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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
40/42

#040 ハイオークと油断

2016年6月5日



「ガアアアアア!!」


オークソルジャーは僕らを見つけると、牙をむいて威嚇をした。


人間を見つけたら襲い掛かるというのが本能的に刻まれているようだ。



声を聞いて、倉庫の方からも三体のオークソルジャーがやって来た。



《我、求むるは雷精の加護》

《我が手掌に、集いて来たれ》

雷轟ボルテクス



エルダさんが三体に対して素早く魔術を放つ。


《雷轟》。雷属性の強力な魔術だ。


先頭の一体は黒こげになり、その場に崩れ落ちる。


二体目三体目にもかなりのダメージがあるが、まだこちらに向かってくるだけの力は残っているらしい。



「後ろは私が」


エルダさんの背中には前衛と見まがうほど頼りがいのある雰囲気に満ちている。


立っているのが魔術使いとは思えない安心感だ。



「坊主、こっちをサクッとやっちまおう」


僕とヒースさんの仕事は、エルダさんが三体を押さえている間に新規の一体を倒し、挟み撃ちの状況を打開すること。



僕はいきなり《閃》を放つ。


オークソルジャーは何とか受け止めるも、腕と脚に傷を負った。


僕はそいつの右側面に回り、傷側を集中して攻め続ける。


意識をこちらに集めたところで、ヒムロスさんが急所を突いた。


相手の消失を見届ける間もなく、エルダさんが戦っている方へ目を向ける。


すると、穴だらけのボロボロにされたオークソルジャーが二体。


すぐに手伝いに駆けつけるつもりだったのだが、その必要は無さそうだ。


結局、間に入って逆に邪魔になったりしないように、そのまま傍観する。



まず一体が倒れ、間もなくもう一体も倒れた。


エルダさんは、ふっと自分の指先を吹き、西部劇のガンマンのようだった。


最初の《雷轟》以外は詠唱も聞こえなかったのだが、どうやら初歩の魔術である《バレット》だけで倒しきったらしい。


どんな威力なんだ。


少なくとも、オークの分厚い肉に穴を開けるような魔術じゃなかったはずだけど。


しかも、詠唱も一切なしって。



「《雷轟》も別に詠唱いらないんだけどね。

「混戦になりそうなときは、何の魔法を使うのかを味方に知らせるために詠唱するの」


「はぁ」


僕は、何も言えずに頷くだけだった。


僕、火をつけるだけでも詠唱するのに。



ドロップアイテムを拾い、念のため倉庫の荷物に火をつけてから、僕たちはその場を離れた。



「特に何もなかった」


「こっちも」


「こっちは見つかっちまったんで戦闘した。

「他には何も問題は無いが、ソルジャーを四体やって、倉庫に火をつけたんでそのうち気付くだろう」


「そうか」



おっちゃんが僕の方を見たので、手を挙げて応じる。


怪我もないし、心配もないよ。


次にエルダさんの方にも目が向いて、エルダさんも僕の真似をして同じようにした。


僕の顔真似までしてるらしい。



「ぶはっ」


笑ったのはヒースさんただ一人。


その後も「ひっひっひ」とひとしきり笑っていた。


「小僧は中々いい仕事したぜ。

「連携のことも考えてるし、筋がいい」


「わかっとる」


おっちゃんは少し恥ずかしそうにした。


過保護を指摘されたような気持になったのだろう。



「さて、あとは二つに一つだ。

「打って出るか、待ち伏せるか」


「相手にはアーチャーが何体か居る。

「坑道内で始末しよう」


この狭い坑道内で前衛通しがぶつかり合えば、弓兵は簡単には射線を取れない。



もちろん、それはこちらも同じなので、僕とエルダさんは初撃のみ放って後は後方待機だ。


一応、逃げてくるオークを迎撃する仕事があるが、道幅的にそんなことはまず起こらないだろう。



しばらく待っていると、足音と共にオークの野太い鳴き声が聞こえてきた。


射程に入るのを待って、エルダさんが《雷轟》を放つ。


スパークが迸り、先頭の数体がまとめて倒れる。


さっきより、範囲を広げて撃ったようだ。



攻撃が終わると同時に前衛チームが走り、オークたちを相手取る。


通常のオークよりはずいぶん強いようだが、おっちゃんたちは物ともしない。


一体一体を僅か数秒で斬り伏せていく。



ヒグマさんとダリアさんは、守備の合間を縫って槍を差し込む絶妙なコンビネーションで危なげなく敵を倒していく。


ヒースさんは普段姿が見えないが、たまに現れると決定的な仕事をするし、ヒムロスさんは一人でも敵をまったく寄せ付けない槍捌きを


披露した。



その強さに、オークたちはどんどん戦線を後退させて行き、とうとう最奥の広場の手前にまで戦いの場所は移っていた。


その一番奥に見るからに装備と体つきが違う個体が一体居る。


あれが首長のハイオークだろう。


おっちゃんが周囲のオークソルジャーを殲滅して、ハイオークへ切りかかるが、ハイオークは一切引かずに、それを自分の戦斧で受け止


めた。


相手もかなりの膂力があるようで、おっちゃんでもそう簡単に相手を弾き飛ばすことはできない。


ヒースさんが隙をついてその背後に回り斬りつけるが、スルリと躱され失敗。


敏捷性もかなりのもののようだ。



「後ろ気を付けろ!狼煙が上がってやがる!」


狼煙?


確かに奥の天井に穴が開いている場所から何か煙が上がっている。


ただのたき火にしか見えないけれど、ヒースさんが言うなら狼煙なのだろう。


それなら、狼煙で助けを求めるような相手が、集落の周辺にまだ居るということだ。


ここを制圧しても、戦闘は終わらないらしい。


とはいえ、周辺には罠が張り巡らされているから、援軍ここまでたどり着くのはそう簡単ではないだろうけれど。



僕が後方にも注意を向けて様子を見ていると、坑道の入口に一体の傷だらけのハイオークが現れた。


エルダさんが即座に《弾》を放つも、ハイオークが持つ棍に弾かれ決定打にはならない。


ハイオークは魔術を受けるために止めた足を再度進め、ズドズドと重い足音を響かせながら、近接してくる。



坑道奥の制圧には、まだ時間がかかるだろうし、ヒースさんも流石にあの乱戦の戦場を飛び越えては来られない。


であれば僕の出番だろう。



「行くつもり?」


僕はコクリと頷く。


「精々時間稼ぎしか出来ませんから、あっちが片付いたら援軍送ってください」


どう考えても、あの質量を受け止める膂力は僕には無いし。



エルダさんが僕に先行して《雷轟》を放つ。


オークソルジャーを丸焦げにした《雷轟》だが、ハイオーク相手では足止めが精々らしい。


僕はそこに黒剣を叩きこむが、ハイオークはギリギリで受け止める。


しかし、エルダさんの魔術が効いているようで、動きは緩慢だ。



相手も負けじと攻撃してくるが、全て回避。


たまに隙を見て手足を斬りつけるも、僕の膂力では切断には至らない。


チマチマとした戦いではあるが、時間稼ぎの目的は果たせている。



やがてオークはじりじりと後退を始めた。


逃げるつもりのようだ。


背を向けはしないまでも、ハイオークと僕の距離は少しずつ離れていく。



「追いますか?」


ハイオークが坑道から出て行ったのを見送って、僕は街で買っておいたポ―ションを飲む。


武技で失った生命力を少しずつ回復する。


おっちゃんたちが相手しているハイオークの方はもう少しで終わりそうだ。


すでに近衛の姿は無く、おっちゃんたちは全員でハイオークを囲んでいる。



「追おう。逃がす訳には行かん」


ヒースさんがどこからともなく現れて言った。


「広い所に出れば、私も遠慮なく魔術が使えるわ」


「では、追いましょう。複数体いる可能性も考慮して慎重に」


なんとなく、あのハイオークは外に誘っているような感じがあった。


ハイオークにどこまで知能があるかわからないが、罠や伏兵もあり得るので注意を促す。



僕らが外に出ると、さっきのハイオークはすぐに見つけることができた。


やけに目に付く場所に居る。


周囲をしっかり見れば、予想通り、所々に伏兵が居たので、一体ずつ確実に倒す。


伏兵も罠の被害を受けてボロボロだったので、特に苦労は無かった。


逃亡させないために張られた罠だったが、侵入もそれなりに拒んでくれたようだ。


わざわざ援軍として呼び出すには、どう考えても戦力が少ない。


おそらく、狼煙を見て駆けつけようとしたオークの大半はあの森の中で死んでいるだろう。


後で、ドロップアイテムをしっかり確認しないと。



やがて、ヒースさんとエルダさんの索敵能力の前では、伏兵は意味をなさないことにハイオークも気付いたようで、伏せられていた敵が


一気に襲い掛かってくる。


盾役が居ないので、一人一殺。あるいは二殺。


ヒースさんは一撃で首を刎ね、エルダさんは《弾》で穿つ。


僕は、手足を攻撃して機動力を奪ったところで止めを刺す。



その時、目の端に赤い光がちらついた。


目を凝らすと、線の細いオークが杖を掲げている。


魔術か!


ターゲットは広域のようだ。


このままでは後ろの二人が被害を受ける。


僕は迫ってきたハイオークを躱して、魔術使いのオークに向かう。


射程範囲に入ると、すぐに剣を仕舞い、弓を構える。



「行け!」


放たれた矢はまっすぐに飛ぶ。


魔術使いは矢に気付いたようだったが、躱すことはできず、胸部に深々と刺さった。


詠唱のようなものも止まり、これで一安心。



「躱せ!」



ズドン!



「ぐ……ぁ」



振りむこうとした瞬間。


僕は背後からの重い一撃を受け、吹き飛ぶ。


地面と空の区別もつかないほど程錐もみしながら宙を舞い、ドサリと地面に落ちた。



……油断……した。



なんとか、受け身は取ったが、体の感覚が無い。


頭はぐらぐらするし、剣を握る手も震えて力が入らない。


立ち上がるのも難しく、片膝をついたままだが、僕は何とか相手を探す。



ハイオークの追撃はどこからくる……?



思考する間もなく、僕の真上に影がかかり、同時に目の前が赤く染まる。


なけなしの体力で、頭上に剣を置く。


二回目の衝撃。


ギィィィンと高い音がして、剣が折れた。


しかし、何とか攻撃を避けたようだ。



「み……ミス……ト……」


僕は最後の悪あがきに魔術を使い、そのまま気を失った。


2016年6月5日

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