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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
22/42

#022 ピクニック、その前準備

2016年4月29日



 朝が来て、僕は起床する。


 おっちゃんが新たに用意してくれた部屋は、物置を少し片づけただけの雑多な部屋だ。


 だからといって、居心地が悪いわけでは決してなく、二泊目にしてすでに慣れ親しんだ居心地の良さを感じる。



 振り返ってみれば、昨日はかなり忙しかった。


 まだ少し眠い気もするが、それ以上に体が空腹を訴えているのを感じる。



「おはようございます」


「おー、おはようさん」


「おっちゃん。朝ごはん出来てます?」


 昨晩の夕飯抜きの刑罰により、僕はお腹が減っていたので朝食を早く食べたかった。


「いや。今日の朝食は森への道すがら食おう」


「えーっと。面倒なら、僕が作りましょうか?」


 自分の料理歴を僕は知らないけれど、パンを焼いたり卵を焼いたり、生野菜の盛り付けくらい出来るだろう。



「お前さんの料理も楽しみではあるが、今日は駄目だ」


 おっちゃんは「朝食は向こうで食べる」と言って憚らない。


 おっちゃんがそう言うなら、何か事情があるんだろう。



 仕方がないので、朝食を諦め、空腹のまま神殿に向かうことにする。


 今日はそもそも、《基礎魔法》、《基礎魔術》と《アイテムボックス》を取得するために少し早く起きたのだ。



 今日は、森をくまなく探索する予定だし、油断はできない。


 出来る限りの準備をして挑もうと思う。



 それに、僕の場合は自分でポイントの振り分けができる。


 それ故、自力でスキルを習得できるわけだが、神殿に行った経験が無いのに、急に新しいスキルが使えるようになっていたら怪しまれる。


 今回神殿に行っておくことで、新しいスキルを覚えても、しばらくはごまかしが効くだろう。



 神殿で取得した能力の記録が残らなければもっと好都合なのだが、どうだろう。


 それと、《欺瞞》のスキルを使っておくことも忘れられない。


 ここに来てようやくの出番だ。



 昨日、夕飯抜きで空いた時間にステータスを確認したところ、職業は冒険者に変わっていて、レベルは一気に上がっていた。


 ラッシュボアと、大男との戦闘の経験値だろう。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ※※※(14)(Lv7)/冒険者


【ポイント残/総】

 200/450


【ステータス】

 HP:100

 膂力:10

 頑強:10

 敏捷:10

 精密:10

 魔力:10


【称号】

 《使徒(310)》


【能力】

 ・メニュー(0)

 ・ポイント再配分(0)

 ・欺瞞(50)

 ・契約魔術(100)

 ・攻撃知覚(50)

 ・動作最適化(50)


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 今回使えるポイントは、《使徒》の称号分を除いた140ポイント。


 《使徒》の称号の恩恵である310ポイントは隠しておいて、緊急時にしか使うつもりはない。



 《基礎魔法》、《基礎魔術》、《アイテムボックス》に、それぞれ10ポイント使い、残り110ポイントを割り振る計画を立てる。


 これでようやく、エナさんから「悲惨」と言われた最低値のステータスから脱することができる。


 そう思うと喜びも一入だ。



 神殿は、ギルドから少し離れて南方の居住区の方にある。


 所在地は、今朝おっちゃんに聞いたのだが、言われてすぐに思い当たった。


 初めてこの街に来た日に、とても目を引かれたので覚えていたのだ。



 しばらく歩くと、そのシルエットが見えて来た。


 言われてみれば、確かに神殿っぽい。


 その外観は美しく、朝日の当たっているのを見れば、神々しいと言える。



 中に入れば、大理石調の内装もまた、美しい。


 これで、中にいるのが綺麗なシスターなら最高なのだが、実際の神官は爺さんだった。


 他に人は見当たらない。


 待ち時間が必要かと思ったが、無用な心配だったようだ。


 元々、ポイントがたまらなければ意味が無い場所のようだし、まだ朝も早い。


 そう考えれば、混雑している方がおかしいと思い直す。



 僕は神官の爺さんにお布施の名義で半銀貨を一枚渡す。


 爺さんは神妙な顔でそれを受け取り、僕を奥へと案内してくれた。



 目的地は、女神を象った石像の前。ここが、儀式の場所のようだ。


 その神像は幼女神とは似ても似つかないグラマーなボディだが、余計なことを考えると幼女神からツッコまれそうなので、考えない。



 僕は無心に赤い敷物に片膝をつき、神の形をした石像に祈るようなポーズをとる。



「彼の者に力を授けたまえ」


 神官の爺さんの声がして、石像とは、全く関係ない方から、光が発される。


 光源は、僕の後ろに控えている神官の爺さんだ。


 思わず後ろを確認する。


 神像が光っているのだろうと思って目を開いただけに、結構驚いた。



 爺さんが淡く光っている様は、さながら老人が天に召される過程のようで、僕はとても不安になったので、気を取り直して祈る振りを続ける。



 やがてその光は僕に移り、しばらくして、発光が止んだ。儀式はこれで終わりのようだ。


 僕は祈るように組んでいた手をほどく。


 神官の爺さんも、ちゃんと生きている。なによりだ。



 神官の爺さんは、裏から石の盆の上にスクロールを一巻き載せて持って来て、それを僕に手渡した。


「こちらはステータスを閲覧するためのスクロールです。

「希望の能力が宿っているかをご確認ください。

「『ステータス』と唱えれば、見られます。

「それから、閲覧後には、燃やしてしまうことをお勧めいたします」


「ステータス」


 僕が説明を受けてそう言うと、スクロールが青く光る。


 開いて確認すれば、確かに《基礎魔法》と《基礎魔術》と《アイテムボックス》はスキル欄に追加されていた。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ※※※(14)(Lv7)/冒険者


【ポイント残/総】

 0/140


【ステータス】

 HP:200

 膂力:70

 頑強:20

 敏捷:20

 精密:20

 魔力:20


【称号】

 なし


【能力】

 ・アイテムボックス(10)

 ・基礎魔法(10)

 ・基礎魔術(10)


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 ずいぶんと、冒険者らしいステータスになったと思う。


 他人のステータスを見たことは無いけれど、それでも満足のいく結果だった。



 それから僕は、スクロールを燃やすべく、火を顕現させる。


 初魔法に少し、緊張。



 呪文が頭に浮かぶ。


 そして、不思議なことに、なんとなくいらないセンテンスがわかる。


 《我、求むるは火精の加護》

 《我が指先に、集いて来たれ》


 原文から抜粋して、《来たれ》だけを発音する。


 指先に火をつけるくらいなら、これで十分だった。



「ほぉ。お上手ですな」


 神官の爺さんは興味深げだ。


 呪文を省略したことに気付いたのだろう。



 僕は「そうですか?えへへ」と知らんぷり。


 火のついたスクロールを、石盆に戻す。


 しばらく経って出来た灰は、神像の前の灰鉢に捨てられた。


 あそこから情報を復元はできないだろう。たぶん。



 僕は、「お世話になりました」と言って、神殿を後にした。


 次の目的地への道すがら、僕は火を出したり消したり、手慰みに遊びながら歩いた。


 特に咎められることも無かったのは、初めて魔法を使えるようになった人は、みんな同じようにするからなのではないだろうか。


 僕も、多分に漏れず初めての魔法に心躍らせた。



 次の仕事は、朝食を食べること。ではなく、買うこと。


 おっちゃんから、「弁当を多めに買ってこい」と仰せつかっている。


 エナさんと合流し、街を出てから、草原辺りで食べるのだそうだ。


 エナさんにそれを伝えてあるとは思えないんだけど、大丈夫だろうか。



 とにかく、僕はアイテムボックスの試運転もかねて、お弁当のお使いに向かう。


 せっかくなので、なかなか来られない南の方のお店を冷やかすことにしよう。



 北区の商店は、一に実用性、二に価格、三に頑丈さという感じで、何を取っても無骨で雑把。


 南区の商店は、住宅が多い居住区画なので、品ぞろえは多岐に渡り、北区には無いようなおしゃれなものも多い。



 すでに、お弁当の屋台はかなりの混雑を見せていて、僕は少し尻込みをする。


 この中に入って行って、常連さんの邪魔にならないだろうか。


 きっと独自のルールとかあるだろうし。


 とりあえず歩みを進め、立ち並ぶ屋台を見て回る。


 完全な屋台だけでなく、実店舗の軒先を使っている店もあった。



 僕はその中から、焼き立てパンの店で甘そうなパンを数種類。


 肉屋さんで、メンチカツとコロッケを。


 魚屋さんは、値段が張るのでスルーして。


 八百屋さんで、自家製ピクルスのセットを。


 総菜屋さんや定食屋さんの屋台は何軒か回って、気になった弁当を買った。



 エナさんが言っていたように、お弁当箱が必須の所もあって、そういうところはあきらめざるを得なかった。


 今度は、弁当箱を用意して来よう。



 買った品物は《アイテムボックス》に仕舞う。


 傾いたり、ひっくり返ったりしないかが心配だったが、出し入れもうまくコントロールできた。


 容量にも、まだ余裕がありそうだ。


 とはいえ、お腹が空いていたせいかずいぶん買いこんでしまったので、もし《アイテムボックス》がなければ、かなり大変な買い物になっただろう。


 朝食として余ってしまうようなら、《貯冷》を使おう。



 買い物を終えて、僕は商業区に戻るべく、歩き出す。


「ちょっとギルドに顔をだして、エナさんに朝ごはんのことを伝えようか…。

「でも、もう手遅れな気もするなぁ」


 街の中央に差し掛かると、何かの行列と鉢合わせてしまった。


 偉そうな行列でなく、それどころかかなりみすぼらしく見える。


 北から目抜き通りを西に向かっていく。


 二十人弱くらいの行列で、先頭は馬に乗った商人のようだ。



「すみません。あれ何ですか?」


 僕は、近くのおばちゃんを捕まえて、聞いた。


「あれは、奴隷の顔見世行列だよ。週に一回あんな感じで街を回るんだ」


「そうなんですか。この街に来たばかりなので初めて見ました」


 おばちゃんにお礼を言って、行列を見送る。



 この世界の奴隷制度は犯罪者への刑罰としてのみ存在すると聞いている。


 だから、僕は特に同情はしなかった。


 というか、厳つい上に人相が悪すぎるおっさんばかりで、同情の余地がない。


 明らかに盗賊っぽい。



 一人、馬に乗った商人らしき男を間に挟んで、後半は女の奴隷が続く。


 女の奴隷も強面が多い。


 たまに、妖艶な美人もいるけれど、結婚詐欺師かなんかだろうか。



 ふと、最後尾に一際小さな影を見つける。



 あ!あれは!?



 僕は急ぎ、家に帰る。


 ギルドに顔を出している余裕はない。


 エナさんは、朝ごはんを二回食べるくらい平気でできるから大丈夫。


 そう言い聞かせて、家路を急いだ。



「おっちゃんただいまー!」


「おう、おけぇり。弁当は買えたか?」


 僕は、買ってきたものを卓上に並べる。


「神殿で、《アイテムボックス》取ったから、さっそく使ったよ。あと、《初期魔法》と《初期魔術》とか」


「そうか!ようやく冒険者らしくなってきたな!」


 おっちゃんは、がっはっはと笑った。



 しかし、ステータスがらしくなっても、見た目は相変わらず布の服に編み上げサンダル。


 これではただの街人だ。


 そのあたりはインテリ眼鏡の装備制作待ちである。早くしろ。



「ずいぶん買いこんだな。南の方の店か。まぁたまにはいいかもな」


 おっちゃんは机の上を見て、上機嫌だ。


 普段は自宅か、決まった店で食べるばかりのようだから、物珍しいのかもしれない。



「おっちゃん、奴隷の顔見世行列見たんだけど」


「おう、そうか。

「あれは、今奴隷商が販売している奴隷の顔見世以外にも、奴隷の運動や奴隷契約がしっかり聞いていることのアピールになるっていうんで、商人ギルドも冒険者ギルドも騎士団も認めてるんだ。

「人によっては、嫌悪するのもいるっていうが、お前さんはどう感じた」


「うん。おっちゃん。奴隷っていくらくらいで買えるんだろうか!?」


 僕が急にテンションを上げたので、おっちゃんは困惑している。


「あんだ?奴隷を買うのか?お前さん別に労働力に困っていねぇだろ」


「うん。まぁそうなんだけど」


「結構するぞ。

「奴隷の金額っていうのは奴隷と奴隷商人のとの交渉によって決まるから、人によって違うがな。

「まず、奴隷には罰金の支払い義務がある。

「刑期が終わっても、罰金を支払い終えてなければ、解放はされない。

「だから、なるべく早く罰金を返すために、自分が買われた金は罰金の支払いに回すことが多いんだ

「基本的には犯罪者ってのは、金が無い奴が多いからな。

「奴隷自身はなるべく自分の価格を吊り上げたがる。

「しかし、奴隷商は、その奴隷が長く商館に居座れば、それだけ損になるわけだ。

「売れるまでの衣食住は奴隷商の持ちだからな。

「そうなると奴隷商は、奴隷の言い分や能力を鑑みてちょうど良さそうな値段を提案する。

「能力が高ければそれなりに高値を付けても売れるだろう。

「が、能力が無ければ、いくら奴隷自身が高額を希望しても、希望通りにはならん。

「交渉が決裂すれば、最悪の場合、契約紋を使って、商人の一存で値段を決めることもある。

「特に罪が重く罰金額が高い奴隷は、自分を高く売りたがるもんだ。

「だが、奴隷商が奴隷を仕入れる時の値段は、罪状が重いほど安くなる。

「だから、奴隷商側としては、安く仕入れた罪の重い奴隷は安く売っても損はしない。

「そういう場合は揉めやすいな」


「子供の女の子の奴隷の価格は?」


「なんだお前さん。そういう奴隷が欲しいのか?」


 そういう、とはどういう意味だろう。


 下世話な話しをしているような表情ではないが。



「基本的に、子供の奴隷は安い。

「何せ、大した労働力にならんからな。

「但し、買い手の選別が厳しい場合が多い。

「ある程度の収入があって、最低限生活をさせられるとか、性格に問題が無いか、とかな。

「女の奴隷を好色家に売ったりすれば、問題が起こるだろうし、子供を虐待するような問題がある奴には、まぁ売れんわな。

「だから、よほどのお人好ししか買わんのだ。

「そんで、子供で女だと、買い手に課される条件はまず間違いなく難しくなる。

「仮に、奴隷本人が条件を指定しなくても。だ。

「変なところに奴隷を売れば、その奴隷商人の信用問題になるからな」


 なるほど、つまりおっちゃんが言っていた、『そういう奴隷』っていうのは、


「割に合わないってことだね」


 聞け聞くほど、更生のお手伝いをする里親のようだ。


 収支でプラスになるような労働力は期待できないのだろう。



「まぁ、そういうことだ。

「もし、冒険者としてパーティーに入れるんだったらまだ話は分かるが、お前さんみたいな戦闘能力のある子供ていうのは多くねぇ

「お前さんが、何を思ってその娘を買おうとしてるのか知らねぇが、勧めねぇし、現実問題、難しいだろうぜ」


「そっか、でもすごく気になるんだ。

「悪いんだけど、おっちゃんついて来てくんない?」


「今からか?まぁ、まだ時間もあるから、ちっとくらいならいいぞ」


 よかった。


 正直、奴隷商人なんていう職業の人と一対一で話しができるだけの胆力は僕にはない。


「でも、お前さんその娘のどこがそんなに気になるんだ?」



「猫耳もふもふで可愛いかったんだよ!」


 待ってろよ!黒髪ショートの猫耳奴隷少女!

2016年4月29日

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