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番外編2 とある作家の小説構想の風景

 今回も番外編ということで、考察は少しお休みだ。

 休憩がてら気軽に読んでみて欲しい。


 今回のテーマは『構想』である。

 さぁ小説を書こう。じゃあどうしようか――となると、兎にも角にも中身を考えないといけない。

 まずは自分の頭の中でキャラクターや設定、世界観を作り出す。『構想』なくしてはまずまともにペンも握れないわけだ(web小説だからキーボードかタッチパネルだろ、なんて野暮なツッコミはなしだ)。

 と、言うわけで。

 ちょっとしたテスト企画として、今回は私が現在(2016年2月時点)構想中の“ファンタジーもの(仮題)”の設定ができあがるまでの過程を、なんちゃってドキュメンタリー形式でお送りしよう。

 参考にしていただくもよし、「バカじゃねーの」と一笑に付していただいてもよしだ。

 その1~3における『テンプレ』小説作りの過程と見比べてみてもいいかもしれない。





 きっかけは昨年(2015年)の9月あたりだったかと思う。

 当時は“AL:Clear”一本の連載だったのだが、そろそろもう一本くらい別の方向性の物語を作ってみようかと思い立った。

 当時の活動報告にも載せてはいたのだが、ここでは『コメディ』か『ファンタジー』のどちらかで迷っていた。

 結果的には“フルールルール”というコメディ重視の作品となったのだが……こっちの話は割愛する。“AL:Clear”と世界観を共有する“フルールルール”の方が先に仕上がったというだけの理由だ。

 しかして、『ファンタジー』を書くという意識が消え去ったわけではない。

頭の片隅で、まだ顔も名前もぼやけたままの騎士やお姫様が叫びかけてくるのだ――「はやく私たちを表に出せ!」と。

 架空小説(フィクション)とは、自分の頭の中にしかいないはずの住人たちを、小説という現実の舞台(、、、、、)に立たせてあげることだ。

 そんなキャラたちの声無き叫びに後押しされつつ、私は『ファンタジーもの(仮題)』の構想に取りかかったのである。





 10月。

 さて、いざ作るとはいえ私は結構なひねくれ者だ。

 “AL:Clear”でも形にしているつもりだが、既存のものをそのままなぞるような設定・展開を望まない。何かしらの外連味(けれんみ)と言おうか――人気がどうこうというよりは、他人がまず作らないような作品にしたかった。

 前提条件として、現代日本ではなくファンタジー世界が舞台であること。

 日本人の異世界転生・転移を使わない。

 俗にハイ・ファンタジーと称される世界観を基準にするつもりだった。

 

 次に、作品の根本的なテーマも決めておきたかった。

 小説を通して、作者はいったい何を伝えたいのか。

 “AL:Clear”であれば『進化』、“フルールルール”は現時点では分かり辛いだろうが『再出発』がメインテーマとなっている。

 “ファンタジーもの(仮題)”において、絶対出したかったのが騎士とお姫様――要するに主従関係だ。

 2人のうちいずれかを主人公に挿げることは初期段階で確定させていた。

 身分を越えたラブロマンスなんて展開もいいのが、どちらかというと優先したかったのは『騎士道』や王族としての義務感――ノブレスオブリージュといった強い精神性の表現だ。

 騎士にも王族にも、貫き通したい道がある。

 ならばということで、メインテーマを『求道(きゅうどう)』とすることにした。これが物語における屋台骨となる。





 11月。

 ここから具体的なキャラクターや世界観の肉づけに入る。

 『求道』の物語において、少なくとも『旅』は必須としたかった。

 最初は異世界『テンプレ』の作品群を参考にしていたのだが、どうにも新鮮味が足りないか、という気持ちになってきた。

 ゲーム的な異世界をぐるりと旅するという展開は、確かに世界観次第でいくらでも『オリジナリティ』は表現できるのだろうが――「異世界を旅する」という概念自体が『テンプレ』に固まってしまっている感覚もあった。


 並行して主要人物の設定も詰めていたのだが、少なくとも騎士の男性に関しては『主人公最強』タグを付けてもいいくらいのキャラにするつもりだった。

 “AL:Clear”と同じバトル要素を入れるのであれば、これまでのような『弱者対強者』の構図ではなく、『強者対強者』のバトルを描きたかったのもある。

 これまで10代の少年少女の主観ばかりで書いていた反動か、『大人』を書きたくなったのだ。そのため、騎士の男性は20歳前半くらいと考えた。

 逆にお姫様に関しては、自分の道に悩んでいる状態にしたかったこともあり、10代後半に。


 で、騎士とお姫様が一緒に旅をするという展開――これをどうにかして実現させたかった。

 いくつか案はあった。


 王国を魔物に滅ばされ逃げ出すお姫様と護衛の騎士――アウト。

 物語としての出来はともかくとして、旅と言うよりは戦記寄りの話になってしまう。


 お忍びで城を抜け出したおてんば姫と、それに頭を悩ませる騎士――これもアウト。

 この物語では「王国は恵まれていて平和である」という前提がどうしても含まれてしまう。旅に至る動機づけがどうにも弱くなってしまいそうだ。安全が保障された気楽な物見遊山で『求道』など語れるか。


 荒廃した世界を蘇らせるために、奇跡を起こすアイテムを求めて旅に出る王女とそれに付き従う騎士――あ、これならいけるかも。

 何も動機を「国家の危機」に限定する必要はない。

 本編開始前の時点で、大きな戦争なり天変地異なりで世界中がボロボロになった環境。それを何とかするために、王国のお姫様が立ち上がる――ヒロイックファンタジーとしては結構王道とも思える。

 お姫様自身が危険な旅に出る理由としては、それこそ神の祝福のような『チート』を授けてしまえばいいわけだ。『チート』でなくとも、お姫様しか世界を救えないという展開に持っていくためのオンリーワン的な要素を入れればよい。

 立場や状況は違うが、神の声を聞いて戦場に立ったジャンヌ・ダルクのようなイメージだろうか。





 物語の大筋ができたところで、次はキャラの細かい設定だ。

 王女様の設定は大よそ固まったが、騎士に関してはもうひと捻り欲しかった。

 姫の近衛としてずっと仕えていたという設定でもよかったのだが、『最強』のタグを付与するキャラとしては、できれば経験豊富な在野の人間である方が望ましかった。

 そもそも……主従関係にはいろんな形がある。

 姫と騎士の主従はもちろんのこと、貴族とメイドの関係だとか、時代劇においては武士と大名の関係だってそうだ。

 単にお姫様に忠誠を誓う騎士、というのも面白みがない。

 何か参考になるものはないかとネットで検索していると――なぜか前回にも登場した“東方Project”の作品(といっても二次創作だが)に行き着いていた。『主従』というワードでどうして……とも思ったが、そういえば主従関係のキャラが結構いたな、と思い出した。

 あんまり参考にし過ぎると『オリジナリティ』が吹っ飛ぶので、あくまで主従の人間関係や距離感といったものを主に取り込んでみることにした。

 結果、完成したのが……お姫様とそれに付き従う歴戦の傭兵と、その傭兵に弟子入り志願する女剣士の3人組だった。


 ――ど・う・し・て・こ・う・な・っ・た?


 もはや自分でもよく覚えていないのだが、いつの間にか主従関係というか上下関係が2種類形成されてしまっていたのだ。しかも頭の中でよく動くんだこの女剣士!

 こうなってはもう後には引けないので、3人とも設定を詰めていくことにした。





 12月。

 世界観の詳細を考えてみることにした。

 姫と騎士の関係をブレさせないためにも、少なくとも西洋ファンタジーの基準は外したくなかった。

 さりとて、そのまま押し通しては文字通り『テンプレ』的な内容に動いていくため、昔のように途中で挫折する可能性が出てくる(西洋系の世界を書くのがホント苦手なのだ)。

 そうやって悩んでいたとある日曜日。

 ぼうっと日曜朝の特撮番組を見ていたら……ちょっとしたアイデアが浮かんだ。

 仮面ライダーシリーズは(と言うより日曜朝の番組はすべてか?)、同じ系列の作品世界を繋げたセルフコラボのような展開があったことを思い出した。

 つまり……いっそのこと、複数の異世界を渡り歩くような展開にすればいいんじゃないかと。

 意外とメリットは多そうだった。


 その1。

 「いくつもの世界を渡り歩く」というストーリーラインの都合上、ひとつの世界に対してそこまで文化経済など細々とした情報を入れる必要性が薄くなること(無論、無くてもいいわけではない)。


 その2。

 『テンプレ』的な発想で、オムニバス形式で新しいストーリーを世界ごと(、、、、)継ぎ足していける。

 それなりの整合性は求められるが、ファンタジー世界を歩いていた次の回に、機械が支配する未来の世界を持ってきたっていいわけだ。読者に展開を先読みさせないようにする効果も期待できる。


 その3。

 種族も思考もまったく異なる多様なキャラクターを用意できる。これが一番強かった。

 世界が違えば文化が異なり、常識や価値観だって大きく変わる。

 『テンプレ』においては、カルチャーギャップは現代日本・異世界という2つの世界でしか比較されなかったわけだが、それが3つ4つと増えていくわけだ。

 当然のごとくキャラごとに衝突はあるだろうが、むしろそれこそが狙いだ。

 異なる世界の価値観を持つ人たちが一致団結して進んでいく展開というのは、嫌が応にも各キャラクターの精神性に深く切り込めるし、衝突しながらも仲間として分かり合っていくという流れは間違いなく熱い(、、)


 ……しかし、これ絶対に難易度は高いよなぁ。

 だが、ここで手を抜くようではまともな話など作れまい。

 設定厨の血が騒ぐわ!!





 2016年1月。

 それぞれの異世界の環境と、そこに暮らすキャラクターとのすり合わせ(マッチング)を行う。

 なんのこっちゃ? とお思いの方もいらっしゃるかもしれないので補足を。

 厳密に言えば、「そのキャラクターが持つ考え方、常識、価値観といったものが、その異世界で育ってきた者として成り立つかどうか」だ。

 『テンプレ』小説の場合、転生・転移のない現地人が主人公の作品でまれに見られる現象だが、ファンタジー世界の住人であるはずの主人公が「あの敵……まるで戦闘機みたいに速いぞ!」なんて口走ったり、『チート』なんて言葉を知っていたりする。

 こうなると設定が矛盾してしまうわけだ。幻想世界の住人の頭の中が完全に現代日本人になってしまっている。キャラと世界のすり合わせ(マッチング)を怠るとこういうことになるので注意だ。


 この時点で決定されていたキャラは、主人公のお姫様(女主人公で行くつもりだ)、騎士(というか傭兵)、女剣士、妖精、力こそすべてな武士(もののふ)

 お姫様と騎士以外のメンバーは、それぞれ違う世界の住人だ。よって、最初からそう簡単に円滑なコミュニケーションが取れないようになる(まず言語の壁に苦しむこととなるだろうが、これは別枠で解決策を提示)。

 これで出会いから仲間になるまでのプロセスにも幅を出せる。会って、助けて、惚れられて、仲間になりました、なんてベタな展開は1回あれば充分だろう。

 交友以外にも、衝突や共闘、利害関係といった要素を入れつつ、様々な思惑で主人公に同行する流れとしていきたい。

 『テンプレ』ファンタジーにおいては、主人公をピラミッドの頂点とし、その他の仲間が全員横並びという展開が多いが、これは避ける。何かしらのイベントで主人公が抜けてしまうと、一気にチームが崩壊する可能性が高いのだ(それはそれで立派なストーリーになるが、ここでは相応しくない)。

 そもそも、主要人物をみんな我の強いキャラで構成すれば、こういった『主人公:その他』というピラミッド構成は自然と誰かが否定してくれるはずだ。


 そしてパワーバランス。

 これは……そこまで悩む要素はなかった。

 仲間を増やして次の世界へ、という方向性にする以上、少なくとも「1人で何でもできる」キャラは、冒険という醍醐味を一瞬で台無しにしてしまうので却下だ(器用貧乏としての評価ならむしろ適切かもしれない)。

 これまでの考察でも述べた通り、『全知全能』レベルのキャラがいると、話に起伏も何も作れたものではない。「じゃあお前1人で全部やってこいよ」ですべて解決だ。

 世界をまたにかけた冒険ファンタジーが30,000字以内の短編で終わりかねない。

 仮に自分の世界では最強だったとしても、別の世界ではそうとは限らない。ワールドワイドを超えた視点で見れば、あらゆる『主人公最強』のキャラは、すべて井の中の(かわず)と言ってしまってもいい。

 「え、そんな小さな世界の中で最強名乗ってんの、ウケるー♪」という意識のもと、主人公たちには世界を巡るごとに強敵と苦難のフルコースをごちそうしていくことにしよう。

 それでもなお、折れずに立ち上がるからこその『最強』なのだということを表現したいものだ。





 2月。

 主要人物と世界観の構成はほぼ固まった。

 ストーリーラインも概ね決まってきたが、スタートとゴールに関してはもっとしっかりと練りたいところだ。


 そろそろタイトルを考えてもいい頃合いだろう。

 とりあえず……タイトルに『異世界』というワードは絶対使わない(、、、、、、)

 『なろう』ランキング及び書籍化された作品において、『異世界~~』とか、『異世界で○○になって××しちゃいました』とか、似たようなフレーズのタイトルが多いにも程がある(サブタイトルに入れる程度ならまだ問題はないだろうが……)。

 そりゃあ、一見して内容が理解できるような配慮であったり、それによって購買層の興味を惹こうとする意図は分かる。作者とて出版社とて、読者の目を惹き付けるための処置としてある程度意図的にそういったネーミングにしているのだろう。

 だが、本屋さんのライトノベル新刊コーナーで、『異世界~~』というタイトルがずらりと並んでいたところで、ほとんど見分けがつかないのは私だけだろうか。

 Google検索したら似たような名前の別作品がゴロゴロ出てくるようなタイトルで本当にいいのだろうか。

 以前、『異世界チート~~』というタイトルだった2冊の書籍が同じ時期に発売されているのを見たが、各作品の作者はそれでいいと本当に思っていたのだろうか?

 作者や出版社の意図が色々と本末転倒になっているようにしか思えないのは私だけだろうか!!

 ……どうでもいい話だが、『テンプレ』系に限らず、他の商業作家さんが出されている小説のタイトルも似たようなフレーズが多い。「○○(大体が漢字)の××(大体が漢字にカタカナの当て字)」、こんな感じ。もうちょっとなんとかならなかったのだろうか……と、割と真面目に思った。

 

 “AL:Clear”然り“フルールルール”然り、他の誰の作品とも被らないタイトルにしたかったというのは今回も同様だ(連載開始前に、一応検索エンジンで被ってないことは確認している)。

 昨年(2015年)に話題となった、お笑いコンビ『ピース』の又吉直樹氏の“火花”のように、ひとつの単語でド直球に行くのもいいだろう。たった一言に物語のすべてを集約している、印象深いタイトルだ。

 村上龍氏の“限りなく透明に近いブルー”など、どこか深みがあるタイトルも捨てがたい。タイトルだけで小説の内容を読み取るのではなく、最後まで読んでもらって初めてタイトルの意味が理解できる、といった手法になるのだろうか。

 『なろう』作品であれば、柳野かなた氏の“最果てのパラディン”なども非常に良い。

 少し読んでみればそのタイトルが主人公のことを指しているのはすぐに分かるが、読まないと分からない(、、、、、、、、、、)ギリギリのラインを攻めているのが何ともニクい。

 どれも一度目にしたらすっと頭の中に入って忘れられないタイトルばかりだ。

 ここは時間をかけて悩みたいところだ。ある程度本編を書き進めて(ストックして)から考えてみてもいいかもしれない。





 後は主要人物以外のキャラの設定など、詳細を固めていけばプロットとしては概ね形になるだろう。

 『テンプレ』のわんこそば形式で、世界とキャラを追加できる振り幅も持たせたので、連載中に新しい展開を思いついてもすぐに差し替えや継ぎ足しに対応できるようにした。前回の『二次創作』の総括で記述した、次の『テンプレ』の流れを幾ばくか意識した結果となる。


 別段、今回の内容に対して何かご感想を求めることはない。

 見ず知らずのアマチュア作家の構想風景を見せられたところで、いったい何を言えという話でもあるのだが……

 最初の通り、これは考察の体を成していないので、ここに出てきた私の意見には根拠なんて上等なものはほとんど備わっていない(タイトルに至っては単なる我が儘だ)。

 それでも、皆さまの執筆活動の一助になるようであれば幸いだ。


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