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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
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#021 祝、初絡まれ

2016年4月27日



 エナさんは依頼書を取りに奥に戻った。


 僕はそれを大人しく待っている。



 依頼書は、後でおっちゃんがサインを入れて、明日の朝合流したエナさんに渡すのだそうだ。


 ここで、おっちゃんが指定依頼として受け取ると、それが他の冒険者に知れてしまう。


 変に手伝いを申し入れられたり、僕のことが知られてやっかまれても面倒なのでそういう手筈になった。



 僕がしばらく手持無沙汰にしていると、後ろからドスの効いた声がかかった。


「お前、何してんだ?

「ここはガキの来るところじゃねーんだよ。

「中型魔物が出たって言われてんだから邪魔にならね―内に帰りな」


 キター!来ました定型句。噛ませ犬の自己紹介!『ここはガキの来るところじゃねーんだよ』


 久しぶりにテンプレさんが仕事をしている!


 振り向けば、二メートルもあろうかという大男が僕を見下ろしている。


 背中に大盾背負っているし、前衛盾職のようだ。



 僕は、少し頭をひねる。


 上手くいけば、上手く行くかもしれない。


 しかし、悪巧みを成功させるには、周りに知り合いが多すぎる。


 おっちゃんも居るし、今にも助けに来そうだ。



 時間はかけられない。


 せっかく絡まれたのだしこの状況を、有効利用したい。



 と、言うわけで……


「あなたはCランクくらいの冒険者で、最近依頼がうまくいかずに伸び悩んでいる!ちがいますか?」


「お前……俺のことをなぜそこまで……!」


 驚愕に顔がゆがむ男。



 なんてチョロいんだ。僕はあなたのことなんて名前も知らないよ。


「僕みたいなガキに絡んでくる人っていうのは大抵ダメなやつだからですよ」


 僕はそういってにっこり笑う。



 さっさと喧嘩になるように、挑発、挑発アンド、挑発。


 ヘイヘイカモンカモン。


 おにーさんピクピク来てるよー。


 奥歯をギリギリ言ってるよー。



 この男は次に口を開いたら、「もう一回言ってみろ」とでも言うだろう。


 僕はその無駄な時間を使って、ちょっとばかしステータスを弄って敏捷を高める。



「もう一回言ってみ、「僕みたいなガキに絡んでくる人っていうのは大抵ダメなやつだからですよ。と言いました!」」



 被せてしゃべる。挑発の基本だよね。


 僕は、ステータスの調整を終えて準備万端。



 大男は流石に腰の剣は抜かなかったが、拳を振り上げた。


 大盾を背負ったままだからか、隙が多い。


 僕は、振り下ろされた拳を躱すと、大男の袖を掴んでグイッと下に引っ張る。


 相手の体勢はほとんど崩れないが、掴んだ袖に一瞬ぶら下がるようにしてするりと躱し、相手の横に着地した。


 体が大きいので、背後には回れなかったが、何とか成功。



 木剣をぴたりと顎の下に付ける。


 僕を攻撃するために屈んでくれていてよかった。


 そうじゃなければ首筋には届かなかったかもしれない。



「ぐっ……てめぇ」


 男が立ち上がる。


 僕はそれを邪魔しない。


 もう一度来るか……?闘気が膨れ上がった瞬間、冷や水のような冷たい声を浴びせかけられる。



「何をなさっているんです」


 エナさんだった。



 そして背後から、大男の耳を引っ張る女性。


「アンタ、何してんの!こんな子供いじめて!」


 アマゾネス系美人だった。腹筋がガッツリ割れている。


 触らせてほしいなー。


 あ。耳はたれ耳タイプの犬耳じゃないですかー。かーわーいーいー。


 と、思ったがそれどころじゃない。



「すみませんでしたーーー!!」


 僕は即土下座。


 敏捷ステータスのオーバーワークを用いた奥義。神速土下座だった。



 この喧嘩の判決は、お互いに親しい女性が出てきた時点で両成敗と決まっている。


 怒られるのは必至。だからこそ、必死に謝罪するのが必須だ。


 とにかく先手を打って謝る。それが僕の取るべき最善の方法だ。



 大男はまだ、状況が呑み込めずにいる。


 遅すぎる!3分あれば敵は火星から月まで来るんだぞ!


 僕はその間に、少しでも長く、深く謝罪をして、反省の意を示す。すると……



「もう、いいので顔を上げてください」


 ほーらね。



「などと、言うと思いましたか?」


 うわー。エナさんジト目じゃないか。かわいいなぁ。



 僕は、エナさんにこってりと絞られました。


 どうやら、僕の挑発はギルド奥にもしっかり聞こえていたらしい。



 とはいえ、僕の場合は割と早く解放されることになった。


 だって僕の方が圧倒的に格下なのに加えて、先に手を出して来たのは相手だ。


 しかも対応する僕は木剣しか持ってない。


 これは、仮に僕が挑発していても、いや、実際に挑発したんだけど、それでも正当防衛だ。



 相手はと言えば、アマゾネスお姉さんにこってり絞られつつ、周りを厳ついおっさん達に囲まれていた。


 あの、大男泣くんじゃないかな、大丈夫かな。


 少し不憫に思えてきた。


 耳を欹てる。



「いえ、ですから、今危険じゃないですか。

「まかり間違ってあんな小さい子が森の依頼を受けてしまったら大変だと思ったんですよ。

「確かに言い方は悪かったと思うんですが、どうも性分でして

「俺って体がでかいでしょ、それで自分より小さい人を見ると、なんでか精神的にも少し見下してしまうというか……。

「いや、明らかに年配の方なら大丈夫なんですが、若い人だと特に顕著で。

「それにあの子が言っていることが妙に的を射てまして、それでついカッとなったと言う感じでですね」


 いや、誰だよ。話してる人。完全に別人じゃないか。


 僕は我慢できずに人垣をかき分け覗き込む。



 あ。間違いない。さっきの大男。


 後、たれ耳アマゾネスのお姉さん。



「あ。さっきの」


 大男が僕を見た。


「あの、ついカッとなってしまってすまなかった。この通りだ」


 マジで、誰だこの人。


「えっと、いえ、僕の方こそ忠告だと思わずに、つい言い返すような真似をしてしまい。すみません。」


「なぁボク。これで手打ちでいいかな。

「説教はしたし、もう君に失礼なことはさせないから」


「あ。はい」


 たれ耳アマゾネスの姉さんに言われれば、これは仕方ない。


 出来れば手打ちの条件に、腹筋と犬耳を触らせることを入れ込みたいけど、僕の話術じゃ無理。


 ただし、ギルドからはしっかり怒られてください。


 毒舌のエナさんが奥でお待ちですので。



 嫌なやつかと思って利用してしまったけど、僕の勘違いもあったようだし今度埋め合わせしよう。




「で、お前さんなんであんなことしたんだ?」


 それは、依頼書をしっかり受け取った帰り道での、おっちゃんの言葉だった。


 やはり、おっちゃんは僕に狙いがあったことを察していたようだ。


「いや、僕が急にDまでランクアップしたら、やっぱりまずいと思うんですよね。

「反感を買うと言うか、やっかまれると言うか。

「僕だけなら何とでもなるんですが、おっちゃんやエナさんに迷惑がかかるかもしれません。

「だったらこの際、公衆の面前で僕の力を示しちゃう方がいいかなって思ってたんですよね。

「そしたら、都合がいいことにちょうど良さそうな人が絡んでくるじゃないですか。

「だから、利用させてもらいました」


 おっちゃんは自分のこめかみをぐりぐりと刺激し始めた。


 頭痛だろうか?大丈夫かな。


「リスクは考えなかったのか?」


「考えましたよ。

「まぁ、死ぬことは無いかな。と。

「最悪負けても、アピールできるくらいの立ち回りは出来るだろうとも思いました」



「馬鹿もん。心配をかけさせるな」


 口調は穏やかだったけれど、それは確かに怒気を含んでいた。


「……すみません」


 土下座は一日一回までだ。ここは、素直に謝った。



「まぁ、確かに俺の計画の脇が甘かったことは認める。だが少しは相談しろ。わかったな」


「はい」


「よし、では今日は夕飯抜き!」


「なんですと!?」


「いいんだよ。作るの面倒だし明日ピクニックだろ。腹空かしときな」


 ピクニックじゃないだろ。命がけだろ!



 僕の記念すべき初絡まれは、散々な結果に終わった。


 しかし、ちゃんと僕を叱ってくれるおっちゃんやニナさんはやはり得難い人だと思った。

2016年4月27日

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