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その7 オリジナリティについて ②

 続いて『オリジナリティのある能力』について考えてみよう。

 能力――つまり、その人間はどのように強いのか(、、、、、、、、、)


 さて、これまで『チート』という名前で、能力という名の能力はとことんまでに開拓され尽くしている感がある。能力はキャラがストーリーを動かす原動力でもあるので、『なろう』作者の方は例外なくここで頭を捻っているはずなのだ。


 ひとまず、『オリジナリティ』から最もかけ離れてしまうと思われるのは、『全知全能』だろう。

 すべての魔法を使える、どんな武器もマスターしている、あらゆる生物を従える――「何でもできる」は、『チート』として100%全員が考える(、、、、、、)、没個性の極みだ。

 また矛盾しているようだが、欠点のない能力というのは、物語が成り立たない(、、、、、、、、、)という『最大の欠点』を抱えているのだ。


 別に、一風変わった能力である必要はないのかもしれない。

 例えばオーソドックスな「火を操る能力」だったとしても、その力の原理(メカニズム)を突き詰めると、色々と変わった設定に発展させることができる。

 「魔法で火を出している」「火のドラゴンと契約している」なんて直球なものから、「全身が火打ち石でできていて、身体のどこかを擦るだけで火を起こせる」とか、「溶岩を食べたら身体からマグマが出るようになった」とか、「実は巨大な虫めがねで太陽光を集めていただけ」なんてオチでもいいのだ。


 むしろ、『能力』そのものよりも、その『能力』でどのように活躍するのか。そういった『発想』こそが『オリジナリティ』の見せ所なのかもしれない。

 炎の魔法で敵を焼くなんざ誰でもできる。

 剣で敵を薙ぎ払うなど誰でもできる。

 でも、巨大虫めがねで太陽光を集めて敵軍を焼き払った作品は、未だかつて(多分)ないはずなのだ。





 武器ひとつとってもそうだ。どのような武器を使うかによって、キャラの特徴や戦闘スタイルだって多岐に渡る。

 重さは? 長さは? 持ち運びのし易さは? どんな敵に有効でどんな敵には通じないか? などなど。

 さっきと同じく、ここでも「どんな敵にも確実に通用する万能武器」を作るのはオススメしない。複数の武器を使い分けるならまだしも、日本刀一振りでスライムから魔王まですべて倒せてしまっては、特徴も何もあったもんじゃない。

 それは戦術・戦法といったものを無視する行為に等しいので、バトルシーンが極限までに「無意味」と化す。戦いがすべて「○○を斬った。倒した」で終わってしまうのだ。

 

 能力や武器の考察において面白いのが、「長所の数だけ短所ができる」点だ。

 日本刀で言うならば、「(西洋剣に比べて)軽く、少ない力で振ることができる」「切れ味が鋭い」という長所がある反面「軽い武器のため、岩や鉄などの硬質な敵に通じ辛い」「切れ味を維持するため、こまめな手入れが必要」といった短所も生まれるわけだ。

 戦いにおいては、長所の生かし方だけではなく、短所との向き合い方(、、、、、、、、、)の描写だって大切なのだ。


 例えば、8番で出た『創造魔法』による武器召喚。

 これも長所と短所の兼ね合いによって、色々と設定を深く詰め込める。

 自作品でも同じような設定を使っているので、例として挙げよう。

 長所は「どこでもすぐに武器が取り出せる」「一度壊れてもまた再構築できる(消耗品として運用できる)」「使用者の想像力(イメージ)次第で、どんな形状でも作り出せる」といったところ。

 短所は「形状・重さ・材質など、常にその武器の詳細な情報を頭に意識していないと維持できない(設計図を常時頭の中に展開するイメージ)」「精密機器(銃火器など)は創造の難度が高い」「意識の大半を武器の構築に持っていかれるため、考え事をしながら戦うような形になり集中できない」「精神力で作り出すため、破壊されると使用者にもダメージ」となっている。

 

 短所への対策、または克服といった描写は、物語の進行にも上手く絡めやすいのだ。

 シンプルな例を出すと、


「洞窟の入り口に大岩があって入れない」→「自力では動かせない(壊せない)のでアイテムを使おう」→「家に帰って、色んな道具を使って爆弾を作り、洞窟に入れるようになった」→「よし、足りない力は作ったアイテムで補えばいいんだ!」


 と、ひとつの短所が露呈したことでこんな一場面が作れるし、主人公の戦い方を定めるきっかけにもできる。

 長所ありきだと、この描写がなかなか出せないのだ。

 

 『テンプレ』小説においては、てっとり早く快適に物語を進めるために、武器や能力から徹底して『短所』を排除する傾向が強いが、実際は、物語を作るには(、、、、、、、)『短所』がないとまともに成立しない。

 目安としては、物語開始してチートを貰ってすぐに、感想欄で「その能力あったら簡単に世界最強になれるじゃん」と言われたらアウトと思うべきだ。

 この感想が来るということは、事実上その時点でゲームクリアしているに等しい。

 最強を約束された状態で、悠長に薬草積みやゴブリン退治をしたところで茶番と化してしまうのだ。


 ――だって、どうせ勝つんでしょ(、、、、、、、、、)


 この感想は事実上の死刑宣告だと、私は思う。

 コメディや短編、または主人公を絶対的な支配者として描く物語ならともかく、これで主人公の『成長』を描く大長編だと……結果は推して知るべしだ。


 この辺りのバランスが特に秀逸な作品としては“この素晴らしい世界に祝福を!(著 暁なつめ)”だろうか。『なろう』発の書籍化作品、アニメ化もされる異世界コメディだ。


 異世界転移、ゲームのような世界、ステータスの概念など、あらゆる点で『テンプレ』設定を踏襲しているが、ここまで『オリジナリティ』溢れる設定も珍しい(商業化もされているので、あくまでざっくり紹介です)。

 主人公は誰でも使える初級魔法をちょっとした機転で活用して戦うが、最低クラスの能力しかなかったり。

 仲間の少女は最強の攻撃魔法を使えるが、一発撃ったらすぐ気絶するほどに燃費が悪かったり。

 騎士の女性は無敵にも等しい鉄壁の守りを持つが、攻撃がてんで当たらないノーコンだったり。

 僧侶役の女性は高い魔法能力を持っているが、グータラで考えの足りない――いわゆる『アホの子』なので、力が生かせない場面の方が多かったり。

 長所はもちろん戦闘面で、短所は短所でキャラどうしの駆け合いやコメディパートで生かされているため、私の中では「長所も短所もすべてそのキャラの『見せ場』に昇華させたお手本」となっている。





 いっそ能力においては「オリジナリティを求めない」、というのもひとつの選択肢だ。

 ファンタジー世界の剣士を主人公にするのであれば、あくまで剣一振りだけで物語を進めていくという方向性だってもちろん正解である。

一種の『王道』『正道』とも言える展開にしたい場合は、むしろ既存の能力でやりくりした方が形になり易いだろう。

 この場合は、前話の「キャラとしてのオリジナリティ」を強く出していく『人間ドラマ』や、後述する「ストーリーとしてのオリジナリティ」を強く出して『戦記』や『謎解き(ミステリー)』に近い方向性に持っていくのも面白いだろう。





 そして最後に『名前』。

 能力の名前、武器の名前は、作者のセンスが思いっきり形に出る厨二病(もしくは黒歴史?)の表現の場となっている。

 武器や能力に名前を付けるのは、別に義務ではない。名前が物語の進行に直結することはあまりないからだ。

 よって、「名前を付けない」選択は大いに正しい。物語上に不要なものとして削ってしまうのは間違いなく正解だ。


 どちらかと言うと、これは小説作りに必要な部分というよりは、いわば作者の『こだわり』のようなもの。名前を知らなくても、知っていればちょっとした発見や「おっ」と言えるような小さな驚きを与えられる要素だ。

 しかし、「名は体を表す」とも言う。

 それ自体の特徴、その名を付けた経緯などから、その能力・武器が作られた背景を読み取ることができたりもするので、あまり軽んじることも良くないだろう。

 特にステータス表記がされる作品では、『装備品』として武器防具、または能力(スキルとも呼ぶ)の名前を明記することになるわけで、おいそれと名付けの責務を放棄することもできない。

 名付けには色々なパターンがある。


1. 実在している物・既存の伝承に登場する物などをそのまま使う

 アーサー王物語の聖剣『エクスカリバー』、妖刀『村正(むらまさ)』、ギリシア神話・女神アテナが身に付けていた防具『イージス(アイギス)』などが有名だろう。


2. その武具能力の特徴を名前に変換する

 火の玉が出るから『ファイヤーボール』、ミスリル製の剣だから『ミスリルソード』、竜に対して高い効果を持つから『ドラゴンバスター』などなど。


3. その他

 既存の単語の組合せ、あるいは造語。とことんまでにオリジナルを追求した名前。

 『エターナル・フォース・ブリザード(効果・あいてはしぬ)』などはまさしくこれだ。


 2番の名前については、あまり意識する必要はないだろう。

 ベタと言われることもあるだろうが、堅実かつ確実な名付けなので間違いはない。ゲーム形式の世界観で、かつ名前の設定に四苦八苦したくない方は迷わず2番を押し通そう。


 1番の名前で気を付けたいのは「原典に対する理解があるかどうか」だ。

 基本的に、実在する武器の名前を引用する際は『願掛け(リスペクト)』か『別物(アレンジ)』として名付けるのが適当だ。

 『願掛け(リスペクト)』の一例は、『イージス艦』など。あらゆる外敵からも国を防衛するという意思を込めて、『イージス』の名を戦艦に冠したと思われる。人型ロボットなどの兵器に名付けられることも多々ある(『円卓の騎士』系列の名前は特に多い)。

 『別物(アレンジ)』の一例としては、擬人化(ぎじんか)だろうか。

 某ソーシャルゲームなど、実在の武器の名前をそのまま人間のキャラに適用させるケースも最近では珍しくない。

 そのどれもが、基本的には原典(オリジナル)に伝わる逸話や伝承などを元にして、『イージス』なら『防衛』といったように、名付けた物にもそういった背景を反映させている。だからこそ、その名を付ける意味があったと理解もできるわけだ。

 だが、「光属性最強の剣=エクスカリバー」といった発想は、いわずもがな某大作RPGの設定が元となっている。ダメなわけではないのだが、この発想に『オリジナリティ』の欠片もないことは言うまでもない。


 3番はとにかく「言葉のバリエーションを多く持つこと」「被らないこと」の2点に尽きる。

 武器・能力におけるオリジナル名は、何かしら規則性を持たせてみても面白いかもしれない。

 私の拙作では、兵法書に書かれた陣形の名前をモチーフにそれぞれの武器名を考えたり、宝石の名前を魔法名にしたりしている。……あんまりこういう場で披露するものでもないので、興味がある方は本編でご確認ください。

 こればっかりは、もう、読者様に叩かれながら試行錯誤してくださいませ。

名前に対して「ダサい」「寒い」なんて感想は、よりよい名前を生み出すための原動力さ! 泣くんじゃないよ!!





 余談となるが、この『名前』における『オリジナリティ』は、むしろキャラにおいてこそ重要なのかもしれない。

 物語に没入できてしまえばネーミングセンスなどあまり問題にはならないが、登場人物が多い作品においては、個性ある名前は、誰のことを指しているのかを一発で示すアイコンとなる。

 では、悪い例を作ってみよう。


「アリシアさん、この服似合いますね」

「そういうエリシアこそ、その服バッチリ似合ってるじゃない。あ、アリアかわいいー!!」

「ルーシアさんに言われるがまま着てみたのですが、似合ってますか?」


 もう、誰が誰だか。

 ファンタジーものにおいて、横文字の女性の名前で「あ行」と「ら行」の組合せは魔の領域だ。主に「~シア」「~リア」、また「~エル」といった名前である。

 断言していいが、異世界ファンタジーの作品で、こういった名前の女性キャラが登場しない作品はほぼない。別に名前が悪いのではなく(私だって一部使っているし)、似たような名前のキャラが似たような言動をするのが問題なのだ。

 だが、作者には名前を付けたキャラに思い入れもあるだろうし、ダメとは言えないのが現実。

 少し名前を捻ってあげるか、強烈なキャラ設定(自己主張とも言う)を反映させてあげることをオススメしたい。


感想でのご指摘もありましたので先に記載しておきますが、何も『オリジナリティ』を追い求めることが正解ってわけではないです。次の回で総括をします。

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