#003 邂逅パターンのいろいろ
2016年4月11日
2016年10月21日
僕は声をかけられた瞬間。四パターンの思考を巡らせた。
僕はこう見えても、ネット小説をかなり読んでいるので、こういうお約束は知り尽くしている。
その一、魔物に襲われるパターン。
ぐるるるーとか言って狼やゴブリン的な魔物が襲い掛かってくるのだ。
主人公は命からがら逃げだして、何とか人里にたどり着くわけだ。
その二、盗賊に襲われるパターン。
これはやばい。
前世で格闘技とかやってない限りは完全に死亡フラグの筆頭だ。
運が良ければ誰かが助けてくれるとか、殴ってみたら相手の頭が『ぱっかーん』といくとか、そういうパターンもあるが、正直期待できないだろう。
その三、エルフのお姉さんパターン
小説ではあまりにも都合がよすぎると思っていたものだが、当事者になってみると、ご都合主義でもいいからエルフのお姉さんに来て欲しい。
でもなー。第一声の時点で声がもうおっさんだもの。
希望は薄い。
せめて、このおっさんが盗賊なら、そこにお姉さんが助けに来るパターンに期待を持てるが……。
僕は一縷の望みにかけて思い切って振り向く。
「こ、こんにちは……」
「お前、こんなところで何しとる?」
おじさんてば、さっきも同じこと言ってたじゃないですかやだー。
厳ついおっさんだった。
盗賊の可能性十分。
「おい!聞いてるんか?」
「はい!聞いてます!」
僕は記憶喪失みたいで、
ここがどこかもよくわからず、
なんだかわからないうちに白い光に包まれ、
気付いたら森の中、
手に持っていたのはこの棒っきれだけで。
というようなことをしどろもどろに捲し立てた。
「そうか、そうか。大変ったんだな」
話しが終わる頃になると、おっさんは目頭を押さえていた。
僕が言うのもなんだが、人が良すぎないだろうか?
持ち物が棒っきれの部分が一番強く琴線に触れたらしく、その時、少しだけ神様に感謝した。
さて、このパターンは知っている。
その四、親切なおっさんパターンだ。
主人公が異世界に転生して右往左往していると、厳ついおっさんに声をかけられる。
それがとってもいいおっさんで、地元の有力者だったりして、かわいい娘さんがいて、美人の奥さんがいる。
おいおい、おっさん。
そんないかつい顔して美人の奥さんなんてやるなー。なんていいながら、しばらくお世話になるのだ。
出来れば、僕もそんな感じで行きたいが、出来るだろうか。
前世の記憶はほとんどないが、コミュ力が低かったことは覚えている。
なぜだ。
もっと、楽しかった記憶とかを残しておいて欲しい。
「それで、おっ……おじさん。人里に出たいんですけど、どっちに行ったら?」
「いや、お前さん武器もないんだろ?とりあえずついて来いや」
おっさんは、狩りのついでに森の奥の鉱山で鉱石を採掘していくらしいので、僕も同行することにする。
森で一晩明かして、明日の朝に森を発つ計画らしい。
「あ、やっぱり鍛冶とかするんです?」
鉱石の採掘と聞いて、ピンと来たので聞いてみると、おっさんはニヤリと笑う。
「おうよ!よくわかってんじゃねーか」
わからいでか。あんた見るからにドワーフじゃないか。
「やっぱりドワーフは鍛冶してなんぼですね」
僕がうんうんと頷くと、対しておっさんは首を傾げた。
「あん?ドワーフ?俺は『ドルフ』ってんだが、へんなあだ名は勘弁だぜ」
ふむ?ドワーフはいないらしい。
「あの、エルフさんって知り合いにいますか?」
「んー?聞かねえ名だな。知り合いか?」
「いえ、なんとなく浮かんだ名前だったので……」
まさかのエルフもいないだと!?
こんなところでテンプレートが崩れるなんて思いもしなかった!
いや、まだ希望を捨てるには早い。
知られてないだけで、隠れ里に住んでるパターンもあるはず。
異世界に来たからにはエルフに会うのと、猫耳もふもふだけは必ずやって見せる。
『ピコン』
「……メニュー」
「なんかいったか?……って何泣いてんだお前ぇ!?」
「なんでもありません。ありがとうドルフさん……」
【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□
居るぞ、エルフと猫耳もふもふ獣人。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ドルフさんが、「いいってことよ」とかいいながら頬を染めているが、知ったことではない。
この世界に来たことを、初めて喜んだ瞬間だった。
2016年4月11日
2016年10月21日:表現、誤字など修正しました