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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
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#039 作戦開始

2016年6月2日



 草原までの道行には少しの問題も無く、森の東側入口でヒースさんと落ち合った。


「罠は万全だ。多少逃がしても大丈夫な強度がある。

「『捨てられた坑道』内部は調べきれなかったが、いくつか新たな分かれ道が出来ている」


 ヒースさんは地図に数か所加筆した。


「坑道の外の集落に二十八体のオークを確認している。

「内四名が交代制で周囲の見守りをしている。

「アーチャーやソルジャーの姿は外部には見当たらない。

「最悪の場合、坑道内は全部上位種の可能性があるな」


「ハイオークは?」


「一体は確認している。

「すぐに坑道内に戻って行ったがな。

「複数体いる可能性は十分にあるから、気を付けろ」


 ヒースさんやり手だなぁ。


 よく短時間でここまで調べた物だ。


 それから、チームごとに分かれて作戦を相談する。


 大きめの《灯火》を僕、エルダさん、ヒースさんの三人で囲む。


「俺は、武技をぶち込む。

「エルダは魔術だな。

「お前さんはどうする?」


「これで行こうかと」


 僕は、エナさんと一緒に作った特製の矢を見せる。


 矢じりに巻いた布から微かに油の匂いがする。


「なるほど」と、ヒースさんはにやりと笑う。


 本当に悪役の笑い方が似合う人だ。



「何本ある」


「四十です」


「打ちつくしたら、次はどうする?」


「武技は《閃》だけです」


「問題無い」


「だったら、私にその矢を半分分けてくれる?」


「解かりました」



 打てば響くやり取りで、遊撃チームの作戦は決まった。


 坑道の外の集落は火矢で焼く。


 もし、火を消そうとする個体が居れば優先的に狙撃する。


 火矢が尽きたら、僕はヒースさんと同じく武技を、エルダさんは魔術を使う。


 集落を制圧したら、徐々に包囲網を狭め、坑道内へ侵攻する。



 坑道では、崩落の危険があるので、爆薬などは使えない。


 高性能なガス弾でもあれば、坑道内の制圧がしやすいと思ったのだが、どうやらこの世界には存在しないらしかった。


 《毒霧》を上手く使いたいところだが、内部の状況が正確にわからない以上、効果が見込めない。


 下手をすれば、自滅しかねない。


 そこで、僕はあれ?と気づく。



「ヒースさん。坑道の出入り口は間違いなく一つですか?」


「おそらく。だが、確実とは言えないな」


「そうですか」



 もし抜け道があれば、攻撃を免れるオークが出るかもしれない。


 最悪の場合は、挟み撃ちも考えられる。


 もちろん周りには罠があるからそう簡単には入って来れないだろうが、そのリスクは頭の片隅には置いておくことにしよう。


 もうじき夜が明ける。


 突入チームと作戦を摺合せ、日の出と共に、森に足を踏み入れる。



「不気味な静けさね」


 ダリアさんが言った。


 今日の森は、おっちゃんと、エナさんと入った時よりさらに静かだった。


「オークたちはこの辺りの獲物を狩りつくしているみたいだな」


「そうなると、オークはかなり遠くまで狩りに出てくる可能性があるわ」


 エルダさんがみんなに注意を促す。


 ここはすでに、いつオークが出てもおかしくない戦場なのだ。



「グォーグォー」と品の無い鳴き声が聞こえる。


 噂の、オークの狩りチームだ。


 先日遭遇したのと同じで三体で一チームらしい。


 随分遠い段階から、エルダさんが敵を発見していたので、混乱はない。


 エルダさんの狙撃やヒースさんの投擲で機動力を奪い、前衛チームが屠る。


 僕が参加する暇も無い圧勝だった。


 報酬は等分に山分けだということが申し訳ない気持ちになる。



「ここからは罠に気を付けろ」


 ヒースさんが先頭を歩き、その後ろに一列になる。


 集落はまだ黙視できないので、罠は相当広範囲に張り巡らされているようだ。


 僕も道すがらいくつか発見できた。


 質より量と言った感じで、それほど発見には手間取らない。


 とはいえ、オークの中に罠解除できるものがいるとも思えないので、問題ないのだろうけど。



 ヒースさんの案内に従ってたどり着いたのは、僅かに盛り上がった丘のような場所。


 ここからなら集落全体を視認できるが、弓や魔術が届く距離ではない。



「ここを回り込んで、あそこの茂みが待機場所だ」


『捨てられた坑道』の周辺はかなりの窪地になっている。


 大雨が降ったら、冠水しそうな場所で、集落を作るのに向いているとは思えない場所だ。


 おそらく、元は坑道内で事足りる規模だったのが想定以上に拡大しすぎたので、こうなったのだろう。


 家屋というか小屋みたいなものの作りもかなり簡易で、壊れること前提の作りようだ。



「よし、行くぞ」


 おっちゃんの合図で、目的の茂みまで行く。


 見張りが二人一組で巡回しているのが見える。


 それらが最初のターゲットだ。


 エルダさんと僕とで一体ずつに弓を引く。



 二本の矢はいずれもオークの頭部に突き刺さり、きっちりと絶命させた。


「弓もなかなかの腕前だな」


 ヒースさんは念の為に構えていた投擲武器を仕舞いながら言った。


「弓が良かったんですよ」


 この弓は本当にすごくて、狙ったところに吸い込まれるように弓が飛んで行く。


「いい弓っていうのはいい使い手にしか使いこなせないものよ」


 エルダさんが僕の頭にポンと手を置いた。



 前衛陣がドロップアイテムを回収し、その間に僕とエルダさんは火矢の準備をする。


 番えた矢に魔法で火をつけるだけだから簡単だ。


 指示を受けてなるべく遠くの建造物に向かって矢を放つ。


 建造物と言っても掘立小屋未満だが。


 材料の木が乾燥しきっていないせいか、思ったよりは火の勢いは弱い。


 まだ火の手に気付いたオークは居ないようだ。



 何本か射ち続けるうちに少しずつ煙が上がる。


 ようやくオークたちは火に気付き、小屋を打ち壊し始める。


 手近に水の用意は無いらしい。



 小屋に注目して、背を向けたオークに容赦なく弓を打ち込む。


 数体のオークが倒れると、ようやく敵襲に気付いたようで、キョロキョロとあたりを見回し始めた。



「「オオオオオオオ!!」」


 側面から、おっちゃんたち突入組が行く。


「「グガァァァァ!!」」


 オークたちもおっちゃんたちの方へ棍棒を持って駆けていく。



 僕とエルダさんの存在には未だに目が向いていないので、乱戦になる前にしこたま弓を放つ。


 まともに戦闘ができたオークは数体と居ない。


 つまりおっちゃんたちの敵ではない。


 僕たち遊撃チームは位置を変え、また火矢を射る。


 同じことを繰り返して、集落内に侵攻を続けるうちに、三十体近いオークが全滅した。


 小屋も残らず破壊、焼失し、残るは坑道の中のみとなった。



「思ったよりあっけないわね」


 ダリアさんが退屈そうに言う。


 かすり傷一つ負ったものは居ないのだから、ダリアさんが言うことも分かる。


「この辺はただのオークしかいねぇ。本番はここからだ。」


 おっちゃんは警戒を怠らずに言った。



「しかし、外でこれだけの騒ぎが起こっても中から出て来ないとはね」


 ヒムロスさんが坑道の中に目を向ける。


「ビビって出て来れないんだろ」


 ヒグマさんが「へっ」と笑い、ダリアさんに槍の棒部分で頭を殴られていた。



「どうやら、坑道内の方が安全と思っているようだな」


 坑道の入口から、ヒースさんが現れる。


 ヒースさんは、一足先に坑道内に潜入して罠が無いか調べてくれていた。



「何か特別な仕掛けでもあったのか?」


「いや、特には」


 おっちゃんの問いに、ヒースさんは思案顔で答えた。



「じゃあ早く行きましょう。明るいうちに始末したいわ」


「仕掛けはないが、道は大分増えている。

「全部の道を探索してからでないと伏兵が出てきて挟み撃ちってこともありそうだ」


「余計早くした方がいいじゃない」


 ヒースさんには何か心配があるようで、慎重な意見を出す。


 ダリアさんは早い侵攻を希望していて、そのどちらも間違ってないように思う。



「チームを分けようか」


 そう言ったのは、ヒムロスさんだ。


 ヒムロスさんはこのチームのサブリーダー的な感じがする。


 実際、スピードと検索性を両立させるにはそれしかないだろう。



 僕らは、三チームに分かれて探索に入った。



 話し合いの結果、チーム編成に大きな変更はなかった。


 ただ、突撃チームを二つに分け、左壁面の支路をおっちゃんとダリアさんが、右の支路をヒムロスさんとヒグマさんがそれぞれ確認して進むことにした。


 僕ら遊撃チームはと言えば、元々は坑道に入らない予定だったのを、主要道の一番奥まで先行偵察することに。


 これはかなり大きな作戦変更だったが、挟撃を防ぐという本来の目的を考えれば必要なことだった。



 ただし、遊撃チームはあくまで偵察で、攻め込むのは突撃チームだ。


 遊撃チームには重量級の前衛が居ないので、負傷のリスクが高い。


 僕はともかく、エルダさんとヒースさんがオークに遅れを取るとは思わないけれど、念の為だ。



 洞窟の中はかなり薄暗かったが、所々で日の光が入る穴が開いていたので、《灯火》は不要だった。


 最奥の広いスペースに敵が固まっていることは事前調査ですでにわかっている。


 まずはそこまでの道程に罠や伏兵の可能性が無いか探る。


 とはいえ、オークに罠を張る思考や技術は無いので、割とあっさりと最奥に。


 足跡や呼吸に気を付けて、なるべく気配を消す。



「ガァガァ」


「ギャァ」


 オーク語は解からないが、結構にぎやかだ。


 外の集落の壊滅には、まだ気付いていないらしい。



 僕たちは、ヒースさんの合図で来た道を戻る。


 その際に、目に付いた支路を調べることも忘れない。



 その内の一つは倉庫だったようで、三体のオークが見張りのような感じで居た。


 重装備に剣を持っているところを見ればあれがオークソルジャーなのだろう。


 僕たちは一度引くべく踵を返す。



 振り向いた先には、一体のオークソルジャーが歩いて来ていた。

2016年6月2日

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