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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
14/42

#014 Fランク認定試験

2016年4月20日



「逃げるんですか?ねぇ、逃げるんですか?」


 すごいグイグイ来る。なんだこの人。



「正直に言って、僕のステータスって全部10くらいなんです。だから話しにならないかなって」


「それは確かに悲惨ですが……」


 悲惨と言うな。



「ドルフさんやヒムロスさんは見どころがあると思ってらっしゃるようですし、受けるだけ受けて見られては?」



「心配すんな、この嬢ちゃん、結構強えぇから。うちの奥さんの教え子なんだ」


 おっちゃんは僕の危惧に気付いてくれているらしい。


 いや、こんな細身のお姉さん相手に木剣で打ちかかって行くとか、精神的に厳しいのだ。



「えぇ。エルダさんにはとても良くして頂いてます」



 ちなみに僕は、『この受付のお姉さんこそがおっちゃんの奥さんなのでは説』を一時考えていたのだが、杞憂だった。というか小説の読み過ぎのようだった。



 いやでも、だったらなんでこんなにキャラ立ってるんだこの人。しかも絡みづらい方向に!



「私がエルダさんから教わったのは、剣と弓と毒舌です」


 会ったことない人の株まで下げてきた!この人!


 どうするんだよ。お世話になった人の奥さんなのに変な印象が出来ちゃったじゃないか!



 ただでさえおっちゃんと別居中っていう危ういステータスなのに!


 この世界で最も気を使って接さなきゃいけない人なのにー!




『ピコン』


「……メニュー」



「何かおっしゃいました?」


「いえ、お気になさらず」



【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


 ~神託~

 Fランク試験を受けよ


 ~報酬~

 10ポイント



 面白そうじゃし、受けとくのじゃ。


 薬草採取なんか見てられんぞ。


 この娘、まぁまぁのステータスじゃ。DランクとCランクの間くらいかの。


 まともに打ち合ったら押し負けるが、出会い頭の一発狙いで行けばワンチャンあるぞ!


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



「わかりました。やりますよ」


 各方面からのお達しにより、そういうことに相成った。



 おっちゃんとお姉さんと一緒に裏手の競技場まで移動する。


 おっさんたちも一緒になっての大移動だった。


 なぜ来るのか。


 会場内が、むさ苦しすぎる件。



「よっしゃー!姉ちゃん負けんなよ!」


「その生意気なガキの鼻っ柱へし折ってやれ!」


「いてまえー!」



 おい、おっさん達。俺の応援じゃないのかよ。お姉さんの応援かよ!


 生意気って言ったやつ誰だ!先にそいつから葬ってくれる!



「声援などはお控えください。余計なお世話ですので」


「「…………。」」



 うわー。すごいなこの人。一気に会場の温度が氷点下だ。


 氷雪系最強呪文みたいな毒舌だ。




「では、始めます。木剣での一本勝負。魔法は無しで」


「よし行くぞ……」


 僕は、おっちゃんが作ってくれた木剣を強く握る。


「始め!」



 お姉さんは動かない。


 僕は、少し考えてから、ゆっくりと前進。距離を詰め始めた。


 《動作最適化》と《攻撃知覚》を使って、後の先をとる以外に勝ち目はないのだ。


 向こうから打ち込んできてもらわないと。



 お姉さんは動かない。まだ様子を窺っている。


 距離はズルズルと詰まっていく。



「フッ!!!」


 次の瞬間、お姉さんは一気に距離を詰めた。


 競技場の地面を蹴って、上段から袈裟に振り下ろす。


 ゴブリンの十倍は速い。



 けれど、呼吸を乱すのは良くない。


 無駄な動作が多ければ多いほど、《攻撃知覚》はいい仕事をしてくれるのだから。


 お姉さんが地面を蹴った段階で攻撃の予測線は見え始めていた。



 攻撃範囲が決まるということは、同時に安全地帯も決まっているということだ。



 僕は、相手の踏込と同時に距離を詰め、剣が振り下ろされるときにはすでに彼女の横まで移動していた。


 移動は二歩で十分。それなら敏捷のステータスは関係ない。





「僕の勝ちでいいですかね」


 僕は木剣を『ぴとり』とお姉さんの首にくっつけた。


 僕には寸止め出来る筋力はないから、怪我をさせないように気を付けた。



 ついでに言うと、おっちゃんが作ったこの木剣はとっても肌触りがいいのだ。


 ほのかに冷たくて、つるんとして心地いい。


 昨日、抱き枕にして眠った僕が言うのだから間違いない。


 だから、気持ちいいかなーと思ってくっつけたのだけど……。



 お姉さんはピクリとわずかに身じろいだ。


「……蹴りはダメですよ。お姉さんスカートなんですから」



 この女、油断も隙もねぇ。


 《攻撃知覚》が蹴り技を予測して、彼女の足から僕の首元までを赤い光でつないだ。



 お姉さんは、その言葉を受けて退いてくれる気になったらしい。


 予測線は消え去った。



「じゃあ坊主の勝ちってことでいいんだよな」


「……はい。Fランクへの昇格を認めます」



 そんなに悔しそうに言わなくても。


 僕が全面的に大人げないというのはわかっているけど。



 しかし、これは短期決戦だっただけで、決して楽勝ではないのだ。


 確かに、お姉さんやギャラリーのおっさん達から見れば、僕は圧勝したように見えたかもしれない。


 でも、実際はお姉さんが僕をなめてかかっているあの瞬間、様子見の一撃目以外では勝ち目はなかったのだ。



 僕の膂力では、相手の攻撃を受け止めるだけで剣ごと弾かれてしまう。


 となると、防衛手段はひたすら回避しかない。


 だが、《攻撃知覚》があっても、敏捷が低い僕はそう長く避けていられない。


 体力が無いから持久戦も無理。


 頑強さも無いので、一撃でもくらえば失神を免れない。



 だから、一見、圧倒的に見えても、その実ただのギャンブルだったのだ。


 瞬殺ではあるが、圧倒的ではない。



 最後の蹴りも、繰り出されていたら負けていたと思う。


 まぁ、力は示せたからあそこで負けても良かったのだけど、お姉さんはスカートだったから。



 本当はもっと目立たず、禍根を残さないような勝ち方をしたかったんだけど……。


 お姉さんの様子を窺う。


 あぁ、やっぱりすごい睨まれてる。



 にこっと笑ってお辞儀してみた。


 あー。『ぷいっ』てして行ってしまった。……ちょっとかわいい。




 しばらく待つと、僕のギルドカードが出来上がった。


 登録料と引き換えに、お姉さんが渡してくれる。


 もう、悔しそうにはしていない。


 最初に声をかけてくれた時のキャリアウーマンモードだ。



「おめでとうございます」


 僕は、少し迷って、お辞儀だけ返した。


 だって、「ありがとう」も「おかげさまで」も嫌味になってしまいそうだったし。



 ギルドカードは相変わらずよくわからない文字が羅列しているが、確かに『F』と刻まれていた。


 少し誇らしかった。




 これが僕の身分証。


 この世界で地に足を付け、骨を埋める覚悟の印。


 手の中で銀色のプレートが輝く。



 僕はそれを確かに受け取って、首に下げ、おっちゃんたちと同じ冒険者の仲間入りを果たしたのだった。

2016年4月20日

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