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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
35/42

#035 幼女神さまがみてる

2016年5月25日



ちょっとエロいです。




 会食が終わり、各々解散していく。


 ヒースさんはいつの間にか音も無く居なくなり、ヒムロスさんは奥さんの待つ自宅へ。


 ヒグマさんはなんだかんだ言っても、酔ったダリアさんを送って行ったし、ヒーリカさんは気を使ったのか、インテリ眼鏡を連れて先に帰って行った。


 おっちゃんはと言えば、しっとりと酔ったエルダさんにしなだれかかられながら、「今日は居住区画の方の家に帰るわ」と言って去って行った。



「一人暮らしで悠々自適になりそうですね」



 エナさんはじーっと僕を見る。


 かなり酔っているようで、足元がおぼつかないでいる。


 目が座っているのも、酔いのせいだと思いたい。



「……送ります。寮まで」


 僕は、エナさんの手を半ば強引に掴んで、先へ歩き出した。


 エナさんの方は勤めて見ない。



 視線の意味が分からないほど鈍くは無いが、はっきり言って、僕は完全に尻込みしている。


 エナさんは、明日がお休みということもあってお酒が入っている。


 僕は、それをいいことに自宅に女性を連れ込むのか?


 というか、自宅じゃなくて家主が居ない下宿先だ。


 それって、かなり外聞悪くないかな。



「って、エナさん?」


 ところが、掴んだ手を引っ張っても、エナさんは動こうとしないので、僕は前に進めない。


「寮には帰りません」


「はい?」


「これは私の矜持の問題れす」


「……おっしゃる意味が解りませんが」


 へべれけじゃないか。


 飲ませた犯人には目星がついている。


 主に、ヒーリカさん。そこに、合流したダリアさん。ダメ押しで幸せをおすそ分けに来たエルダさん。


 そこで何を言われたのかも、概ね見当がついている。



「私がまな板だからですかー」


「えー。もうめんどくさいな」


「あー!めんどくさいって言いましたね!それは女の子に一番言っちゃいけないやつれす!」


「エナさん。今日は帰りましょう。具合悪くなりますよ」


「据え膳食わねばなんとやらというのを知らないんれすか!」


「知ってますよ。でもエナさん多分、明日記憶無いでしょう」


「あははー記憶ないのはあなたですよー」


 もう、おバカでかわいいなぁ。


 連れ帰りたいけれど、ここはグッと我慢する。



 あー。もう、靴脱いじゃったよ。


「あなたが連れて行かないなら、今日はここに泊まりますー」


「わかりました。おんぶするから帰りましょ。ね?」


「……おんぶなら、良いれす」


 ほんとにおバカだなぁ。



 僕は、エナさんを背負って夜道を歩く。


 エナさんは右手で僕の髪をずっといじっている。


「サラサラれすねー。うらやましいれすねー」


「歩きづらい……」


 エナさんは軽いので、腕には負担が無いのだが、前が見えにくい。


「……トイレ」


「はい?」


「とーいーれー」


「えー……」


「漏らしますよ。いいんれすか。背中で漏らしてもいいんですか!」


「いいわけないでしょ」


 矜持はどこに行ったんだ。



 もういいや。



「はいはい、じゃあトイレ行きますよ」


 僕は下宿先であるおっちゃんの家に舵を切る。



 家に着くと、エナさんは勝手知ったるという感じで、自分でとことこ歩いてトイレに行った。


 僕は、それを見送ってから、台所へ行き、銅製のカップを手に取る。


 蛇口の青の魔石に魔力を少し込めて、たまった水を自分で飲み干した。


 それから、使いさしのカップに《浄化》をかけてから、もう一度水を注ぎ、それをエナさんの方に持っていく。


 トイレに灯りがついているのを確認して、ノックと共に呼びかける。


「エナさん。大丈夫ですか?」


「あい。大丈夫らいじょぶれす。ちゃんとできました」


 そんな報告はいらない。


「じゃあ出てきてください。お水飲みましょう」


「私はここに住みますので、お気遣いなく」


「そしたら、僕はどこでトイレしたらいいんですかー?」



 少しの沈黙のあと、トイレの扉が開く。


「どうぞどうぞ」


「うるせーわ」



 僕はエナさんにカップを手渡す。


「……口移しは」


「しません」


 どんだけ甘えキャラなんだこの人。



「あ。でもそのカップ僕もさっき使ったので間接キスですよ」


 ぐびぐび。


「……おかわり」


「どんだけ愉快になれば気が済むんだ」


 僕は魔法で水を注ぐ。


「けふ」


「はい。いい飲みっぷりでしたね」


「おまかせください!」


 敬礼ポーズ。


 今のあなたには、何も任せられませんです。


 これは流石に酔いすぎでは?


 完全に別人じゃないか。



 僕は、敬礼ポーズのエナさんに《浄化》をかける。


「あーん」


 はいはい。口の中もね。



「またおんぶしてあげるから、ベッドに行きましょう」


「寮には帰りませんよ!」


「そんなの、もうとっくに諦めてますよ……」



 エナさんを再び背負い、階段を上る。


 向かうは、僕の部屋だ。


 娘さんの部屋でもいいような気はするが、ちょっと気が引ける。


 おっちゃんの部屋は、加齢臭的な理由から、僕すら使わない。



「はい、着きましたよ」


「……くー」


 おい。


 ほんとに?狸寝入りじゃなくて?


 揺すっても……起きない。



 僕は、腰をかがめて、何とかエナさんをベッドに横たえる。


 えぇい!掴んだ裾を放さんか!


 なんとか手を解くと、エナさんは自分のベッドであるかのように掛け布団を引き寄せ、ベストポジションに収まった。


「すんすん……くんかくんか……」


 嗅がないでください。



 あー、もうどんなに可愛くても酔っぱらいとは絡みたくない。


 今日酔わなかった女性は、ヒーリカさんだけ。


 相対的に、彼女の評価を上げざるを得ない。



「私、お酒弱いんでー、ハーブティーをお願いしますー」


 彼女は、そう言っていた。


 多分、嘘だと思う。


 経験上、ああいうタイプは蟒蛇だ。これもお約束だ。



 エルダさんもかなり強かったけれど、気分が良かったせいか、ごろにゃん状態だった。


 ダリアさんはおいしそうに、楽しそうに飲んでいた。


 エナさんはそれに付き合う感じで、淡々と飲んでいたのだが、ちょっと目を離した隙にこんなことに……。



 エナさんは気分良さそうに、笑顔を浮かべながら眠っている。


 ちょっと悪戯心が芽生えて、髪をサラリと撫でてみる。


 くすぐったそうに身じろぎする姿は、まるで猫のようだ。


 ぐちゃぐちゃに丸めて、抱き枕にしてしまっている布団をはぎ取って、広げて掛け直す。


 最初はちょっと嫌な顔をしたが、すぐにまた、安眠に戻ったようだ。



 僕は、部屋を後にして、初日の寝床だった、廊下の片隅で丸くなる。


 初日と違って、寝袋があるから寝心地に問題はない。


 木剣を枕代わりに、良い場所を探すと、慣れ親しんだ寝姿だ。


「おやすみなさい」


 誰にもなくそういって、眠った。




 しばらくすると、『すんすん』と音が聞こえてくる。


 気配を感じて、薄目を開けると、エナさんの顔があった。


 どアップだ。



「……ん。トイレですか?」


 言うまでもなく、犯人はエナさんだ。


「いえ。そうではなくて……」


 僕は、寝袋のまま芋虫よろしく上半身を起こす。


 辺りはまだ、真っ暗だ。



「お水ですか?」


「いえ、大変なご迷惑をかけた自覚はありますので、もうご容赦下さい」


 声が微かに震えている。


 羞恥を耐え忍んでいるようだ。


 しかも、どんなに酔いつぶれても、前夜の行動を覚えているタイプ。


 可愛そうに。


 なんにしても、酔いはもう随分さめたようだ。



「起こしてしまって申し訳ありません。よければベッドで寝てください」


「ん。エナさんはどうするんです?」


「私はどこでも寝れますから」


「嫌ですよ。僕にだって矜持があります」


 女の子を床に寝かせて自分はベッドって、よほど鬼畜な精神の持ち主でなければできないだろう。



「矜持ですか。

「……では、一緒にベッドで寝ますか?

「私の矜持の件もありますし。

「さもないと、私も廊下で寝ますよ」


「……わかりました。服は着ててくださいよ」


「あ、当たり前です!」


 もう、いいや。


 だってやり方が、酔っている時と同じだ。


 トイレ連れてかないと、ここでする。とか。



 酔ってたエナさんにいかがわしいことしたら申し訳ないと思うけど、もうだいぶ回復してるみたいだし。


 どうせ、メシ屋で抱っこされたのと変わらないし。


 何より、早く寝たい。


 明日は、オークの件でバタバタしそうだし。



「おやすみなさい」


「は、はい」


 エナさんの戸惑いを完全にスルーして眠りにつく。


 ちょっと意地悪しても、今日は許されるだろう。



 枕が一個しかないので、半分こする。


 少しすると、スルスルと衣擦れの音が聞こえる。


「あの、エナさん?」


「あ。いや、見ないでください。寝やすい格好になるだけです」


 衣擦れが止むと、エナさんは布団に入って、もぞもぞと位置を決める。



「あの、目を開けても?」


「……どうぞ」


 下半身は布団で見えないが、上半身はブラウス一枚。


 胸元のボタンも、かなり大胆に開いている。


 エナさんはその胸元に、僕の頭部を掻き抱くようにした。



 あ。これ、メシ屋の時と全然勝手が違うや。


 足の感触から言って、エナさん下はズボンを履いてないと思う。



 服は着たままって言ったじゃないかぁ!



「あの。エナさん。これ、ちょっと恥ずかしいかなって……」


「そんなことは百も承知です」



 てことは、あなたも恥かしいんじゃないか!



「あの、なんでこんなことを?」


「……匂いです」


「匂い?」


「あなたのベッドで寝ていたら、常にあなたの匂いがして、包まれてるみたいな感じでもにゃもにゃするんです!」


 いや。後半が全然わからない。


「もにゃもにゃってなんです?」


「ムラムラと言ってもいいです!」


「良くないよ!」


 女の子がムラムラなんて言ってはいけません!



「それって、僕が近くに居たら逆効果では?」


「大丈夫です!迎え酒と同じ種類の対症療法です!」


 それは、対症療法じゃなくて民間療法だ。



 というか、このままだと僕の方がマズイ。


 下半身に対症療法が必要になる。



「あの、寝返り打ってもいいですか?」


「ダメです!」


「なんで!?」


 取りつく島も無かった。


「さ、さびしいから……」


「ぐは」


 無理だ。寝返り無理。


 もう上手く、工夫して気付かれないようにするしかない。


 もぞもぞ。



「あ、あの」


 ひー!


 離れようとすると、エナさんがすり寄って来てむしろ危険な位置関係に!


 ていうか、僕の足の間に足を挟むのやめてください!



 ダメだ。幼女神様がみてる。気を強く持とう。


 あの幼女には早すぎる。



【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


 モザイクかかるから、わし、平気じゃよ。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 うるせーよ。


 開封してないのに勝手に開くな。コンピュータウイルスか。



「あの、やっぱり私では魅力に欠けますか?」


 不意に腕の力が緩み、体の接触が弱まる。



「そんなわけないでしょう!?」



 僕をここまで追い込んでおいて、何を言っているんだこの人。


 無自覚でも、許されないことってあると思う。



 僕は、もはや羞恥心をかなぐり捨てて、エナさんに全身で思いっきり抱きついてやった。


 足が軟体動物さながらに絡まる。


 あー。エナさんの体、冷たくて気持ち良いんじゃぁ。


 しかもお肌がつるつるすべすべだ。



「あの、これって……」


 どうやら妙な感触に当たりがついたらしい。


 僕は勢いよく起き上がり、エナさんを組み敷くようにして、体の位置を変えた。



「な、なん……!?」


 意趣返しも込めて思いっきりキスをする、口腔内を凌辱するつもりのベロチューをお見舞いする。


「んん!?んーんー!ん゛ん゛-!んっ!んっ!」


 もう、手加減も口加減もしない。


「んっ、んっ、んっ……」


「ぷはっ」


「はぁ、はぁ……急にどうして?」


 僕はエナさんを強く抱きしめる。


「出会って間もないとか、付き合い始めたばかりとか、僕の体が貧弱だからとか、色々あったんですが、そういうのどうでもよくなってしまいました。

 エナさんが魅力的なのが悪いんですからね!」



 結局は、据え膳食わねば男の恥なのだ。


 ここまで、整えてもらって何もしないのはいろんな意味で無理。



 僕は右手をブラウスのボタンにかける。


 エナさんはビクリと反応して、僕の手を止めようと触れるが、すぐに手を放した。


 エナさんの赤い瞳は、僕を見て離れない。


 あんまりだらしない顔してないといいけど。


 表情にキリっと力を入れる。


 ぷつり、ぷつりとボタンは外れて、ブラウスは完全にはだけ、下着が見える。



 けれど、しっかり見る前に、エナさんが胸元で腕を組んで、隠してしまった。


 そもそも、暗いから、ほとんど見えないんだけど。


 解こうとしても、解いてくれない。


 挙句の果てに、胸元を見られないように僕の頭を胸元に抱え込んでしまった。


 それって、本末転倒じゃないの?


 おかげで、エナさんの下着は、動きやすいタイプだろうとわかった。


 手を背中側に回しても、金具とか何にも無いんだもん。



「恥かしいからもう許して……」


「そんなかわいいこと言っても許さない!」



 その後、僕は理性を無くしたので、語られるべきことは無い。

2016年5月25日

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