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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
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#012 おっちゃんの家とデリカシー

2016年4月18日



 夜宴はようやく終わりを迎えた。


 この世界のおっさんはみんな酒に強いらしい。


 最終的に、店中の酒と猪を食いつくして、猪以外の備蓄も壊滅させて、お開きとなった。


 代金は、遠目に見た感じ、金貨が三、四枚。三、四十万円相当の飲み食いであった。



 宴会の様子は、混沌を極め、目を覆うような惨状だったが、ちゃんと夜のうちに解散できた事だけは不幸中の幸いか。


 とはいえ、この後片付けをするメシ屋のおっさんの苦労を僕は憂う。


 出る前に少し手伝ったのだが、焼け石に水であきらめざるを得なかったのだ。


 僕が、メシ屋のおっさんの方に憐憫の目を向けると、彼はただ、ひらひらと手を振るだけだった。


 あれが、あきらめの境地だと思う。


 こうして、ずいぶんな長丁場であった宴会は終わりを迎え、一同はそれぞれの帰路に着くのであった。




 僕とおっちゃんは、少し迷ったのだが、このまま冒険者ギルドに直行できる力は無いと判断し(ギルドは24時間体制だそうだ)、ねぐらへ帰還することと相成った。


 ギルドには明日、起きてから行こう。ただし朝とは言っていない。



 それから、おっちゃんが案内してくれたのは、工業区画だ。


 目の前には二階建ての立派な一軒家と、隣接された工房がある。



 アインの街、北西部は工業区画と呼ばれていて、工場や工房が立ち並ぶ地域となっている。


 すぐ近くに、商業ギルドがあるので、アインにおけるモノづくりの拠点であると言える。



 加えて、家賃も居住区がある南区などと比べると、ずいぶん安い。


 アインの街の北部には砂丘があるため、北区では飛砂に悩まされることがしばしばあるためだ。


 夜間作業をする工房もあるので、騒音の観点から言っても、住むにはちょっと向かない地区となっている。



 それでも、おっちゃんがここを拠点にしているのは、若くしてこの工房を持った当初の思いを忘れない為なのだそうだ。


 とはいえ、今となっては、南区にも家を持っているらしく、飛砂がすごいときなんかは、この家を戸締りして、南の居住区画の家で過ごすのだそうだ。




 僕は、工房にも惹かれるものがあったのだが、とにかく二人とも疲れてヘロヘロだったので、今日のところはさっさと寝床に向かう。



 木製のドアを開けると、カランコロンとドアベルが鳴って、僕を出迎えてくれた。


 棚にはゴツい武器がずらりと並んでいる。普段はここで武器の販売をしているのだろう。



 僕たちは、店の奥の会計用のカウンターを抜け、引き戸を開けた。


 そこから先は正真正銘の居住スペースのようだ。……だが。



「そういえばおっちゃん、奥さんは?」


「家出中」


 家の中から全く気配がしないので聞いてみたのだが、短く答えたおっちゃんは、ちょっとしょんぼりした。


 もしかして、今日ヤケ酒だったか?



 多少気にはなるのだが、首を突っ込むのも野暮というものだろう。


 軽く流して、奥に進んだ。



 おっちゃんが、「え?聞いてくれないの?」といオーラを醸し出したが、華麗にスルー。



「そんなわけで、お前さんしばらくここを使いな。今使ってねぇからよ」


 あきらめてくれたようで、部屋に案内してくれた。


 一階にキッチン、リビング、風呂、トイレ。


 二階に上がって全部で五部屋あるうちの一部屋を貸してくれた。



「そんじゃあな」


 と、自室に引っ込むおっちゃん。


 僕は、おっちゃんが自室のドアを閉めるのを見送った。



 そして、僕は自分に宛がわれた部屋を見て困惑する。



「……なんか。いいのか?この部屋で」


 扉を開けると、そこは綺麗に掃除された部屋だった。


 物置とかを想像していたんだが、予想を遥かに上回る待遇に頭がくらくらするほどだった。



 というかそれ以前に、このインテリアってすごく女性らしいんですが。


 シンプルなデザインの中に、女性らしい色使いを感じる。



 この部屋っておっちゃんの奥さんか娘さんの部屋じゃないの?


 見た感じでいうと、年頃の娘さんの部屋である可能性が濃厚だ。



 僕は部屋を少し見回す。


 奥にベッド。右手にクローゼット。その隣にキャビネット。左手には鏡台。


 鏡なんて、この世界で初めて見たぞ。


 自分の姿を確認したい気持ちもあるが、はっきり言ってそれどころではない。



 引き出しをあけるか?



 確かに明確な答えが出る気がするが、答を知るべきでは無い気もする。



「僕、思うんだけど、こういうデリカシーの無さみたいなのがおっちゃんの奥さんの家出の理由じゃないのかな?」



『ピコン』


「メニュー」



【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


 そこ、娘っこ(15)の部屋じゃな。


 間違って案内したんじゃなく、掃除されてるからっていう理由で案内しとるの。


 罪深いのー。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 うん。知ってた。でもありがとう幼女神。


 15歳の女の子の部屋で眠れるわけが無いじゃないですか。やだー。



 僕は、即座にその部屋を出て、廊下で眠る事にしたのだった。

2016年4月18日

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