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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
34/42

#034 チーム結成

2016年5月23日



 お店に付くのは、少し遅くなった。


 言うまでもなく、エナさんとイチャイチャしていたからである。


 内容は割愛するが、エナさんは意外と受け身だったと言うことだけ伝えておく。



 あの後、エナさんは僕に胸の内を打ち明けてくれた。


 孤児院で育ったこと、髪の色が嫌いだということ、自分に自信が持てないということ、僕に一目ぼれだったと同時に、嫉妬していたこと。


 僕だって、そんなに変わらないんだ。


 エナさんに嫉妬されたり、一方的に好いてもらえるほど立派じゃない。


 エナさんみたいに、正直に打ち明けることができないことがいくつもある。



 だから、僕は「一目ぼれだったことは同じですね」と言った。


 うわ。うれしそうにしてるエナさんかわいいな。とか思っていたら、すぐに店についてしまいそうになったので、ちょっと迷ったふりをして遠回りをした。


 あれは、絶対エナさんも気付いていたと思う。


 そしたらその後、本当に迷ってしまって、怒られた。



 僕たちが店に入ると、すでに出来上がっている面々を発見。


 どうやら、今回はお店貸し切りのようだった。


 おっちゃん、インテリ眼鏡、ヒーリカさん、ヒムロスさん、ヒグマさん、ダリアさんと、見知らぬ美人が一人と、知らない男が一人。



「あの方は、エルダさんですよ」


 ……あぁ!おっちゃんの奥さん!


 おっちゃんの言うとおり、すごい美人だ。


 年齢とかどうなってるんだ。


 二十代にしか見えない。


 紫の髪をアップにしていて、口元のホクロがセクシーだ。


 胸もすごいんだが、じっくり見るとエナさんに殺されかねないので、チラ見に留める。



「もう一人の男の人は?」


「彼はヒースさんですね。

「騎士団所属の有名な斥候の方です。

「元冒険者と聞いています」


「おう、遅かったな!座れ座れ」


 少々、名残惜しくはあるが、お声が掛ったので、エナさんと分かれて座る。



 ……男性陣と、女性陣でテーブルが真っ二つじゃないか。


 中学生じゃないんだからさぁ。


 僕は、あからさまに落胆して見せる。


 話しの大枠が片付いたら、絶対あっちに混ざろう。


 僕は、今こんな姿だから、きっと受け入れてもらえるだろう。


 エルダさんにも挨拶が必要だしな。



 というか、そのエルダさんからは、不機嫌オーラをひしひしと感じる。


 どうやって、この場に招へいしたんだろう。



 会が始まり、簡単な自己紹介が進む。


 明日の情報次第で作戦は変わるが、討伐チームはこのメンバーで決定だ。


 ヒーリカさんは、今回の任務の担当職員ということになる。


 C、Bランクと、騎士団の精鋭にDランク冒険者の僕なんかが混じっていていいんだろうか。



 基本作戦は、二チームにわかれて、一方が背後からの強襲。


 もう一方のチームは逃れてきたものを狩る。


 Aチームには制圧力、Bチームには対応力が求められる。


 前衛であるおっちゃんとヒグマさん、槍使いのダリアさんとヒムロスさんは突入のAチーム。


 弓の名手であるエルダさんと、索敵能力が優れた斥候のヒースさんと、みそっかすの僕がBチームだ。



 正直、チーム変えてくれないかな。


 Bチーム知らない人ばっかりじゃないか。


 エルダさんは美人だけど、不機嫌だし、ヒースさんはかっこいい感じのおじさんだけど、ミステリアスだ。



 そして、おっちゃんが、チラチラとこっちを見ている。


 俺をきっかけにすることでエルダさんと話しをしようとしてるな。



 そうは、問屋が卸さない。


 僕は、タイミングを見計らって、椅子と飲み物を持つと、すぐさま移動を敢行する。


 今は、おっちゃんのことよりBチームの二人と仲良くしないと。



 女性陣四人は丸いテーブルに座っている。


 まずエナさんが、エルダさんの隣に。


 エナさんの反対隣りにはダリアさん。


 ヒーリカさんはエナさんの真向かいだ。



 僕が座ったのは、エナさんとダリアさんの間。


「こっちに来ても良いですか?」


「おう、来な来な」


「丁度聞きたいこともあったからね」


「私も、かまいません」


「……」


 エナさんは黙っている。


 あぁ、これは根掘り葉掘り聞かれた後だな。


 まぁ、エルダさんの機嫌が少し良くなってるみたいだし、いいか。


 それより、ヒーリカさんのにっこり笑顔が怖いんですが。



「あの、エルダさん。

「いつもおっちゃんにお世話になっています。

「下宿させていただいてる者で、今日付けでDランクになりました。

「記憶喪失で、名前がまだ思い出せないんですが、よろしくお願いします」


「うん。聞いているわ。エナから」


 エナから、にずいぶん力が入っている気がするのは気のせいではないはず。


 つまり、おっちゃんからは一言も聞いていないってことですね。



「私は、キミを信用しているわ。

「エナともずいぶん仲がいいみたいだしね。

「一緒のチームだし、これからよろしくね」


 そんな剣呑な目で言われても、困るんだけど。



「僕は、エルダさんが美人でいい人だって聞いていたので、とっくに信頼してますよ」


 にっこり笑って見せる。



「私は、さっき手合せしたからね。

「実力も申し分ないし、まぁちょっと知識不足はあるけどね。

「十分仲間として信頼してるよ」


「エナはどうなの?」


「私は、あの……」


 僕は、じっと見守ることにする。


「ちょっと秘密主義だったり、好戦的なところがあると思いますが、やさしい人だと思います」


「ふーん。

「よし、ちょっと来てちょうだい」



 エルダさんは少し離れた席に僕を連れて行く。


 体育館裏呼び出しかと思いきや、自分が椅子に座り、足を開いてその間に僕を座らせた。


 そして、僕を抱きかかえるようにして、顎を僕の頭の上において完成。



 なんだこれ。


 遊園地の安全バーに着想を得た新手の精神攻撃か。


 エルダさんの匂いにお酒の匂いが混ざってクラクラする。


 しかも、頭の後ろには、大きなクッションが二つ。



 その後ろからは、エナさんの殺気にも似た気配を感じているので、ゆったりと体重を預けるわけにはいかない。


 けれども、身動きが取れないほどにギュッとされているので、無駄な抵抗とも言えるが。



「エナの事、どう思ってるの」


「え?好きですけど」


「どの位」


「生涯離れるつもりはありません」


「……そう」



 その後、少し一緒に食事をして、僕は解放された。


 けれど、エルダさんは外れた席から、動こうとしなかった。


 仕方ないので、チラチラと様子を窺っているおっちゃんの襟首を掴んで起立させる。


 おっちゃんは身長が低いので、なんとか届く。


 周囲が静まり返って少しやりづらい。



「チラチラ見てるだけってのは、流石にちょっと、みっともないんじゃないの」



 僕はそれだけ言って席に戻る。


 エナさんの隣の定位置だ。



 けれど、エルダさんの隣には、誰もいない。



 おっちゃんは観念したか、はたまた覚悟を決めたというべきか、エルダさんの所に向かう。


 話しの内容は全く聞こえないが、雰囲気は悪くない。


 それからしばらくして、二人は外に出て行った。


 このまま戻らないとか、無いよね!?



 僕はと言えば、エナさんに抱きかかえられていた。


 さっきまで、僕がエルダさんに抱きかかえられていたのが気に入らなかったようだ。


 不機嫌なエナさんを見かねたヒーリカさんの「エナちんもやればいいじゃん」という一言でこうなった。


 ヒーリカさん、さっきから、僕に何か恨みでもあるんですかね。


 さっきの生ぬるい視線とか、投げやりな物言いとか、『おめーらはその辺で乳繰り合っとけ』って言われてる気持ちになる。



 まぁ、うれしいからいいんだけど。



 お待ちかね。今日のメニューは、オーク肉のステーキだ。


 一枚のカードは十キロの肉になる。


 それを、五センチくらいの分厚さでカットして強火で焼き上げる。


 その後オーブンを使って、じっくり仕上げる。


 時間がかかる調理だが、これが一番うまいのだ、と、店のオヤジさんが言っていた。



 部位は、ばら肉のようで、甘い脂身がたっぷりついていてうまい。

 

 スパイシーな香りが食欲を刺激し、ナイフを入れる度に、肉汁が弾けて溢れ出す。



 あの人型の怪物から、こんなにうまい肉が取れるのか。


 正直抵抗があったが、食べて良かった。


 まぁ、一度カードになっているっていうのがせめてもの救いで、捌くところからだったら、もっと抵抗が増していたと思う。



 全員分のステーキが焼きあがるころには、二人でどこかに出ていたおっちゃんとエルダさんが仲睦まじく戻って来て、最初とは全然違うやんわりした空気の中での食事会となった。


 僕は、戻ってきたエルダさんに、またも抱きかかえられた。


 エナさんが、僕を抱きかかえているとステーキが食べづらいことに気付いたらしく、あっさりと手放したからだ。


 放逐された僕をエルダさんが拾ってくれた。



 さっきとは別人のようにご機嫌で、僕に肉をあーんしてくれる。


 なんか、周囲の、特におっちゃんの視線が刺さるので、やめてほしい。


 苦肉の策で、僕は自分のステーキを切ってはエナさんにあーんして渡す。


 エナさんは気にした風もなくモリモリ食べてくれるので、視線の刺々しさを少しは緩和できた。


 もう、訳がわからないから、終わってくれないかな、この会。




 僕がトイレを理由に抜け出し、少しして戻ると、席はいい感じにばらけていた。


 中学のレクリエーション大会から、大学生の合コンくらいまでは進化したらしい。


 まぁ、良し悪しはどちらとも言えないが。



 おっちゃんの近くにはエルダさんが楽しそうに座っている。



 ヒーリカさんはインテリ眼鏡の世話をしているようだ。


 流石にあーんとは行かないが、インテリ眼鏡は寝不足なようで、されるがままだ。


 口とか拭いてもらっている。



 ダリアさんはヒグマさんではなく、ヒムロスさんと話している。


 槍使い同士共通の話題もあるのかもしれない。


 あるいは、ダリアさんがヒグマさんをヤキモキさせる作戦に出ているのだろうか。


 だとすれば、完全にヒグマさんはダリアさんの思惑に嵌っていると言える。


 ヒムロスさんが既婚者なことを知らないらしい。


 僕は以前聞いていたので、知っている。



 エナさんは三人前のステーキを前に、ただひたすらに食べ続けるマシーンと化している。


 僕には居場所がなかったので、外れた席で店のオヤジさんと杯を酌み交わしていた。


 まぁ、飲み物はいつものサイダーだが。


「坊主、なかなか面白いな」


「こんばんは、ヒースさんでしたよね?」


「おう、坊主は名無しなんだろ」


「はい。……嘘じゃないですよ?」


「うん、まぁ裏は取れてる」


「へぇ」


「フフフ……」


 今までにいなかったタイプの男だな。


 おっさんというにはちょっと若い。


 細身で、例えるならルパンみたいな人だ。


 見た目は冴えないが、醸し出す雰囲気がかっこいい。



「一週間もしないうちにDランクだって?大出世じゃないか」


 これは店のおっさんの言葉。


「中々強引な手続きだったみたいだけどな」


「自分のことながら、それには同意しますねぇ」


「いいのかい。命に関わるぜ」


 ズルしてランクを上げても、リスクしかない。と、暗に忠告してくれている。



「冒険者はどのランクでも命がけです。

「違うのは、報酬の額面だけ。

「だったら、ギルドの決定に従っときますよ」


「ロマンチストかと思ったら、案外、合理主義なんだな」


「大げさですよ。

「訳あって、お金が必要なんですよね」


「おいおい、穏やかじゃねーな。

「冒険者ってのはそういうやつから死んでいくぜ」


 オヤジさんは、僕を心配してくれているようだ。



「大丈夫です。

「出来ないことはしません。

「そのかわり、出来ることは精いっぱい頑張ります。

「その一環で、僕はここに居るんですよ」


「ほぅ。さっきの茶番も出来ることってワケかい?」


 茶番。言いえて妙だと思う。


 本当の事だから腹も立たない。



「まぁ、そうですね。あれは必要なことだったでしょう?

「誰がエルダさんを呼ぶことに決めたのか知りませんが、最後までちゃんと考えて欲しいですね」


「坊主の行動まで計算ずくだったんじゃないか?」


「違いますよ。

「仕掛け人と演出は別人です」


「へぇ」


 へぇじゃないよ。わかってるくせに。


 この会自体は、おっちゃんとインテリ眼鏡が設置した会のはずだ。


 もとを正せばこの会は、おっちゃん、僕、エナさんの三人での打ち上げだったはずだ。


 人を増やせるとしたら、元々の主催だったおっちゃんしかいない。


 エナさんだったら、参加者を増やすにしても許可を取ってからのはずだ。


 それに、仕事に追われていたエナさんが、誰かに声をかけるのは物理的に困難だし、考えにくい。



 おっちゃんだって暇じゃない。


 おっちゃんが直接声をかけられたとすれば、応接室で会っていたインテリ眼鏡くらいのものだ。


 その場で、オーク討伐の決起集会を兼ねた食事会を開く算段が立つ。


 そして、エルダさんに声をかけるとしたら、このタイミングしかない。


 急に呼ばれても、準備があるだろうし、葛藤もあるだろう。



 ギルドとしては、本当なら、エナさんに伝言を頼みたい所だろうが、時間が取れそうにない。


 そこで、今回の依頼の受付担当として、ヒーリカさんに白羽の矢が立った。


 まぁ、これは推測だけれども、とにかくギルドの職員を伝令に走らせたはずだ。


 エルダさんに声をかけた足で、騎士団の詰め所か門に行って、ヒムロスさんとヒースさんの協力を取りつけたのもこの時だろう。



 店の貸し切りはおっちゃんの手配とは思え無いから、ギルドの名義かな。


 タイミング的には、元居た客を追い出した可能性があるけれど、その辺は僕は知らない。



 それから、エナさんは今回の戦闘には参加しない。


 二日連休だそうだ。


 さもありなん。



 僕と別れてから、応接室に呼ばれたヒグマさんとダリアさんはそこでインテリ眼鏡に、討伐および決起集会に参加するように通達されたと。



 要するに仕切りはギルドなのに、おっちゃんとエルダさんの関係修復に少しも視線が向いていないのだ。


 まぁ、この場に呼び出してしまえば、上手くいくと思ったのだろうし、事実その通りなのだろうが、もっとスマートなやり方があっただろうに。


 おかげで、僕が突発的なダサい茶番を演じる羽目になった。


 だって、早期解決しないと、エナさんが落ち着いてご飯を食べれないじゃないか。


 気落ちしたエルダさんの背中と、それを見るエナさんの姿に耐え切れなくなったのだ。



 本来は、ギルドが仕掛け人で、演出はおっちゃんかエルダさんの先に動いた方。となるはずだった。


 僕が先に動いたのはただのイレギュラーだ。



 もちろん、わかった上で聞いてるであろうヒースさんには長々とした説明はしない。


 もうこれ以上は言わないという意思表示をして、僕は、サイダーを飲んで一息入れた。



「……ただ、あなたの存在だけ、浮いてる感じはあるんですよね」


 人間関係のなかで、ヒースさんだけつながりが薄い気がする。



「おっと、攻勢に出られちまったか。

「まぁ、確かに坊主とは初めましてだがね。

「他とはそうでもないぜ。」


「こいつは元々Cランクの冒険者だったのを、騎士団にスカウトされた変り種だ。

「人間性はともかく、能力は信用していいぞ」


「オヤジさん、詳しいんですね」


「まぁ、こんな店やってると色々情報が入ってくるもんよ」


「……なんだ、元Bランク冒険者なのは秘密か?」


「……昔のことだ。

「任務中に足をやられてな、冒険者業は廃業したんだ」


 オヤジさんが、足を引きずっているのには気づいていた。


 体格からして、冒険者だったであろうというのも察しはつく。



「お二人は昔から親しいんですか?」


「「親しくは無ぇ」」


 いや、仲良しだろうその反応は。


「ただ、昔パーティーを組んだことはある」


「あぁ、あいつらともな」


「その時はまだ、こいつも新人でな。

「お前さんと同じくDランクだった」


「アンタらだって、その時はまだCランクだったろ」



 なんだ、浮いていたのは僕の方じゃないか。


 みんな古くからの知り合いだったんだな。


 なんだか、僕は少し寂しい気持ちになりながら、彼らの昔話を聞く。


 おっちゃんのハチャメチャな冒険譚や、ヒースさんの失敗談。


 エルダさんを取り合った話しや、ヒムロスさんの結婚に至る話しなんかもしてもらった。


 とても楽しい話だけれど、そのドタバタ活劇に僕の出番はない。



「俺たちは、坊主に期待してるんだぜ」


 ヒースさんはそういってニヤリと笑う。


 シニカルな笑い方が似合う人だと思った。



「精々頑張ります。死なない程度に」


 僕は、『僕の冒険譚はこれからだ』と打ち切りめいたセリフを思い浮かべるのだった。


 次回に続く。

2016年5月23日

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