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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
11/42

#011 猪料理

2016年4月17日



 最初に届いたのはおっちゃんのエールだった。


 この街で収穫した麦で作ったものらしい。


 今時期だと、黒麦という品種を使っているそうだ。


 色は判別しにくいが、心なし黒っぽい。


 僕もちょっと飲みたい気分になったが、ここは我慢。



 ついでに言うと、入れ物の金属製のゴブレットは、おっちゃんが作って卸したものだそうだ。



 僕の前には、コーラ色の炭酸飲料。ノンアルコール。


 これは、おっちゃんおすすめの『麦サイダー』だ。



 お互いの杯をガツンと合わせて「出会いに!」と短い乾杯。


 ……頑丈なゴブレットだなー。



 ゴクリ、ゴクリ……ちょっと味見のつもりが半分くらいまで飲んでしまった。



 うん!悪くない!


 これは、コーラとは見た目だけが似て、実際は非なるものだ。


 爽やかな喉越しで炭酸がはじけ、その後からスパイシーな香りと、強い甘味が追いかけてくる。



「その麦サイダーは、この店のオリジナルブレンドだ!うめーだろ?」



 僕は、杯を一気にあおり、「ぷはー」と一息。



「うん。初めての味ですが気に入りました!」


 まぁ、初めても何も記憶喪失ですがね。と付け加えたら、「お、おう……」と困惑された。



 記憶喪失ジョークははブラック過ぎたかもしれない。



「あまり、気を使わないでください。確かに能力が低くて不便な部分もありますが、おっちゃんと会えて僕は今とても楽しいですよ。拾ってくれてありがとうございます」


「出会いに」と僕が杯は突きだすと、おっちゃんはさっきと同じように力強く杯を合わせてくれた。


「バカヤローが」と少し恥じ入った様子でおっちゃんは杯をあおった。



 さて、少し時間が経って、テーブルにはちょっと多すぎるほど料理が並んでいる。



 所狭しと並ぶ料理は、概ね猪料理だ。



 というのも、おっちゃんが酔った勢いで、帰り際に森で狩った猪を大放出したのだ。


「好きに使えい!」との仰せだった。


 血抜きも解体もしてない猪を出されても、すぐには料理なんて出来ないだろうに。



 メシ屋のおっさんは気にした風もなく「ガハハハ」と機嫌よく笑って、猪を担ぎ、厨房へ入って行った。



 出てきた猪料理はどれもうまかった。



 肉は臭みが無く、豚肉よりも味が濃い。


 ばら肉は炭火焼。もも肉はから揚げで、内臓は甘辛い煮込み。




 これは酒飲みにはたまらないだろう。


 うまい、うまいと言いながら、ご飯(玄米みたいなのが普通にあった)と一緒にガツガツ書き込んだ。


 特に内蔵の煮込みはご飯との相性が抜群だ。


 とろっとした油が煮汁に溶け出して、それをご飯にぶっかける。この世界に来て一番の幸せな瞬間だった。



 内臓は、新鮮な間しか食べられないのだという。


 今日倒した猪は、今日の夜の内に解体して仕込むのだそうだ。


 案の定、今このテーブルにある猪は僕らが持ってきたものでは無かったのだ。



 そして、この店の今日の分の猪は、僕とおっちゃんの二人だけでなく店中の客に振る舞われた。


 何とも剛毅なことだが、どんちゃん騒ぎで楽しかった。


 他の客が頼んだ料理なんかも食べさせてもらって、この街で収穫したという芋料理なんかはとても気に入った。



 おっちゃんはやっぱりそれなりに名の通った冒険者のようで、店のあちこちから声をかけられていた。


 後半はエールからウイスキーに移行したようで、少し酔っていた。


 おっちゃんはドワーフでは無いが、見た目通りの酒豪だった。



 ウイスキーを原液のまま、ガブガブと飲んでいた。


 僕だったら、たぶん、死ぬと思う。急性アルコール中毒で文字通りに死亡する。


 だって、ウイスキーの樽がゴロゴロ転がってるんだぜ?




 僕は、自分の麦サイダーを持って外に出る。


 少し酔ってしまったかもしれない。人酔いの意味で。


 もしかすると前世でも、人ごみには弱かったかもしれないな。



 外はずいぶん涼しい。


 もう春だと言っていたが、昼間に比べるとずいぶん冷えるようだ。



 夜空を仰げば、星がずいぶん多く見える。


 月は二つ無い。一つだけだ。




 異世界生活は、楽しい。


 景色は美しいし、メシもうまい。


 出会う人は皆親切で、幼女神が言っていた「生きやすい世界」という言葉を、少しは信じてもいいかな。と思う。




 だが、ぶっちゃけ、こんなに恵まれていていいのかとも思っていた。


 無条件で幼女神を信じるのは、しっぺ返しを食らいそうで怖い。


 これももちろん、ネット小説で得た教訓に過ぎないのだが。



 ただ、この世界で出会った人々はみんないい人だと思う。


 おっちゃんは命の恩人だし、ヒムロスさん達も俺の為に泣いてくれる。


 このメシ屋のおっさんも顔は厳ついが気のいい人だ。



 この人たちを疑って生きるのは、かなり辛い。


 ここまできたら、おっちゃんたちを信じて生きていこう。



 そうなると、今度は僕自身のことをおっちゃんたちに話せないのが少し辛いか。



 いや、信頼されるように行動するのみだ。


 どうせ、生まれ変わりの話しをしたところで意味は無い。


 ここまで、助けてもらった人たちに恩を返していけるように、前を向いて生きていこう!



 しかし、僕の周りにおっさんしか居ない件については甚だ不満だ。


 店の客すら全員おっさんなのだが。



 あとはせめて、自分の名前くらいは思い出したい。


 なんとなくだけど、思い出すのを諦めて偽名を名乗るのは良くない気がする。


 自分を偽って生きていくような気持になってしまう。



『ピコン』


 このシステム音にもずいぶんなれたものだ。


 今のメシ屋の喧騒の中では、誰も変に思わないだろう。


「メニュー」



【メッセージ】■□■□■□■□■□■□■□


 無事街について何よりじゃ。


 まぁ、わしのことをあまり信用してくれとらんのはちょっと残念じゃが、苦しゅうない。



 お前さんの名前については、自力で思い出すがいいのじゃ。


 きっとそう時間がかからずに思い出せる事じゃろう。


 精々、新たな人生を楽しむのじゃ。


 PS

 わし、女の子じゃよ?


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 僕は、少し笑った。


 僕がメッセージを読んで笑うのはこれが初めてだ。


 だが、残念。つるぺたには興味が無いな。フハハハ!



 僕の哄笑は、店の喧騒に溶けて夜空に消えた。


 それが、幼女神にまで届いたかは、定かでない。

初めて、あとがきを書かせていただきます。


いつも、読んでいただいて、本当にありがとうございます。

おかげさまで、拙作も十話を数えることができました。

遅々として進まない物語に辟易なさっているかと存じますが、精いっぱい書いてまいりますので、今後とも、何卒お願い致します。


特に、女性キャラクターがなかなか登場しない件は、私の不徳の致すところ。

なるべく迅速に対応させていただきたいと思っている次第です。

『ハーレム』のタグに偽りなし!


とはいえ、今はおっさんたちと食べ物を書くのも楽しいです。

冒険者ギルドに彼らの足が向いてくれれば、受付のお姉さんを出せるのですが、楽しそうに寄り道してるのでなかなかたどり着いてくれません。


読者の皆さまにおかれましても、「はよ出せ」とお思いのこととお察ししますので、前述の通り、善処いたします。


なろうユーザーの皆様、並びにTwitterでフォローいただいている皆様、今後とも「異世界の半分はお約束でできている」をよろしくお願い致します。



2016年4月17日

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