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異世界の半分はお約束でできている  作者: 倉内義人
第一章
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#001 プロローグー開かれし戦端ー

2016年4月10日

2016年10月21日

 

 僕は鈍色の空を見上げていた。


 魔界の空はいつ見ても分厚い雲に覆われていて、すっきり晴れた試しが無い。


 雷がたまに光るけれど、不思議と雨は降らない。


 随分見ていない空の青さが恋しい。



 そんなことを考えているうちに首が痛くなってきたので、僕は視線を前へと戻す。


 視界いっぱいに広がるのは、だだっ広い荒野だ。


 乾いた大地を見ているうちに、今度は雨が見たくなってきた。


 ここまで見事に乾いた大地を潤わすには、ずいぶん時間がかかるだろうが。



 そんな乾いた荒野の果てに、土煙が上がっている。


 まだずいぶんと距離があるようだけれど、もくもくと大きく立ち上っているのが見て取れる。


 乾いた大地は土煙も上がりやすい。


 しかしこれは、あまりよくない。


 相手の存在を確認してから、ずいぶんと時間が経った。


 土煙がもっと穏やかだったら、僕はこんなに長い間、緊張を維持している必要は無かったんじゃないだろうか。


 寒いし、怖い。


 身体はもう、ずっと前から震えている。



 土煙の正体は千の死霊の軍勢だ。


 僕は、それと対するために一人待ち伏せをしている。



 待ち伏せと言っても、待っているだけで伏せてはいないので、正確には待ち立ちというのかもしれないけれど。


 いやいや、もっと言えば行軍の道行きをふさいで仁王立ちしているので、待ち仁王立ち状態だ。ふはははは。


 もし、相手が死霊の軍勢ではなく大名行列だったら、不敬罪で打ち首獄門待ったなしという感じ。


 まぁどちらにしても、死に向かっているという点では大きな違いは無いような気がするけれど。



 それに、目の前の軍勢には、大名の代わりに魔王がいる。


 彼女のことだから、おとなしく守られて籠で移動なんてことはないだろう。


 それどころか、先陣を切って、先頭を歩いているかもしれない。



 いや、僕は確信しているのだ。彼女が先頭を歩いていることを。


 もし、彼女が一番後ろを歩いていたら。


 一番後ろの大魔王だったら、僕は彼女に会う前に死霊を千体相手取らなければいけなくなる。


 それは、結構しんどいと思う。



 僕の右手には愛用の黒刀。


 よく見れば小刻みに震えているし、掌が汗でじっとりと濡れている。



 黒刀を地面に突き立てると、音もしないのに、深く地面に刺さった。



 僕は自由になった右手の手袋を左手で外して、ズボンで汗を拭う。



 風が冷たい。


 外した手袋をすぐに付け直さないと、指が悴んで動かなくなりそうだ。


 荒野には風を遮るものが無いので、僕は絶えず冷たい風にさらされている。


 コートの裾がバタバタとはためく。



 しっかりと手袋をはめて、もう一度、黒刀を握りなおす。


 抜くときもまた、音がしない。


 この黒刀は、僕にはもったいない業物だ。


 これを打ってくれたおっちゃんの顔を思い出す。


 それから、おっちゃんの奥さんを


 ギルドで働く彼女を


 おっちゃんの娘の少女を


 愛すべき猫耳の奴隷少女を


 チャラ男を


 お転婆姫を


 動く鎧を


 そして、魔王である彼女を。



 

 土煙はもう、ずいぶんと近くに見えるようになった。


 潮騒のような足音が少しずつ大きくなって、聞こえてくる。



 

 望むものは日常への帰還。


 これは、自分で選んだ道だ。



「僕は、その『お約束』には従わない」



 体の震えは止まっていた。

2016年4月10日

2016年10月21日:表現、誤字など修正しました

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