなら言えよ。
俺の目もつぶれちゃったらどうしてくれるんだ。
おっさんは閃光が収まってすぐに、角の向こうへと跳びこんだ。
曲がり角の向こうで、魔物たちの断末魔が響く。
「ギヤァァァス!」
今までとは少し違う声に、おっさんの悲鳴かと身構えたが、それにしてはあまりに汚い声ではないか。
声の主を探してみると、緑色の不細工な生き物が一匹。棍棒を振り上げヨタヨタと走って来ていた。
狩りから帰って来たところかもしれない。
「ただいまー」とでも言っているんだろうか。
……動き、すげー遅い。
なんでお前、入口あたりから雄叫びあげて来たんだよ。
せめてもう少し静かに忍び寄れよ。
と思ったが、襲われる側の僕が言うことではない。
と、そこで視界に赤い光がちらつき始める。
「ん。なんだろう?」
光はゴブリンの棍棒から?
……あ。スキルかもしれない。
《攻撃知覚》というのがあったはずだ。
《攻撃知覚》はパッシブ(常時効果発動型)スキルだったんだな。と、のんきに考えながら、攻撃を避ける。
遅い上に予測がつくので回避は難しくなかった。
恐怖感も、前世で死んだ瞬間に比べればなんてことなかった。
時速二百キロで、十トントラックが突っ込んで来た(個人の感想であり事実とは異なります)のに比べれば、なんてことはない。
ゴブリンの後ろに回ってガラ空きの後頭部を思い切り蹴る。
僕の履物はサンダルなので、足の甲までは保護されていない。
ちょっと格好悪いが、足の裏での喧嘩キックになった。
ゴブリンはバランスを崩し、そのまま突き当りの壁へ衝突。
止めはおっさんが刺した。
「おう。大丈夫だったか?」
「ええ。思いのほか」
「そうかそうか」
おっさんは「がっはっは」と嬉しそうに笑っていた。
何が嬉しいのかわからなかったけれど、僕もとりあえず笑っといた。
2016年4月12日
2016年10月21日:表現、誤字など修正しました