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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
18/42

#018 初めての依頼

2016年4月24日



 僕は初めての依頼として、『【E】ボアの葉採取、三枚につき銅貨一枚』を選択した。



 食堂を出た後、エナさんは仕事に復帰。


 僕は、一冒険者として、窓口の列の最後尾についた。


 少しだけ並んで、大した時間はかからずエナさんのところへ。



 実は順番的には、小悪魔ヒーリカさんに当たりそうだったのだが、後ろの人に順番を譲って調整することに成功した。


 もし、嫌がられたらどうしようかと思ったが、小悪魔ヒーリカさんはかなりの人気者らしかった。


 エナさんは、不人気とは言わないまでも、毒舌を恐れられているらしかった。



 僕としては、少し不本意であるが、好都合でもあった。


 それからエナさんに相談に乗ってもらいながら、記念すべき最初の依頼を決めたのだった。



 エナさん曰く、僕にはすでにEランクくらいの戦闘能力はあるそうだ。


 まぁ、エナさんはDランクとCランクの間くらいの力量だって幼女神も言っていた。


 となれば、辛くも勝利した僕をそういう風に評価するのはおかしくない。



 次にEランク依頼の中でも効率がいいものを聞いてみる。


 本当は、討伐をしたかったのだが、Eランクで受けられる討伐依頼、あるいは魔物の素材採取依頼は存在しなかった。


 高効率と言えど、ハイリスクではあるので、仕方ない。


 しかし、俄然昇級したくなってきた。


 食堂に居た冒険者たちを思い出す。



 採取依頼の中で効率がいいものを考える。


 条件は、群生していることと、流通が少ないこと。


 一気に大量に確保できる、高価な植物を探すことにする。



 そんなうまい話があるのかと言えば、一つだけあった。


 それが、『ボアの葉の採取』だ。



 午前中の資料室で、ボアの葉については調べがついている。


 ボアの木に茂る葉に薬効があるのだそうだ。



 但し、ボアの葉はなかなか落ちない。


 秋になって落ち葉になると、薬効は消えるという。


 採取するには、木に登って取るか、木を激しく揺らして落とすしかない。


 木に登るのはかなり難しいそうだし、木を揺らして落とすには相当な衝撃が必要になるという。


 それこそ大猪が衝突するかのような衝撃が。


 猪が衝突しても平気な木。ゆえに、ボアの木と呼ばれているのだそうな。



 しかし、条件を考えれば、木葉なので一本の木に何枚も群生しており、取り方が特殊なためそれほど流通していない。


 上手く方法さえ編み出せれば、高効率依頼なのであった。



 僕は、森まで出向くと、目的の木を探す。


 太い木ばかりではあるが、木の種類は様々だ。


 色が白いもの、木肌がつるんとしているもの、葉っぱが細長いものや、花を付けているものもある。



 目的の木は結構速く見つかった。


 木肌はザラザラと厚い皮に覆われて、しかし、傷だらけだ。


 葉を採取するためにつけられた傷もあるようだが、それ以上に動物の衝突したものであろう跡が多く残っている。


 なにか、ルールがあるのだろうか、皮が削れて見える部分は一か所で、そこだけ集中攻撃されている。


 コンコンと叩いてみると、皮が剥げた部分の方が硬いのだった。


 まぁ、いたずらに木を傷つけたくないので、ルールを守ることにする。



 僕は、しばらくボアの木を調べて、叩く方を選択していた。


 元々は登る方が簡単かと思っていたが、実際は微妙だった。


 ボアの木は地面に垂直にどこまでもまっすぐ立って、とっかかりは皆無だ。


 フリークライミングが得意なら登れるのかもしれないが、僕にはちょっと無理だ。


 目的地である、葉っぱが茂る場所も高すぎる。



 周りに木があれば、伝うことも考えたが、獣たちがこの木にぶつかり稽古をかます時点で軒並みへし折られている。


 ボアの木の周囲二〇メートルくらいが木々の不毛地帯となっていた。



 と、いうわけで、おっちゃんの木剣でのフルスイングを敢行。


 《動作最適化》の助けを得て、きれいに芯を捕えた。芯が光って見えるぜ!


 ……。


 ゴルフボールだったら四五〇ヤード跳ぶ勢いのスイングでも、微動だにしない。


 おかしい、芯が光って見えた気がするんだけど。



 というわけで、ステータスを弄る。



 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 ※※※(14)(Lv3)/冒険者


【ポイント残/総】

 0/370


【ステータス】

 HP:100

 膂力:130(+120)new!!

 頑強:10

 敏捷:10

 精密:10

 魔力:10


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 レベルが3になったのと、試験の時に出た神託ボーナスがあったので、120ポイントを自由に使える。


 僕は、それを全部膂力に投入。


 試しに、払い戻しも試してみたら、問題なく機能したので、思い切って行ってみた。


 所詮レベル3でしかない。極振ってもたかが知れてるだろう。



 ……そう思ってた時期が僕にもありました。



 木剣が心配だったから手加減したんだけど、それでも葉っぱが塊になって落ちた。


 虫もいっぱい。最悪だった。


 もう、止めよう。



 エナさんには「百回くらい殴りましたよ~」って言っとこう。



 僕は、落ちた葉っぱを頑張って拾い集める。


 持参した手提げサイズの麻袋はパンパンに膨れ上がった。


 拾い残しも無いようだし、そろそろ膂力を戻そうか、そう思ったところで、視線に赤がちらつく。



 木の向こうに黒い猪が居る。


 あー。前足で地面をゴリゴリ擦ってる。



 木の陰にいれば大丈夫。と、《攻撃知覚》先生は言っているが、怖いので少し距離を置く。


 走って来て……ってデカ!デカい!僕の身長と同じくらいあるじゃないか。


 あれはきっと、この森の主だな。うん。



 僕は、ずりずりと後ずさって距離をとる。


 ふと、思いついて、ステータスを弄る。


 ……このポイントはリセットして、……このポイントはこっちに回して……。




 よし、準備万端。


 黒猪はまだ居るかな?


 良し、僕は自分で決めた立ち位置に立つ。……もう少し下がろうかな。


 で、《咆哮》「うぉぉぉ!」僕の変声期を迎えていない声は情けないが、それでもスキルの効果はあったようで、猪はこちらに向かってきた。


 うわー逃げたい。


 すごい勢いで突進してくる猪。


「プギー!」とうるさい。



 僕との距離、約五十メートルまで来て、猪の姿が視界から消える。


 同時に僕の視界を満たしていた赤い光も消え去った。



「プギー」


 まだ元気そうだ。



 僕はその辺から、ありったけの石を拾ってきて、膂力90を如何なく発揮した投石攻撃を開始した。


 目標をセンターに入れて。


 投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる……。


「プギー!」


 投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる、投げる……。



 しばらくすると、『しゅー』とどこかで聞いたような真の抜けた音がした。


 あれ、もしかしてあの猪って、魔物だった?



 僕が、何をしたかというと、膂力のポイントを20削って、挑発スキルの《咆哮》と《罠設置》のスキルを取得した。


 それから、110になった膂力と、おっちゃんの木剣を使って落とし穴を掘った。


 木剣でどうやって穴を掘るのか、自分でやっても甚だ疑問だったが、スキルが活躍したのだろう。


 骨は折れたが、結構深く、頑丈に掘れた。


 あの勢いで突っ込んで来れば、足位折れてもおかしくない。


 それから、落とし穴を気づかれにくく細工して、《咆哮》を使う。


 まぁ、大きい魔物に対して落とし穴ってネット小説の定番だしね。



 最後に投石で仕留めた。


 死体は最悪引きずって帰ろうと思っていたんだけど、消えたのには少し驚いた。


 夕ご飯に期待したのに、がっかりした気分は否めない。



 猪が消えたところを、よく見ると何かが光っている。


 僕は落とし穴の入口を斜めに掘り広げ、帰り道を作りながら下りて行った。



「カード?」


 イノシシの消え跡に光るカードがくるくると回っている。


 なんで急にゲームっぽいんだ。


 カードを手に取ると、光が消えた。


『ラッシュボアの毛皮』とある。



 そういえば、と思い出したことがある。


『【C】サソリ魔物の毒尾、一枚につき金貨一枚』の依頼だ。


 サソリの尻尾の個数表記に、枚という単位を使っているのが気になっていたのだ。


 もしかすると、この世界ではドロップアイテムはカードで落ちるのかもしれない。



 幼女神、そこんとこどうなの?


【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


 じゃよー。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 ふーん。



 僕は深く考えるのをやめる。


 いや、とうの昔にやめている。


 この世界では魔物を倒すとカードが出る。出たらラッキー。


 それだけ覚えておけばいいや。



 僕は、落とし穴を埋めると、もう一度ボアの木の元へ。


 ラッシュボアというあの黒猪が追加で何枚か葉っぱを落としてくれていた。


 二、三十枚位を拾いきって、帰路に着く。



 膂力は10に、《罠設置》と《咆哮》は外す。土は土に、灰は灰に。


 僕は、まだ神殿に行ってないので、能力やスキルを上げておくわけにはいかない。


 今回は、命が掛ってたのでズルしたが、街に戻る時にはちゃんと戻しておこう。



 でも、そろそろ神殿には行かないと。


 魔法と魔術と《アイテムボックス》が必要だ。



 今回の収入は、葉が一〇〇枚として、三枚につき銅貨一枚だから、少なく見積もって銅貨三〇枚。


 感覚的には半日で三〇〇〇円稼いだ感じだ。



 なんという薄給!


 森に来るのも命がけなのに!



 これは、冒険者として身を立てるのは骨だなぁ。


 世知辛いなぁ。


 僕は、食堂で見かけた少年に思いを馳せる。


 僕も、君と大してわからない身の上だったよ。神の加護があるはずなのに……。



 暗くなる前に帰ろう。


 おっちゃんの手料理が恋しくなってきた。

2016年4月24日

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