#041 所謂ひとつのエピローグ
2016年6月9日
僕は夢を見ていた。
前世で子供だったころの夢だ。
なんだか体がだるい。
風邪をひいたみたいだ。
僕は学校に行きたがったけれど、ダメだと言われた。
その代わり、母が仕事を休んでずっとついていてくれるというので、ベッドに居るのを渋々了承した。
おかゆを食べたり、おでこを冷やしたり、本を読んだり。
結局、一日中ベッドで過ごしたけれど、少しも退屈しなかった。
体はだるかったけれど、辛くは無かった。
眠るときには手を握ってくれた。
温かく、柔らかい手だったことを僕は覚えていた。
「……母さ……ん……」
僕のおでこに手が乗っている。
重い瞼を開くと、僕を覗き込むようにしていたエルダさんと目が合った。
「お母さんじゃないけどいいかしら?」
「……問題無いです」
周囲を見れば、そこは僕のベッドの上だった。
おっちゃんの家のベッドだけど。
「体調はどう?」
所々痛む部分もあるが、起き上がれないということもなさそうだ。
体を起こすと、変わった色のどろりとした薬を飲まされた。
この世界に来て以来、最悪のまずさだったが、エルダさん特製の回復薬だと言うので、我慢して飲んだ。
「えーっと、何がどうなったんでしたっけ?」
「ハイオークに体当たりくらったの覚えてる?」
「あぁ、そうでしたね」
実際は体当たりかどうかはわからなかったけれど、かなりの衝撃を全身に受けたことを思い出した。
「あの後は特に問題無かったわ。
「私がちょっと大きい魔術を使って疲れたけど、他のみんなもかすり傷くらいね」
「あー。すみませんでした。ご迷惑を」
「心配したわ」
「すみません」
「でも、私たちを助けようとしての行動だった以上あまり怒れないわね」
エルダさんはそう言って笑った。
「あの、エナさんには?」
「私からは何も言ってないわ。怖いもの」
「ありがとうございます」
出て行く前に、無事に帰ることを約束したのに、この体たらくでは恥ずかしすぎる。
「何か食べる?」
「お願いします」
エルダさんが持ってきてくれたパン粥を食べて、僕はもう一度眠りについた。
夕方。
僕はギルドに向かった。
依頼の報告は昨日の内に済んでいるらしい。
そっと入口から覗き見ると、ギルドの中はかなり混雑している。
時間が悪かったかもしれない。
うーん。ちょっとよく見えないなぁ。
体は痛いし、様子はわからないし、出直そうかな。
正直気が乗らない。
踵を返しかけたその時、ギルドの中からにゅっと手が伸び、肩と掴まれる。
「……お疲れ様です。エナさん」
振り返るまでも無い。
エナさんは無言のまま僕を押し出すと、そのまま人気のない方へ僕を連れて行った。
ああ、ここは懐かしき女子寮。
随分薄暗いので、誰も僕らに気付く様子は無い。
相変わらず無言を貫くエナさんに、僕は「ただいま」と言った。
「お帰りなさい。ところで、どうして昨日はギルドに来なかったのです?」
「……」
僕としては、感動の再会のシーンにしたかったのだが、どうやらそうはならないらしい。
無言のプレッシャー。
どう言い逃れすべきか。
「落ちてたおまんじゅうを食べたら、お腹を壊してトイレから出られませんで……」
ぐは。
まさかのボディーブロー炸裂。
ツッコミが激しかった。
顔はやめな。腹にしな。
「体は、大丈夫なのですか」
「……大丈夫ですよ」
エナさんは少し間を置いて、「はぁ~」と深いため息を吐いた。
「無傷で帰ってくる約束だったはずです」
「無傷ですよ」
「嘘つき……」
エナさんは僕の腰のあたりに腕をまわす。
ギュッと抱きしめられると、僕の体はミシミシと音を立てる。
あ。これは抱擁ではない。何かの技だ。
しかし、ここで悲鳴を上げるわけにはいかない。
僕は必死に我慢をする。うぎぎ。
「ハイオークに体当たりを受けたそうですね」
……知ってんのかよ。知ってんのかよ!
「……なぜそれを?」
「みなさんから聞いてます」
『私からは何も言っていない』エルダさんはそう言っていたなぁ。
あぁ、さっさと自供しておくべきだった。
ていうか、エナさんそれを知った上で腹パンとか、鬼かよ。
「報告には私も立ち合いましたから、あなたが帰路を含めたこの数日、昏睡状態だったことも聞いています。
「……私がどんな気持ちでいたと思うのです」
「すみません」
エナさんの腕の力は弱くなっている。
かろうじて、服を掴んでいる程度だ。
「心配かけて、ごめんなさい」
「……心配は、していません。
「あなたなら、すぐに元気な姿を見せてくれるだろうと信じていましたから」
エナさんはきっと、ずっとギルドの入口を見ていたんだろうと思う。
僕の姿を見つけて、すぐに来てくれたんだろう。
僕は必ず無事に戻って来ると約束した。
だからエナさんは、街に戻っているのを知っていても、臥せっている僕の様子を見には来なかったのだ。
僕が無事な姿で会いに来るのをじっと待っていてくれたのだ。
「エナさん、次のお休みはいつです?」
「明後日ですが」
「では、その日にもう一つの約束を果たすことにしましょう。
「新居を探しに行く約束でしたよね」
エナさんがコクリと頷くのを見て、僕は笑った。
僕たちはきっと、いつまでもこうして幸せに過ごしていける。
そう思った。
「そうだ。僕、名前を思い出したみたいなんですよ」
「はい?」
「僕の名前、『ユーキ』でした。
「他には何も思い出せないんですけどね」
「そうですか。
「ではこれからは私もあなたのことをユーキと呼ぶようにします」
「はい、よろしくお願いします。エナ」
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ユーキ(14)(Lv16)/冒険者
【称号】
《使徒(310p)》
《勇気(50p)》"NEW"
仲間を守るため、命を懸けて強者に立ち向かった者に与えられる称号。
【ポイント残/総】
100p/680p
【ステータス】
生命力:500(40p)
膂力:100(90p)
頑強:50(40p)
敏捷:50(40p)
精密:50(40p)
魔力:50(40p)
【能力】
・メニュー(0p)
・ポイント再配分(0p)
・欺瞞(50p)
・攻撃知覚(50p)
・動作最適化(50p)
・アイテムボックス(10p)
・基礎魔法(10p)
・基礎魔術(10p)
・契約魔術(100p)
・閃(10p)
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○欺瞞使用
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ユーキ(14)(Lv16)/冒険者
【称号】
《勇気(50p)》【NEW!】
【ポイント残/総】
30/370
【ステータス】
生命力:500(40p)
膂力:100(90p)
頑強:50(40p)
敏捷:50(40p)
精密:50(40p)
魔力:50(40p)
【能力】
・アイテムボックス(10p)
・基礎魔法(10p)
・基礎魔術(10p)
・剣術(10p)
・閃(10p)
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2016年6月9日




